労働問題118 妊娠・産休を請求した女性社員に退職勧奨はできる?均等法9条3項と不利益取扱いの禁止
本記事の結論
● 妊娠・産休請求を理由とした退職勧奨は、男女雇用機会均等法が禁じる「不利益取扱い」に該当し、原則として許されません。
● 形式的な合意を得ていても、それが本人の「真意」に基づかない場合は、退職の強要(違法)とみなされます。
● 産休期間中およびその後30日間は労働基準法上の解雇制限もあり、この時期の勧奨は法的リスクが極限まで高まります。
● 経営者としては、通常の社員に対する勧奨よりも圧倒的に抑制的かつ慎重であるべきであり、独断での実施は避けるべきです。
目次
1. 問題の所在:妊娠・産休請求と不利益取扱いの禁止
社員から妊娠の報告を受け、あるいは産前産後休業(産休)の請求があった際、会社がその社員に対して退職を促すこと(退職勧奨)はできるのでしょうか。特に、人員不足の折に長期欠員が生じることへの懸念から、経営者として退職を検討してもらいたいと考える場面があるかもしれません。
しかし、妊娠・出産に関する事項は、法律によって強力に保護されています。直接的に退職勧奨を禁止する明文規定はありませんが、男女雇用機会均等法第9条第3項は、女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、あるいは産前産後休業を請求したこと等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをすることを厳格に禁じています。
2. 均等法の指針と「退職の強要」の判断基準
厚生労働省の指針(男女雇用機会均等法第9条関係)では、より具体的な基準が示されています。会社経営者は以下の点を正しく理解しておく必要があります。
① 妊娠等を理由とする退職強要の禁止
女性社員が妊娠したことを理由として、退職の強要を行うことは明確に禁止されています(指針第四3(2)ニ)。「産休をとるなら代わりの人を雇わなければならないので辞めてほしい」といった説明は、典型的な法違反となります。
② 「表面上の同意」では足りない
たとえ面談の結果として女性社員が退職を承諾したとしても、それが真意の同意に基づくものでない場合は、退職の強要を行ったものと同視されます(指針第四3(3)イ)。 妊娠中の不安な精神状態や、会社側からの心理的圧迫がある中で得られた同意は、後に裁判等で容易に否定されるリスクがあります。
3. 労働基準法上の「解雇制限」との重複リスク
退職勧奨の是非を検討する際、あわせて認識しなければならないのが労働基準法第19条の規定です。
- 解雇制限期間:産前産後の女性が法に基づく休業(産休)する期間、およびその後30日間は、原則として解雇することができません。
この期間中、解雇が法律上不可能であるにもかかわらず執拗に退職を勧める行為は、公序良俗に反する「退職強要」とみなされる可能性が極めて高くなります。
4. 経営者が負うべき重大な法的リスク
妊娠・産休を控えた社員に対し不適切な退職勧奨を行った場合、以下のような甚大な損害を招くおそれがあります。
- 退職合意の無効・取消し:「真意の同意」がないとして、退職後に原職復帰を命じられる、あるいは復帰までの賃金(バックペイ)の支払いを命じられる。
- 損害賠償請求:精神的苦痛に対する慰謝料(マタハラ、不法行為責任)の支払義務が発生する。
- 行政指導と企業名の公表:労働局からの指導・勧告に従わない場合、厚生労働省のホームページなどで企業名が公表され、社会的信用を著しく失墜させる。
5. 実務上の結論:極めて抑制的であるべき対応
結論として、妊娠して産休を請求した女性社員に対する退職勧奨は、通常の社員に対する場合よりも格段に抑制的であるべきです。 基本的には、「妊娠・産休」を理由とした退職の打診は控えるべきであり、もし他の合理的な理由(重大な規律違反など)がある場合であっても、この時期に行う勧奨は「妊娠による不利益取扱い」との疑いを払拭することが極めて困難です。
会社経営者としては、該当社員が安心して出産・育児に向かえる環境を整えることが法的な義務であり、かつトラブルを回避する最善の策となります。
6. まとめ
妊娠や産休を控えた女性社員への退職勧奨は、男女雇用機会均等法の趣旨に反するリスクが極めて高く、実務上は推奨されません。形式的な同意があっても、後に紛争化すれば会社側が不利な立場に置かれることは免れません。
退職勧奨を検討せざるを得ない特段の事情がある場合でも、独断で進めることは極めて危険です。まずは、マタハラや不利益取扱いに該当しないか、慎重に専門家のアドバイスを受けることを強くお勧めいたします。
妊娠・産休と退職勧奨に関するよくある質問
Q1. 妊娠を理由に辞めてもらうことは、本人と合意していてもダメですか?
A. 本人が「真意」から退職を希望している場合は合意退職として有効ですが、会社側から妊娠を理由に退職を提案(勧奨)することは、均等法9条3項の不利益取扱いに該当するリスクが極めて高いです。後に「妊娠を理由に辞めさせられた」と主張されれば、合意そのものが無効とされるおそれがあります。
Q2. 産休期間中の社員を解雇することはできますか?
A. 原則として絶対にできません。労働基準法19条により、産前産後休業期間およびその後30日間は解雇が厳格に禁止されています。この期間中の解雇は法律上無効であるだけでなく、刑事罰の対象にもなり得ます。
Q3. 「真意の同意」とはどのように判断されますか?
A. 単に退職届があるだけでなく、退職に至る経緯、本人が受けた説明の内容、翻意の機会の有無、退職条件の妥当性などを総合的に見て、「労働者が自発的にその道を選んだといえるか」が厳格に問われます。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026/3/9
