労働問題111 退職勧奨は自由に行える?「事実行為」の定義と違法となる境界線を解説
目次
退職勧奨は「事実行為」であり原則自由に行えますが、社会通念上相当な範囲を逸脱すると違法(不法行為)となり慰謝料請求・退職無効・バックペイというリスクが生じます。「提案」が「強要」に変わる瞬間を見極めることが重要です。
執拗な繰り返し・長時間の面談・威圧的言動・人格否定的発言は違法となる境界線を越えます。適法範囲を維持するには、①労働者の意思の尊重、②環境への配慮、③客観的な説明、の3点が実務指針となります。
■ 退職勧奨=事実行為——原則自由・解雇のような厳格要件なし
退職を提案すること自体は企業活動の一環として認められています。誰に対してもいつでも行えます。
■ 違法となる境界線:社会通念上の相当性を逸脱した態様
執拗性・長時間拘束・威圧的言動・人格否定は不法行為(民法709条)として損害賠償請求の対象となります。
■ 実務指針:意思の尊重・環境の配慮・客観的説明の3点
この3点を守ることで、「提案」の範囲を維持し適法な退職勧奨を実現できます。
1. 退職勧奨が「原則自由」である理由——事実行為としての性質
退職勧奨は、解雇のように法的効果を直接生じさせる行為ではなく、一般に「事実行為」と理解されています。会社が労働者に対して「退職を検討してもらえないか」と提案する行為それ自体は、雇用契約を直ちに終了させるものではなく、あくまで話し合いのきっかけとなる働きかけにすぎません。
このため、退職勧奨は解雇とは異なり、最初から厳格な法的要件が課されるわけではありません。会社経営者が経営上の判断や職場運営の観点から、特定の労働者に対して退職という選択肢を提示すること自体は、企業活動の一環として原則自由に行うことができると考えられています。業務上の適性の問題・組織とのミスマッチ・部署再編に伴う人員整理など、さまざまな事情を背景として退職勧奨が行われることがあります。
もっとも、この「自由」は無制限ではありません。退職勧奨はあくまで労働者の任意の判断を前提とする行為であり、労働者の自由な意思決定を妨げるような態様で行われれば、違法と評価される可能性があります。
2. 「やり過ぎ」となる境界線——不法行為の成否
①面談の頻度・期間(執拗性)
労働者が退職の意思を明確に否定しているにもかかわらず、短期間に繰り返し面談を求めたり、長期間にわたって執拗に説得を続けたりする場合には、心理的な圧力を与える行為として違法と判断される可能性があります。裁判実務では面談の回数・期間・頻度が重要な判断要素となります。
②面談の時間・状況
長時間に及ぶ面談によって退席を事実上困難にしたり、深夜まで話し合いを続けたりするような対応は、労働者の自由な判断を妨げる事情として問題視されます。
③言動の内容
「辞めなければ懲戒解雇にする」といった根拠のない威圧的な発言や、人格を否定するような発言が含まれる場合には、退職勧奨ではなくハラスメントや退職強要と評価される可能性があります。退職勧奨が適法と評価されるかどうかは、どのような方法で行われたかという具体的な態様によって判断されます。
✕ よくある経営者の危険な対応
「退職勧奨は自由にできるから、何度でも面談すればいい」→ 危険です。
退職の意思を明確に示した後も繰り返す執拗な面談は、退職強要として不法行為に該当するリスクがあります。
「辞めなければ解雇するぞ、と言えば辞めるだろう」→ 絶対にしてはなりません。
根拠のない解雇示唆・威圧的言動は、退職勧奨の適法性を失わせ、慰謝料請求・退職無効・バックペイというリスクを招きます。
3. 違法と判断された場合の損害賠償リスク
退職勧奨が社会通念上相当な範囲を逸脱したと判断された場合、その行為は退職強要として不法行為(民法709条)に該当する可能性があります。最も典型的なのは、精神的苦痛に対する慰謝料の支払いです。裁判例では数十万円から数百万円程度の慰謝料が認められるケースもあります。
さらに注意すべきなのは、退職勧奨の結果として退職届が提出されていた場合でも、その退職が強迫や錯誤によるものと認定されれば、退職自体の効力が否定される可能性がある点です。退職が無効と判断された場合、労働契約は継続していたものと扱われ、会社はバックペイの支払いを求められることがあります。慰謝料だけでなく、雇用関係の復活という重大な結果に発展する可能性があります。
4. 適法な範囲を維持するための実務指針
①意思の尊重
労働者が退職の意思がないことを明確に示した場合には、その意思を尊重し、面談を継続することに慎重になる必要があります。退職勧奨はあくまで退職という選択肢を提案する行為であり、最終的に決めるのは労働者本人です。十分な考慮時間を与え、即断を迫らないことが重要です。
②環境の配慮
面談は、労働者が安心して話し合いに臨める環境で行うことが重要です。密室に追い込んだり、第三者の目が届かない状況を作ったりすることは避けてください。面談の日時・場所・参加者・時間を記録しておくことも重要です。
③客観的な説明
退職を提案する理由については、客観的な事実に基づいて説明することが必要です。威圧的・感情的な言動を避け、解雇を示唆するような発言は絶対に行わないようにしてください。
退職勧奨の適法な進め方・面談記録の方法・違法となるリスクの確認について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら
5. まとめ
退職勧奨は「事実行為」であり、原則として誰に対してもいつでも自由に行えます。解雇のような厳格な有効要件は課されていません。ただし、社会通念上相当な範囲を逸脱した態様(執拗な繰り返し・長時間拘束・威圧的言動・人格否定的発言等)で行われた場合、退職強要として不法行為(民法709条)に該当し、慰謝料請求・退職無効・バックペイというリスクが生じます。適法範囲を維持するための実務指針は、①労働者の意思の尊重、②環境への配慮、③客観的な説明、の3点です。退職勧奨を検討する際は、事前に弁護士に相談することをお勧めします。
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弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/05