労働問題117 業務災害で休業中の社員に退職勧奨はできる?解雇制限(労基法19条)と実務上の注意点

この記事の要点

労災休業中の社員への退職勧奨自体は法律上禁止されていません(労基法19条が禁止するのは「解雇」であり合意退職は対象外)。ただし、強引な進め方は退職強要・解雇制限の潜脱として退職無効・慰謝料請求のリスクが極めて高くなります。

療養中という特殊な状況のため、通常より極めて慎重かつ抑制的に行う必要があります。事前に弁護士に相談することを強くお勧めします。

労基法19条=「解雇禁止」(合意退職は禁止対象外)

業務上疾病による休業期間中+その後30日間は解雇が禁止されます。退職勧奨自体は法律上可能ですが極めて慎重に進める必要があります。


強引な勧奨は「解雇制限の潜脱」として退職無効・慰謝料のリスク

執拗・強制的な態様は「脱法的解雇」と判断され、退職無効・多額のバックペイ・慰謝料を命じられる可能性があります。


安全配慮義務違反のリスクも——療養中の心理的負荷に最大限配慮が必要

業務上疾病で療養中の社員への退職勧奨は安全配慮義務違反・パワハラとして不法行為責任を問われるリスクがあります。

1. 業務上疾病による休業と解雇制限(労基法19条)

 業務上の疾病(労災)により長期間休業している社員への対応は会社経営者にとって非常に困難な課題です。まず大前提として、以下の「解雇制限」を理解しておく必要があります。

【労働基準法第19条第1項】

使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は、原則として解雇してはならない。

 この期間中に会社側から一方的に契約を終了させる「解雇」を行うことは、原則として許されません(違反した場合は無効+刑事罰の対象となるおそれがあります)。では、話し合いによる「退職勧奨」はどう扱われるのでしょうか。

2. 休業中の退職勧奨が禁止されていない理由

 業務上の疾病により休業中の社員に対し、退職勧奨すること自体は禁止されていません。退職勧奨は会社が一方的に契約を解除するものではなく、社員に対して「退職を検討してほしい」と持ちかけ、双方の合意によって労働契約を終了させる「合意退職」を成立させようとする行為です。労働基準法第19条が禁止しているのはあくまで「解雇」であり、労働者の自由意思に基づく「合意退職」までを禁止する明文規定はありません。

 したがって、休業期間中であっても、社員が会社の提案に納得し自発的に退職に応じるのであれば、その合意は有効に成立します。

3. 「抑制的」に行うべき実務上の理由とリスク

 法的に可能であることと、実務として推奨されるかどうかは別問題です。業務上の疾病により休業中の社員に対する退職勧奨は、通常の社員に対する場合よりも、はるかに抑制的に行うべきものと考えられます。

①自由意思の侵害とみなされやすい

 療養中の社員は、病気・怪我による不安・収入の減少・キャリアへの懸念から心理的に追い詰められていることが少なくありません。このような状況下で会社から退職を迫られると、社員は強い圧力を感じやすく、後に「自由な意思による合意ではなかった」として退職の無効を訴えられるリスクが高まります。

②解雇制限規定の潜脱(脱法行為)との指摘

 退職勧奨の態様が執拗または強制的なものであった場合、裁判所から「形式は退職勧奨だが、実態は労基法19条の解雇制限を免れるための脱法的な解雇である」と判断されるおそれがあります。この場合、退職は無効となり、会社は多額の未払賃金や慰謝料の支払いを命じられることになります。

③安全配慮義務との関係

 会社は労働者に対して安全配慮義務を負っています。業務上の原因で疾病を患った社員に対し、その療養中に精神的負荷をかけるような退職勧奨を行うことは、安全配慮義務違反や不法行為(パワハラ等)を構成するリスクを内包しています。

✕ よくある経営者の危険な対応

「退職勧奨は合意退職だから、休業中でも何度でも勧めていい」→ 危険です。
執拗な勧奨は解雇制限の潜脱として退職無効・慰謝料を命じられるリスクがあります。

「退職勧奨に応じなければ復職後に解雇する、と告げた」→ 絶対にしてはなりません。
これは解雇示唆を用いた退職強要であり、不法行為として重大な損害賠償リスクを招きます。

4. 会社経営者が遵守すべき実務ポイント

 休業中の社員に対し、どうしても退職勧奨を検討せざるを得ない場合には、以下の点に細心の注意を払う必要があります。

 ①本人の体調を最優先する:主治医の診断などを踏まえ、面談や連絡が可能かどうか慎重に判断してください。②強制的な表現を避ける:「辞めてもらわなければ困る」といった断定的な表現や解雇を示唆するような言動は厳禁です。③有利な条件を提示する:解決金の上積みや再就職支援など、合意に応じるメリットを明確に提示し本人の納得感を高めることが重要です。④検討期間を十分に与える:その場での回答を迫らず、家族や弁護士などの専門家に相談する時間を与えてください。⑤事前に弁護士に相談する:労災休業中の退職勧奨は通常より高リスクです。進め方・発言内容・条件設計について事前に弁護士と確認することが最善策です。

 労災休業中の社員への退職勧奨の進め方・リスク回避策・解雇制限との関係について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら

5. まとめ

 業務上の疾病により休業中の社員に対し、退職勧奨を行うこと自体は合意退職を目的とする限り法律上は可能です(労基法19条が禁止するのは解雇のみ)。しかし、解雇制限期間中という特殊な法的背景があるため、強引な進め方をすれば「違法な退職強要」「解雇制限の潜脱」と評価され、退職無効・多額のバックペイ・慰謝料というリスクが極めて高くなります。安全配慮義務違反のリスクも伴います。会社経営者としては、まずは社員の療養と復職に向けた努力を尽くすことが基本であり、退職という選択肢を提示する場合には社員の心情と法的権利に最大限配慮した慎重なコミュニケーションが求められます。事前に労務問題に精通した弁護士に相談することを強くお勧めします。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/04/10

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