労働問題1046 何でも「パワハラだ」と言う社員の対処法
解説動画
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パワハラかどうかは客観的に決まる——「相手がそう思ったら」は誤り 「相手がパワハラだと思ったらパワハラ」は嘘。客観的に——平均的な労働者がどう感じるかで——決まる。この誤解が経営者の手を縛っているため、まず正しい理解を持つことが前提 |
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白か黒かではなく「点数」で考える——ギリギリセーフを狙ってはいけない パワハラかどうかの思考は0〜100点のグラデーション。45点(ギリギリセーフ)を狙うと少しの誤りで赤点(パワハラ)になる。80点・90点の注意指導を目指すことが、パワハラとも距離ができ教育効果も高い |
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効果的な注意指導はパワハラになりにくい——具体的な事実を伝えることが核心 業務上必要な具体的事実を伝えれば「仕事上必要な指導」かつ「やりすぎでない」となりパワハラになりにくい。評価的な言葉(「ダメだ」「できが悪い」)が失敗の原因。事実を伝える指導は言うことを聞かせやすく、社長・管理職が尊敬される |
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本・セミナーの知識だけでは足りない——練習が必要 ゴルフや野球やピアノと同じく練習なしには上達しない。弁護士に問題社員役をやってもらう練習、社内での仲間内でのリハーサルが実際の対応力を高める |
目次
01何でも「パワハラだ」と言う社員——まず前提の確認
気に食わないことがあるとすぐに「それってパワハラですよ」と言い返す社員が、まれにいます。そんなに多くはないですが、人間関係がこじれたり問題が積み重なったりすると特に出てきやすく、入社からそれほど時間が経っていない使用期間中から言い出す方もいます。
まず前提の確認として、こちらに本当に問題のある言動があったなら、素直に認めて改めてください。しかし「そんなにおかしなことを言ったかな・やったかな」と感じているにもかかわらずパワハラだと騒がれることは、実際にあります。そういった場合の対処法を今回は解説します。
最初に確認しておきたいのは、パワハラだと言われたからといって必要な業務指示や注意指導を怠ってはいけない、ということです。注意指導は本人の成長のためだけでなく、その問題社員の周りで働いている社員・パートアルバイトの方々を守るためにも必要です。また仕事を円滑に進めるための業務指示も当然必要です。パワハラだと言われたことへの恐れから何もできなくなってしまうことは、会社と周りの社員にとって最も損失が大きい選択です。
02パワハラかどうかは客観的に決まる——指針の定義と実務の問題
パワハラかどうかは客観的に決まります。平均的な労働者——同じような立場・状況にある大多数の労働者——がどう感じるかで判断されるものです。「相手がパワハラだと思ったらパワハラ」という情報が広まっていますが、これは明確な誤りです。この誤解を間に受けていると、何かするたびに「パワハラだ」と言われるだけで身動きが取れなくなってしまいます。
パワハラの定義——抽象的で実務での判断は難しい
パワハラ防止法に基づく指針では、パワハラを「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの」と定義しています。
この定義を読んで「なるほど、明確だ」と感じた方は多くないと思います。実際に抽象的です。作る側は様々な場面に当てはめられる基準を設けなければならないのでしょうがないのですが、個別の事案に当てはめる作業は一般の方には難しいことが多いです。
さらに厚労省のパンフレットを読み込んで具体例を確認しても、「この事例と今の自分のケースが当てはまるかどうか」の判断でまた見解の相違が生じます。裁判官でさえ同じ事案で地裁と高裁で結論が逆になることがある世界です。一般の方が白黒をはっきりさせようとすることには限界があります。
ですから、パワハラかどうかを完全に確定させようとすることに時間とエネルギーを費やすよりも、次に述べる「点数」の発想に切り替えることが実務上より有益です。
03白か黒かではなく「点数」で考える
パワハラかどうかを「白か黒か」「アウトかセーフか」という二択で考えるのは、実務上あまり役立ちません。実際には真っ白から真っ黒までグラデーションがあり、点数でいうと0点から100点の間のどこかにあります。
例えばパワハラが赤点(40点以下)だとします。ある弁護士に「これは45点だからパワハラではない、セーフです」と言ってもらったとします。しかし45点はパワハラでないとしてもひどい点数です。さらに少し事実関係に違いがあれば38点になり、一気にパワハラと評価されます。ギリギリを狙うことは非常に危険です。
そして「パワハラか否か」という発想で考えると、どうしても「赤点を免れればいい」という後ろ向きの思考になります。しかし本来の目的は赤点を免れることではなく、問題を改善してもらうこと、周りの社員を守ること、仕事を円滑に進めることのはずです。
80点・90点を目指すことは、けっして「弱腰になれ」という意味ではありません。しっかり言うべきことを言い、行動を改めさせる、そういった効果のある指導をしているけれどパワハラとも無縁——それが高い点数の指導です。
04効果的な注意指導はパワハラにならない——高い点数を目指す意義
パワハラかどうかの判断では、最終的に「仕事上必要な内容か」と「やりすぎでないか」という二点が問われます。
客観的に仕事上必要な内容を、客観的に伝わる方法で伝える——この二つを満たしている注意指導は、パワハラと評価されることがまずありません。逆に言えば、パワハラと評価される指導のほとんどは、「業務に必要のない内容を言っている」か「言い方がやりすぎ」かのどちらかです。
仕事上本当に必要な事実を伝え、改めてほしいことを具体的に伝える——そのような指導は、業務上必要でかつ相当な範囲の指導であり、パワハラには当たりません。高い点数の注意指導とは、まさにこれです。
効果的な指導は言うことを聞かせやすく、尊敬される
日本語の使い方が上手で、なるほどと思わせるような言い方・やり方で注意指導や業務指示を出せる方は、相手から言うことを聞かれやすくなります。社長や管理職が尊敬されるのは、地位が高いからではなく、そのような的確な指導ができるからです。
逆に怖くて言いたいことも言えないような人だと思われると、言うことを聞いてもらえなくなります。コゴコゴと無難なことしか言えない人として見られてしまいます。効果的な指導は単にパワハラを避けるためのものではなく、よい職場を作り社長・管理職が尊敬されるためのものでもあります。
05評価的な言葉が失敗の原因——具体的事実こそが核心
注意指導での失敗パターンの大半は、事実を伝えずに評価的な言葉を使うことにあります。「あなたはダメだ」「できが悪い」「みんなに嫌われている」——こういった評価的な言葉は、何を改めればよいかが相手に伝わらず、教育効果がありません。
それだけでなく、評価的な表現で相手をイライラさせると、相手がパワハラと感じやすくなります。さらに指導する側も、事実でなく評価でやり取りしていると、感情がヒートアップしてより侮辱的な言葉が出やすくなります。これが失敗の連鎖です。
一方、具体的な事実を伝えることは滅多にパワハラになりません。「〇月〇日の〇時頃、〇〇という場所で、あなたは〇〇さんに対してこういう言い方をしましたよね。その言い方はこういう問題があります。今後はこうしてください」——この形で事実を伝えて指導すれば、業務上必要な指導であり言い方もやりすぎでない、という評価になりやすいです。
また事実を具体的に指摘されると、相手は「その事実についてはこうだった」という反論をするしかなくなります。「パワハラだ」という評価のみをぶつけることが難しくなり、議論が事実ベースになります。
06知識だけでは足りない——練習が必要な理由
本を読んでパワハラの知識を仕入れる、セミナーを受講する——これは大切なことです。しかし知識を仕入れることと、実際の場面でうまく対応できることは別物です。
ゴルフが上手になる本を読んだだけではコースでいいスコアが出ません。野球部でいい選手になるためには基礎体力をつけて練習しなければなりません。ピアノはレッスンを受けながら実際に練習することで上手になります。注意指導も全く同じです。知識のインプットだけでは実際の場面で動けるようになりません。
特別な適性がある人や豊富な経験を積んだ人は知識だけでも対応できることがありますが、そういった才能に頼る組織では安定した問題社員対応はできません。練習を積み重ねることで、それほど特別な適性がなくても一定以上の対応ができるようになります。
07練習の方法——弁護士と社内での両輪で
弁護士に問題社員役をやってもらう
弁護士に問題社員役をやってもらい、実際のやり取りを練習することが最も効果的な方法の一つです。問題社員対応を日常的にやっている弁護士であれば、実際の問題社員よりも意地悪な受け答えができます。そういう相手に練習することで、実際の場面での余裕が生まれます。
「先生相手が一番手ごわかった。実際の社員はもっと素直でした」という経験を積んでから本番に臨むことで、想定外の反応にも動じにくくなります。ZoomやTeamsでのオンライン相談なら移動時間もなく、30分程度の練習を気軽に行えます。
社内でのリハーサルも十分に有効
弁護士に頼まなくても、社内での仲間内での練習は十分に効果があります。問題のある社員をよく知っている方にその人役をやってもらい、面談予定の方が実際に注意指導の練習をする。さらにもう一人が外から観察していてフィードバックをする——この形で5分でも10分でも練習してから本番に臨むだけで、対応の安定感が変わります。
インプット(知識を仕入れること)とアウトプット(実際に話すこと)の両方を組み合わせることで、何でも「パワハラだ」と言ってくる難しい社員にも冷静に、事実ベースで対応できる力が身についていきます。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。パワハラ・ハラスメント対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 注意するたびに「パワハラだ」と言い返される社員がいます。本当にパワハラになりますか。
A. パワハラかどうかは相手の主観ではなく客観的に——同じような状況・立場の大多数の労働者がどう感じるか——で決まります。相手が「パワハラだ」と感じただけでパワハラになるわけではありません。問題は、その注意指導が客観的に業務上必要な範囲のものかどうかです。具体的な事実に基づいた注意指導であれば、相手がどう言おうとパワハラと評価されることはまずありません。
Q2. 「弁護士に相談してパワハラではないと確認した」と言えば対応できますか。
A. それだけでは不十分です。「ギリギリパワハラではない(45点)」という評価を受けても、少し事情が違えばパワハラになりうる危うい領域にいることは変わりません。重要なのは、パワハラかどうかというラインではなく、「この注意指導は教育効果が高いか、客観的に適切か」という観点で80〜90点を目指すことです。高い点数の指導は自然にパワハラからも遠ざかります。
Q3. 本を読んでパワハラの知識は十分あります。それでも練習が必要ですか。
A. はい、必要です。知識を持っていることと、実際の場面で冷静に対応できることは別物です。ゴルフのルールを知っていてもコースで練習しなければいいスコアは出ません。注意指導も同じで、実際に問題社員役を相手に練習することで初めて本番で使える力になります。本番前に5〜10分でも社内リハーサルや弁護士とのロールプレイを行うことをお勧めします。
Q4. 管理職が「何でもパワハラだ」と言う部下の注意指導を避けて放置しています。どうすればよいですか。
A. 放置することで問題はエスカレートします。まず管理職がなぜ避けているのかを把握してください。知識不足なのか、実際の場面での対応力不足なのかによって対応が変わります。前者であればパワハラの正しい理解(客観的基準・事実の重要性)を共有し、後者であれば一緒に練習することが有効です。また管理職の指導の仕方自体に問題がある可能性も考慮し、実際の状況をよく確認してください。
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最終更新日:2026年5月10日