労働問題118 妊娠・産休中の社員への退職勧奨|均等法9条の禁止と重大リスク
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妊娠・産休を理由とした退職勧奨は均等法9条3項の不利益取扱いに該当し原則として許されない 退職勧奨も「不利益な取扱い」に含まれます。「産休をとるなら辞めてほしい」といった説明は典型的な法違反です |
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表面上の合意があっても真意のない同意は退職強要と同視される 妊娠中の不安な精神状態や会社側からの心理的圧迫がある中で得られた同意は、後の裁判等で容易に否定されるリスクがあります |
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産休期間中・その後30日間は労基法19条の解雇制限も重なり二重の法的リスクが生じる 均等法9条3項と労基法19条が重なるこの時期の退職勧奨は、公序良俗違反・退職強要と評価されるリスクが極限まで高まります |
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リスク:退職無効・バックペイ・マタハラ慰謝料・企業名公表——独断での実施は絶対に避ける これらが重なって発生する甚大なリスクがあります。必ず事前に弁護士に相談することを強くお勧めします |
目次
01妊娠・産休請求と不利益取扱いの禁止
社員から妊娠の報告を受け、あるいは産前産後休業(産休)の請求があった際、退職を促すことはできるのでしょうか。人員不足への懸念から退職を検討してもらいたいと考える場面があるかもしれませんが、妊娠・出産に関する事項は法律によって強力に保護されています。
男女雇用機会均等法第9条第3項は、女性労働者が妊娠したこと・出産したこと・産前産後休業を請求したこと等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをすることを厳格に禁じています。退職勧奨もこの「不利益な取扱い」に含まれます。
02均等法の指針と「退職の強要」の判断基準
① 妊娠等を理由とする退職強要の禁止
厚生労働省の指針(均等法第9条関係)は、女性社員が妊娠したことを理由として退職の強要を行うことは明確に禁止されていると示しています(指針第四3(2)ニ)。「産休をとるなら代わりの人を雇わなければならないので辞めてほしい」といった説明は、典型的な法違反となります。
② 「表面上の同意」では足りない
たとえ面談の結果として女性社員が退職を承諾したとしても、それが真意の同意に基づくものでない場合は、退職の強要を行ったものと同視されます(指針第四3(3)イ)。妊娠中の不安な精神状態や会社側からの心理的圧迫がある中で得られた同意は、後に裁判等で容易に否定されるリスクがあります。
絶対にしてはいけない発言・対応
「産休をとるなら代わりの人を雇わなければならないので辞めてほしい」
典型的な法違反です。均等法指針が明確に禁止する退職強要に該当します。マタハラとして重大な損害賠償リスクを招きます。
「本人が同意して退職届にサインしてくれたから問題ない」
危険な思い込みです。妊娠を背景にした心理的圧迫下での同意は「真意の同意」と認められず、後に退職無効を主張される可能性があります。
03労基法19条の解雇制限との重複リスク
退職勧奨の是非を検討する際、あわせて認識しなければならないのが労働基準法第19条の規定です。産前産後の女性が法に基づく休業(産休)をする期間、およびその後30日間は、原則として解雇することができません。
この期間中、解雇が法律上不可能であるにもかかわらず執拗に退職を勧める行為は、公序良俗に反する「退職強要」とみなされる可能性が極めて高くなります。均等法9条3項の不利益取扱い禁止と労基法19条の解雇制限が重なる産休期間中の退職勧奨は、二重の法的リスクを伴うものとして特に危険です。
04経営者が負うべき重大な法的リスク
妊娠・産休を控えた社員に対し不適切な退職勧奨を行った場合、以下のような甚大な損害を招くおそれがあります。
① 退職合意の無効・取消し
「真意の同意」がないとして、退職後に原職復帰を命じられる、あるいは復帰までの賃金(バックペイ)の支払いを命じられます。退職合意が成立しているからといって安心できません。
② 損害賠償請求(マタハラ)
精神的苦痛に対する慰謝料(マタハラ・不法行為責任)の支払義務が発生します。妊娠中の精神的苦痛は大きく、慰謝料額が高額になるケースもあります。
③ 行政指導と企業名の公表
労働局からの指導・勧告に従わない場合、厚生労働省のホームページなどで企業名が公表され、社会的信用を著しく失墜させます。採用力の低下・取引先からの信頼喪失など長期的な経営上のダメージが生じます。
05実務上の結論——極めて抑制的であるべき対応
結論として、妊娠して産休を請求した女性社員に対する退職勧奨は、通常の社員に対する場合よりも格段に抑制的であるべきです。基本的には「妊娠・産休」を理由とした退職の打診は控えるべきであり、もし他の合理的な理由(重大な規律違反など)がある場合であっても、この時期に行う勧奨は「妊娠による不利益取扱い」との疑いを払拭することが極めて困難です。
会社経営者としては、該当社員が安心して出産・育児に向かえる環境を整えることが法的な義務であり、かつトラブルを回避する最善の策となります。退職勧奨を検討せざるを得ない特段の事情がある場合でも、独断で進めることは極めて危険です。必ず事前に弁護士に相談することを強くお勧めします。
06まとめ
妊娠・産休を理由とした退職勧奨は男女雇用機会均等法9条3項の不利益取扱いに該当し、原則として許されません。表面上の合意があっても真意のない同意は退職強要と同視され(均等法指針)、退職無効・バックペイ・マタハラ慰謝料・企業名公表という甚大なリスクが生じます。
産休期間中・その後30日間は労基法19条の解雇制限も重なり、この時期の退職勧奨は二重の法的リスクを伴う極めて危険な行為です。会社経営者としては、妊娠・産休社員が安心して出産・育児に向かえる環境を整えることが法的義務であり、退職勧奨を検討せざるを得ない場合は独断での実施を避け、必ず事前に弁護士に相談することをお勧めします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。妊娠・産休社員への対応・マタハラリスクの回避・均等法違反リスクの確認でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 妊娠・産休中の社員に退職勧奨することはできますか。
A. 原則として許されません。男女雇用機会均等法9条3項は、妊娠・産休を理由とした不利益取扱いを厳格に禁止しており、退職勧奨もこれに含まれます。特に産休期間中・その後30日間は労基法19条の解雇制限も重なり、この時期の退職勧奨は二重の法的リスクを伴います。独断での実施は絶対に避け、事前に弁護士に相談することを強くお勧めします。
Q2. 本人が同意して退職届にサインした場合でも問題になりますか。
A. 問題になります。妊娠中の不安な精神状態や会社側からの心理的圧迫がある中で得られた同意は、「真意の同意」と認められない可能性があります。均等法の指針は、表面上の同意があっても退職強要と同視されるケースを明確に示しています(指針第四3(3)イ)。退職届があっても後日退職無効を主張されるリスクがあります。
Q3. 産休期間中の退職勧奨はなぜ特に危険なのですか。
A. 産休期間中・その後30日間は、均等法9条3項の不利益取扱い禁止と労基法19条の解雇制限が重なります。解雇が法律上不可能な時期に退職を勧めることは、公序良俗に反する退職強要とみなされる可能性が極めて高く、二重の法的リスクを伴います。
Q4. 妊娠・産休中の社員への不適切な退職勧奨で生じる法的リスクは何ですか。
A. 主に3つのリスクがあります。①退職合意の無効・取消し(バックペイ含む)、②損害賠償請求(マタハラ慰謝料・不法行為責任)、③行政指導と企業名公表(勧告に従わない場合は厚生労働省のホームページで公表)。これらが重なって発生する甚大なリスクがあります。事前に弁護士に相談することが不可欠です。
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最終更新日:2026年4月10日