労働問題117 注意指導するとパワハラだと言い返す問題社員の対処法

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この記事の要点

パワハラと言われても逃げない——逃げると「ちょろい上司」と思われる

正当な注意指導をしているにもかかわらずパワハラだと言い返される場面は多い。そこで逃げてしまうと「言い返せばすぐ引く」と学習され、サボりや嫌がらせがエスカレートする。明らかに問題のある言い方をしたならすぐ直す、そうでなければ逃げない

パワハラかどうかは客観的に決まる——「相手がそう思ったら」は誤り

「相手がパワハラだと感じたらパワハラ」は全くの誤り。パワハラかどうかは客観的に——同じような立場の労働者がどう感じるのが普通か——で決まる。相手の主観は一つの考慮要素に過ぎず、それが基準ではない

議論の対象は「評価」ではなく「事実(5W1H)」

調査・聴取の場で「パワハラしましたか」と聞くのは不毛。「何月何日の何時頃、どこで、誰が、誰に、どんな風に何をやったか」という事実を確定することが先決。事実が確定すればパワハラかどうかの判断ができる

白か黒かではなく「点数」で考える——ギリギリセーフを目指さない

注意指導の質は0点から100点の点数で考える。42点(ギリギリパワハラでない)は少しの誤解で38点(パワハラ)になる危険がある。目指すのは80〜90点の効果的で適切な注意指導。ギリギリを狙うと改善もしないし裁判でパワハラと言われやすい

01パワハラと言われても逃げない——逃げることの危険性

 まともな注意指導をしているにもかかわらず、「パワハラだ」と言い返してくる社員は、実際に多くいます。どこが問題なのかもあまり具体的に言えないのに、とにかくパワハラだと上司を威嚇して注意指導しにくくさせる——そういった困った社員が一定数います。

 そのような場面で最も大事な心構えは、パワハラと言われても逃げない、ということです。

 もちろん、自分の言い方や対応に明らかに問題があったと感じた場合はすぐに直さなければいけません。しかし正当な注意指導をしているにもかかわらずパワハラだと言われた場合に、そこから逃げてしまうことは非常に危険です。

逃げると「あの上司はちょろい」と学習される

 パワハラだと言い返されただけで注意指導を止めてしまうと、相手は「言い返せばすぐ引いてくれる」ということを学習します。その結果どうなるでしょうか。言い返したり威嚇すれば何でも通ると思い始め、仕事をサボり始める。さらにひどくなると、自分の気に食わない同僚に嫌がらせをしたり、めちゃくちゃなことをやり始める社員も出てきます。

 一度逃げてしまうと、職場の秩序を回復することが格段に難しくなります。パワハラと言われた瞬間に、「本当に問題があったのかどうか」をしっかり判断することが最初の分岐点です。

02管理職がパワハラと言われた場合の経営者の対応

 「パワハラと言われても逃げない」という議論は、管理職が部下からパワハラだと言われた場合の経営者の対応にも直結します。

 部下から「あの上司にパワハラされた」という訴えがあったとき、その管理職をすぐにマイナス評価することは間違いです。「パワハラだと言われた管理職がいる」という事実だけで処罰してしまうような対応はやめてください。

 大事なのは、実際に一体何があったのかをよくよく調べることです。調べた結果、確かに問題のある言動があったということであれば直させなければいけませんし、場合によっては懲戒処分を検討することもあります。しかし調べてみてしっかりまともな注意指導をやっていたという前提であれば、むしろその管理職を応援・支援しなければいけません。これが経営者の役割です。

 誰かが「パワハラされた」と申告しただけで、それを真に受けていきなり処罰してしまう——そんな対応をしていると、真剣に注意指導をしようとする管理職がいなくなってしまいます。事実関係に応じた適切な対応を心がけてください。

03パワハラかどうかは客観的に決まる——「相手がそう思ったら」は全くの誤り

 「相手がパワハラだと感じたらパワハラ」という話を聞いたことがありませんか。これは全くの誤りです。パワハラかどうかは客観的に決まるものであり、相手がどう感じたかで決まるものではありません。

 仮に「相手がパワハラだと思ったらパワハラ」が本当だったとすると、こんな会話が成立してしまいます。上司が正当な注意をした。部下が「先輩、それってパワハラですよ」と返す。「どこが問題なんだ」と聞くと「相手がパワハラだと思ったらパワハラって聞いてます。私はパワハラだと思いました。だからパワハラです」——そうなれば、上司はもう何も注意指導できなくなってしまいます。こんな理屈がまかり通るわけがありません。

客観的=同じような立場の労働者がどう感じるのが普通か

 パワハラかどうかの正しい基準は「客観的に」です。具体的には、同じような立場・状況にある労働者がどのように感じるのが普通か、という基準で判断します。相手一人の主観がどうであるかは、判断の一つの材料にはなりますが、それが基準にはなりません。

 「相手がパワハラだと思ったらパワハラだ」という誤った思い込みにとらわれていると、問題のある社員に対してまともな注意指導が一切できなくなってしまいます。この誤解を早急に解いてください。

04議論の対象は「事実(5W1H)」——「パワハラかどうか」を聞いてはいけない

 ハラスメントの相談や調査の場面で、不毛な議論がなされていることがあります。被害を訴える方は「パワハラされた」と言い、上司に確認すると「パワハラなんかやっていない」と言う——パワハラかどうかという評価をぶつけ合うだけで、議論が全く噛み合わないパターンです。

 調査の時に「パワハラをやったのですか」「パワハラされたのですか」という聞き方をしてはいけません。

事実(5W1H)を確定することが先決

 重要なのは事実です。いつ・どこで・誰が・誰に・どのように・何をやったのかを確定することが先決です。事実が確定してしまえば、それがパワハラに当たるかどうかの評価は後からできます。

 例えば加害者とされる方に事実を確認する際は、「〇月〇日の〇時頃、〇〇で、あなたから〇〇さんが〇〇と言われたと言っているが、それは本当ですか」という聞き方をしてください。事実について「本当かどうか」を問う形にすれば、議論が噛み合いやすくなります。

調査・聴取での聞き方の原則 ✗ NG:「あなたはパワハラをやりましたか」「パワハラだと思ったから言っているんです」

○ OK:「〇月〇日の〇時頃、〇〇という場所で、○○さんに対して、こういった言葉を言ったと聞いていますが、それは本当ですか。本当でないとすればどういう経緯があったのですか」

 実際に言った言葉・やったことがはっきりすれば、パワハラかどうかの評価はそこから判断できます。評価を質問するのではなく、事実を確定させる調査を徹底してください。

05白か黒かではなく「点数」で考える——ギリギリセーフを目指さない

 「これはパワハラですか、パワハラではないですか」という質問を受けることが多くあります。多くの方がパワハラかどうかを白か黒か、アウトかセーフかの二択で考えています。しかしこの考え方は危険です。

注意指導の質を「0点〜100点」で考える

 注意指導の質は、0点から100点の間のどこかにある「点数」で考えてください。例えばパワハラが0点から40点の範囲だとします。ある弁護士に相談して「あなたのやり方は42点。パワハラではない、ギリギリセーフ」と言ってもらったとします。しかしちょっとした事実関係の勘違いがあれば38点になり、一気にパワハラとなってしまいます。

 ギリギリセーフの42点と、余裕の90点では、安全性も教育効果も全く違います。目指すべきは「ギリギリパワハラではない」ではなく、「教育効果が高く、パワハラとも言われない」80点・90点の注意指導です。

高い点数の注意指導とは何か

 点数の高い注意指導の核心は、「勤務態度が悪い」「協調性がない」といった評価的な言葉ではなく、「何月何日の何時頃、どこで、あなたは誰に対してどんなことをやりましたよね」という事実を伝えることです。具体的な事実に基づいて伝えることで、教育効果が高まりパワハラとも言われにくくなります。

 白か黒かの思考でギリギリセーフを狙い続けると、改善も起きにくく、ちょっとした間違いでパワハラと評価されるリスクが常につきまといます。点数を上げることを意識した注意指導の設計を心がけてください。

06弁護士にこまめに相談しながら対応する

 注意指導するとパワハラだと言い返してくる社員への対処は、個別性が非常に強いです。一般論としてのアドバイスを読んだり聞いたりしても、それを実際の自分の会社の出来事に当てはめる変換作業が必要で、なかなか難しいものです。

 最も効果的なのは、その都度弁護士に相談しながら対処していくことです。イメージとしては運転免許を取るときの路上教習と似ています——自分で実際の場面を経験しながら、脇でアドバイスしてもらうことで、学習効果が格段に高まります。

 弁護士に方針を相談し、やってみると相手から何らかの反応が返ってくる。その反応を持ち帰って次の対処を相談し、また実行する。このサイクルを繰り返すことが、本を読んだりセミナーを受けたりするよりもずっと実際の対応力を高めます。

ZoomやTeamsで短時間・頻繁な相談が可能に

 以前は弁護士に相談するには事務所に出向く必要があり、移動時間の負担から気軽に打ち合わせを入れることが難しかったです。しかしZoomやTeamsといったオンラインでの相談が普及したことで、移動時間ゼロで短時間の打ち合わせを頻繁に入れることができるようになりました。

 月に1回2時間の相談ではなく、毎週30分ずつ相談を入れて、「先週こうやってみたらこう言い返された。次はどうすればよいか」というサイクルで進めることができます。こまめに弁護士に相談しながら対応することは、パワハラだと言い返してくるような難しい社員との対応で、最も効果を発揮する方法の一つです。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。パワハラ・ハラスメント対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 注意をするたびに「パワハラだ」と言い返されます。注意指導を続けてよいですか。

A. 自分の注意指導に客観的に問題がないと判断できるなら、続けてください。パワハラかどうかは相手の主観ではなく客観的に決まるものですから、相手が「パワハラだ」と言うだけで注意指導を止める必要はありません。ただし「一体どこが問題なのか」は常に自問してください。自分では問題ないと思っていても、言い方や回数・場所・内容について客観的に見て問題がある場合もあります。判断に迷う場合は弁護士にご相談ください。

Q2. 管理職が部下からパワハラと申告されました。まず何をすべきですか。

A. 管理職をすぐにマイナス評価することはやめてください。まず「いつ・どこで・誰が・誰に・どんな風に・何をやったのか」という事実を被害申告した方からしっかり聴取し、次に管理職からも同じく事実ベースで聴取してください。その上で実際にあった事実がどう評価されるかを判断します。まともな注意指導をしていたことが分かれば、むしろその管理職を応援・支援することが経営者の役割です。

Q3. ハラスメントの調査をする場合、どのように聴取を進めればよいですか。

A. 「パワハラをやったのですか」「パワハラされたのですか」という評価的な質問をしてはいけません。「〇月〇日の〇時頃、〇〇という場所で、〇〇さんに対して、こういったことを言った・やったと聞いていますが本当ですか」という形で、事実(5W1H)を確定することに集中してください。事実が確定すれば、パワハラかどうかの評価はそこから判断できます。

Q4. 自分の注意指導がパワハラにあたるかどうか不安です。どのように確認すればよいですか。

A. 弁護士に具体的な事実(いつ・どこで・誰に・何を言ったか)を伝えた上で確認することをお勧めします。パワハラかどうかを白か黒かで判断するよりも、「この言い方は何点か」という点数の視点で考えてください。ギリギリパワハラでないという42点を目指すのではなく、教育効果が高く客観的にも問題のない80〜90点の注意指導を目指してください。具体的な言い方の設計は弁護士と一緒に作ることができます。

最終更新日:2026年5月10日

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