労働問題112 解雇事由がなくても退職勧奨は可能?法的根拠と会社側が進めるべき実務の鉄則

この記事の要点

解雇事由がなくても退職勧奨は可能です。退職勧奨と解雇は法的性質がまったく異なり、解雇要件は退職勧奨の開始条件ではありません。「解雇できないから何もできない」という諦めは禁物です。

退職勧奨は「合意退職の申込みの誘引」であり経営判断として自由に開始できます。「解雇事由の有無」より「勧奨の態様(やり方)」が重要であり、労働者の自由な意思を尊重したプロセスを守ることが鍵です。

退職勧奨に解雇事由は不要——法的性質が根本的に異なる

退職勧奨は合意退職を目指す交渉行為であり、解雇権濫用法理の問題が直接生じません。


解雇が困難な事案こそ退職勧奨が有力な合法的手段

能力不足・協調性・適性の不一致など、解雇では認められにくい理由でも退職勧奨の話し合いは開始できます。


鍵は「解雇事由の有無」ではなく「勧奨の態様」

社会通念上相当な範囲での話し合いを守れば、解雇できない社員に対しても適法に退職を促せます。

1. 退職勧奨と解雇要件の法的切り分け

 退職勧奨を検討する際、「解雇できるほどの正当な理由がなければ、退職を勧めることもできないのではないか」と考える会社経営者は少なくありません。しかし、法的に見ると、このような理解は正確ではありません。退職勧奨と解雇は法的性質がまったく異なる手続きであり、解雇の要件が満たされていなくても退職勧奨を行うこと自体は可能です。

 解雇は、会社が労働者の同意なく労働契約を終了させる一方的な意思表示であるため、労働契約法16条により厳しい制限が設けられています。一方、退職勧奨は会社が労働者に対して退職という選択肢を提案し、話し合いによって合意退職を目指す手続きです。労働者の同意を前提とする行為であるため、解雇のように厳格な有効要件が最初から求められるものではありません。

 解雇の要件が整うまで対応を先送りするのではなく、早い段階から退職勧奨によって合意退職の可能性を探ることは、会社のリスク管理という観点からも合理的な選択といえます。

2. 「合意退職の申込みの誘引」が持つ意味

 裁判実務では、退職勧奨は一般に「合意退職の申込みの誘引」と説明されます。会社が一方的に労働契約を終了させるのではなく、労働者自身から退職の意思表示を行うよう働きかける行為を意味します。つまり「会社からの命令」ではなく、労働者に退職という選択肢を提示し意思決定を促す交渉のプロセスです。

 この段階では解雇権濫用の問題が直接生じるものではなく、双方の合意形成を目指す交渉として位置づけられます。会社は労働者との対話を通じて退職条件を調整したり、解決金の提示などを行いながら、双方が納得できる形で雇用関係の終了を目指すことができます。合意による契約終了という安定した解決を模索できる点が退職勧奨の大きな特徴です。

✕ よくある経営者の誤解

「解雇できるほどの理由がないから、退職勧奨もできない」→ 誤りです。
退職勧奨は解雇とは別の手続きです。解雇事由がなくても退職勧奨を開始することは可能です。

「問題社員への対応は解雇の要件が整うまで待つしかない」→ 誤りです。
解雇が困難な事案こそ、早期に退職勧奨を開始して合意退職を目指すことが経営リスクを最小化する合法的手段です。

3. 経営判断としての「提案」の自由

 退職勧奨を開始するかどうかは、原則として会社経営者の経営判断に委ねられています。退職勧奨は解雇のような法律行為ではなく、あくまで労働者に退職という選択肢を提案する交渉行為であるため、その開始理由について厳格な法的要件が課されているわけではありません。

 能力不足、協調性の問題、職場との適性の不一致、組織運営上の方針変更など、さまざまな事情を背景として退職を提案すること自体は直ちに違法と評価されるものではありません。これらは必ずしも解雇の正当理由として認められるとは限りませんが、退職を検討してもらうための話し合いを開始する理由としては十分にあり得るものです。

 「解雇できないから、何もできない」という諦めは禁物です。解雇のハードルが高い日本法下において、退職勧奨は経営権を行使するための極めて有力な合法的手段です。正しい手順を踏めば、不当解雇という致命的リスクを負わずに組織の最適化を図ることが可能となります。

4. 強要(不法行為)とみなされないための境界線

「解雇事由の有無」より「勧奨の態様」が重要

 退職勧奨において問題となるのは、解雇事由があるかどうかではなく、勧奨の態様(やり方)です。社会通念上相当な範囲を逸脱した退職勧奨(執拗な繰り返し・長時間拘束・威圧的言動・解雇示唆等)は、退職強要として不法行為(民法709条)に該当する可能性があります。

 具体的には、①労働者が拒否しても繰り返し面談する(執拗性)、②長時間の面談で退席を困難にする、③「辞めなければ解雇する」といった威圧的発言をする、④人格を否定するような言動をとる、といった態様が違法と評価されます。

実務の鉄則:早期着手・弁護士への事前相談

 解雇が困難な事案こそ、問題が深刻化する前の早い段階から退職勧奨を開始することが重要です。事態が深刻化してからでは、退職勧奨の態様が過激になりがちで、逆に不法行為リスクが高まります。退職勧奨を検討した段階で弁護士に相談し、面談の進め方・発言内容・条件の設計を事前に確認することが最善策です。

 解雇が難しい問題社員への退職勧奨の開始方法・進め方・条件設計について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら

5. まとめ——解雇できない事案こそ早期の着手を

 解雇事由がなくても退職勧奨は可能です。退職勧奨と解雇は法的性質がまったく異なり、解雇要件は退職勧奨の開始条件ではありません。退職勧奨は「合意退職の申込みの誘引」として経営判断で自由に開始でき、能力不足・協調性の問題・適性の不一致などを理由とした話し合いも直ちに違法とはなりません。「解雇事由の有無」より「勧奨の態様(やり方)」が重要であり、社会通念上相当な範囲の話し合いを守ることで、解雇できない社員に対しても適法に退職を促せます。解雇が困難な事案こそ早期に弁護士に相談し、戦略的な退職勧奨を進めることをお勧めします。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/04/05

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