労働問題110 「解雇すれば話が早い」は幻想——バックペイリスクと退職勧奨の重要性
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「解雇すれば話が早い」は幻想——解雇が無効となれば高額バックペイが発生し経営を圧迫する 日本の労働法では解雇の有効性が厳しく審査されます。安易に解雇を選択すると、かえって長期の労働紛争に発展する可能性があります |
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解雇無効時は解雇日から紛争解決までの全期間の賃金(バックペイ)支払い義務が生じる 紛争が長期化すれば数百万円から数千万円規模の負担になることも珍しくありません。管理職・幹部社員の場合は特に高額になります |
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退職届が提出された合意退職は解雇と比べて法的リスクが格段に低く、会社を守る最強の防衛手段となる 立証責任の面でも会社側に有利な構造となります。退職届があれば社員側が「強要された」等の事情を主張・立証する必要が生じます |
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実務の鉄則は、最後まで解雇を避け、退職勧奨プロセスを通じて自由意思に基づく退職届を得ること 退職勧奨は面倒に見えても、適切に進めることで会社の法的リスクを大幅に低減できます |
目次
01解雇の「話が早い」は幻想に過ぎない
問題のある社員への対応に悩み「解雇してしまえばすぐに解決する」と考える会社経営者は少なくありません。しかし、日本の労働法の実務では、そのような考え方は極めて危険です。安易に解雇を選択すると、かえって長期の労働紛争に発展する可能性が高く、結果として会社の負担が大きくなることがあります。
解雇が有効と認められるためには客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性という厳しい要件を満たす必要があり(労契法16条)、会社側が解雇の正当性を具体的な証拠によって説明できなければ解雇は無効と判断されます。業務成績が期待に達していない場合でも十分な指導や改善の機会が与えられていなければ解雇は認められにくく、勤務態度の問題でも会社の対応経緯が総合的に検討されます。
02解雇失敗時の致命的ダメージ——高額なバックペイ
解雇を強行した場合に会社が直面する最大のリスクが、解雇が無効と判断された場合の経済的負担です。裁判所が解雇を不当と認定すると、会社は解雇後の期間について社員に対して賃金を支払う義務を負うことになります。この賃金を実務では「バックペイ(未払い賃金)」と呼びます。
バックペイは、解雇日から判決や和解によって紛争が解決するまでの期間について、社員が働いていた場合に受け取るはずだった賃金をすべて支払うというものです。労働審判や訴訟が長期化すれば、その金額は数年分の給与に及ぶこともあります。管理職や幹部社員のように給与が高い社員の場合、バックペイの金額は非常に高額になります。遅延損害金が加算されることもあり、数百万円から場合によってはそれ以上の金銭的負担を求められることも珍しくありません。
経営者の危険な発想——解雇を安易に選択する落とし穴
「問題社員は解雇すれば解決する。退職勧奨は面倒」
最も危険な発想です。解雇が無効となれば解雇日から全期間のバックペイが発生します。退職勧奨を先に検討することが実務の鉄則です。
「解雇予告手当を払えば解雇できる」
誤りです。解雇予告手当は手続きであり有効性とは別問題です。解雇理由が不十分であれば解雇は無効となります。
03「退職届」が会社を守る最強の防衛手段となる理由
社員が自ら退職届を提出し会社が受理する形で退職が成立すれば、これは合意退職として扱われます。合意退職は双方の意思に基づいて労働契約を終了させるものであるため、解雇のように厳しい有効要件が問題となることは通常ありません。
さらに、紛争になった場合の立証責任の構造にも大きな違いがあります。会社が一方的に解雇した場合には解雇が正当であることを会社側が立証しなければなりませんが、退職届が提出されている場合には社員側が「強要された」「誤解させられた」などの事情を主張・立証する必要が生じます。この点で会社側の法的リスクは格段に低下します。
ただし、退職届が提出されているからといって常に安全というわけではありません。強い圧力のもとで書かされたものと判断されれば後に退職の有効性が争われます。社員の自由な意思に基づく退職であることが客観的に確認できるプロセスを整えることが重要です。
04退職勧奨プロセスの重要性——適切に進めれば会社を守れる
退職勧奨によって合意退職を目指す場合でも、進め方を誤れば退職強要やハラスメントを主張され損害賠償を請求される可能性があります。しかし、それでもなお解雇を直接行う場合と比較すれば退職勧奨の方が会社にとって法的リスクを抑えやすい手続きといえます。
裁判実務では、会社が問題点について説明し改善の機会を与えたうえで退職を提案するというプロセスを経ているかどうかが重視されます。このようなプロセスを丁寧に踏むことで、仮に解雇に至らざるを得ない場合でも解雇の合理性を支える証拠となります。
退職勧奨は面倒に見えても、適切に進めることで会社の法的リスクを大幅に低減できます。退職勧奨を検討する際は、使用者側弁護士・会社側弁護士に事前に相談し、面談の進め方・発言内容・記録方法を確認することを強くお勧めします。
05まとめ——会社側弁護士が示す不当解雇回避の鉄則
「解雇すれば話が早い」という発想は日本の労働法の実務では極めて危険です。解雇が無効となれば解雇日から紛争解決までの全期間のバックペイが発生し、数百万円から数千万円規模の負担になることもあります。
実務の鉄則は、最後まで解雇を避け退職勧奨プロセスを通じて社員の自由な意思に基づく退職届を得ることです。退職届が提出された合意退職は、解雇と比べて法的ハードルが低く、立証責任の面でも会社側に有利な構造となります。退職勧奨は面倒に見えても適切に進めることで会社を守る最強の防衛手段となります。対応に迷ったら早急に会社側弁護士に相談することをお勧めします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。不当解雇リスクの回避・退職勧奨の進め方・合意退職の実現でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 問題社員を解雇した方が退職勧奨より早く解決できますか。
A. 解雇が有効と認められれば解決しますが、日本の労働法では解雇の有効要件が厳しく、解雇が無効となれば高額バックペイが発生し長期紛争に発展します。退職勧奨による合意退職の方が実務上は解雇より安全かつ確実な解決方法です。
Q2. 解雇無効時のバックペイはどれくらいになりますか。
A. 解雇日から紛争解決(判決・和解)までの全期間の賃金が支払い義務の対象となります。労働審判・訴訟で1〜2年かかれば数十万円から数百万円、長期化すれば数千万円規模になることもあります。管理職・幹部社員の場合は特に高額になります。
Q3. 解雇予告手当を支払えば解雇できますか。
A. 解雇予告手当は解雇の「手続き」にすぎず「有効性」とは別問題です。解雇予告手当を支払っても解雇理由が不十分であれば解雇は無効となります。解雇の有効要件を満たすかどうかは別途判断が必要です。
Q4. 退職届さえあれば後から問題にならないですか。
A. 退職届があれば合意退職として扱われますが、強い圧力のもとで書かされたものと判断されれば後に取消し・撤回の主張がされます。社員の自由な意思に基づく退職であることが客観的に確認できるプロセスを整えることが重要です。
最終更新日:2026年5月10日