労働問題109 退職勧奨と解雇の違いとは?実務上の選択指針を会社側弁護士が解説


この記事の要点

解雇は会社の一方的意思表示で法的ハードルが極めて高く、無効時はバックペイリスクが甚大

客観的合理性と社会通念上の相当性がなければ解雇権濫用として無効になります(労契法16条)。紛争が長期化すれば数百万円から数千万円規模の負担になることも珍しくありません

退職勧奨は合意を目指すプロセスで法的制約が相対的に小さく、実務上は解雇より先に検討すべき手段

退職金の上乗せ等の条件提示で合意を引き出せれば、解雇無効リスクを回避しながら円満に雇用関係を終了できます

実務の定石は、解雇を直ちに選択するより退職勧奨による合意退職を先に検討すること

日本の労働法では解雇の有効性が厳しく審査されるため、退職勧奨を第一選択肢として検討することが重要です

退職勧奨の方法・態様を誤れば退職強要・ハラスメントとして損害賠償請求の対象となる

社員の自由な意思決定を尊重した形で進めることが重要です。事前に会社側弁護士に相談することをお勧めします

01解雇とは——会社による「一方的」な処分

 解雇とは、会社が社員との労働契約を終了させるために行う会社による一方的な意思表示をいいます。社員が退職に同意していなくても、会社が解雇の意思を通知すれば労働契約を終了させようとする効力が生じる点に特徴があります。

 ただし、日本の労働法では解雇に対して非常に厳しい制限が設けられており、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ解雇権の濫用として無効になります(労契法16条)。解雇が無効と判断された場合、会社は解雇日から判決までの期間についてバックペイ(未払い賃金)の支払いを命じられることがあり、紛争が長期化すれば数百万円から数千万円規模の負担になることも珍しくありません。

02退職勧奨とは——双方の「合意」による円満解決

 退職勧奨とは、会社が社員に対して退職という選択肢を提示し、話し合いによって労働契約の終了について合意を目指す行為をいいます。解雇のように会社が一方的に雇用関係を終了させるのではなく、社員の自由な意思に基づく同意があって初めて退職が成立する点に大きな特徴があります。

 社員が退職勧奨に応じる義務はなく、退職するかどうかはあくまで本人の判断に委ねられています。適切な手続きで行われた退職勧奨は、解雇と比べて後に紛争となるリスクが低いとされています。ただし、進め方によっては退職強要と評価される可能性があるため、社員の自由な意思決定を尊重した形で進めることが重要です。

よくある経営者の誤解

「問題社員は解雇すれば済む。退職勧奨は面倒だ」
危険な発想です。解雇は法的ハードルが高く、無効時のバックペイリスクは甚大です。退職勧奨を先に検討することが実務上の定石です。

「退職勧奨なら法的リスクはない」
誤りです。退職勧奨の方法・態様を誤れば退職強要・ハラスメントとして損害賠償請求の対象となります。

03退職勧奨と解雇の比較——主な違い

比較項目 解雇 退職勧奨
意思表示の主体 会社(一方的) 社員(会社の誘引を受けた合意)
社員の同意 不要 必要(同意がなければ成立しない)
法的ハードル 高い(客観的合理性・相当性が必要) 相対的に低い(契約自由の原則)
無効・不成立時のリスク ——バックペイ・地位確認請求 相対的に小——退職が成立しないだけ
実務上の優先度 退職勧奨が難しい場合の最終手段 まず検討すべき第一選択肢

04実務上の選択指針——退職勧奨を先に検討する

 会社が問題社員への対応や組織運営上の課題に直面した場合、実務上は解雇を直ちに選択するのではなく、まずは退職勧奨による合意退職の可能性を検討するのが定石です。日本の労働法では解雇の有効性が厳しく審査されるためです。

 退職勧奨の際に退職金の上乗せや退職時期の調整などの条件を提示することで、社員にとっても受け入れやすい環境を整え、双方が納得できる形で雇用関係を終了させることを目指します。このような方法は、結果として労働紛争の長期化を防ぐことにもつながります。

 もっとも、退職勧奨の過程で「応じなければ解雇する」といった強い圧力をかけることは退職強要として違法と評価される可能性があります。退職勧奨はあくまで任意の話し合いであり、社員の自由な意思決定を尊重した形で進めることが重要です。退職勧奨を検討する際は、使用者側弁護士・会社側弁護士に事前に相談することをお勧めします。

05まとめ——会社側弁護士が示す解雇・退職勧奨の要点

 解雇は会社による一方的な意思表示であり、客観的合理性・社会通念上の相当性がなければ解雇権濫用として無効(労契法16条)となります。無効時はバックペイ・地位確認請求という重大な経営リスクが生じます。退職勧奨は合意を目指すプロセスであり、法的制約が相対的に小さく実務上まず検討すべき第一選択肢です。

 ただし退職勧奨の方法・態様を誤れば退職強要・ハラスメントとして損害賠償請求の対象となります。実務の定石は、解雇を直ちに選択するより退職勧奨による合意退職を先に検討し、退職条件の提示等で合意を引き出すことです。対応に迷ったら早急に会社側弁護士に相談することをお勧めします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職勧奨と解雇の選択・進め方・リスク管理でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 退職勧奨と解雇の最大の違いは何ですか。

A. 最大の違いは意思表示の主体です。解雇は会社の一方的意思表示であり、退職勧奨は社員の自由な意思による選択を前提とします。法的ハードルは解雇が高く、退職勧奨が相対的に低いため、実務上は退職勧奨を先に検討することが定石です。

Q2. 解雇が無効と判断された場合のリスクはどれくらいですか。

A. 解雇が無効と判断された場合、解雇日から判決までの期間についてバックペイ(未払い賃金)の支払いを命じられます。紛争が長期化すれば数百万円から数千万円規模の負担になることも珍しくありません。地位確認請求が認められれば社員が会社に戻ることになります。

Q3. 退職勧奨で社員が断った場合、解雇に切り替えることはできますか。

A. 退職勧奨を断られた場合に解雇に切り替えることは可能ですが、解雇の有効要件(客観的合理的理由・社会通念上の相当性)を満たす必要があります。退職勧奨を断ったことを理由に不利益取扱いをすることは禁止されており、解雇の要件を慎重に確認するため会社側弁護士に相談することをお勧めします。

Q4. 退職勧奨の条件(退職金上乗せ等)を提示することは有効ですか。

A. 有効です。退職金の上乗せ・再就職支援の提供・有給休暇の買上げ等を条件として提示することで、社員が自発的に退職を選択しやすい環境を整えることができます。条件の設計と退職合意書の作成については会社側弁護士に依頼することをお勧めします。

最終更新日:2026年5月10日



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