労働問題89 解雇無効時の不就労日は労基法39条の出勤日数に含まれるか【会社側弁護士が解説】
会社が行った解雇が裁判所で無効と判断された場合、解雇日から復職日までの不就労日は労基法39条(年次有給休暇)の出勤率算定においてどう扱われるのでしょうか。この問題は、解雇無効時のバックペイとあわせて見落とされやすいリスクです。
平成25年7月10日付け行政通達(基発0710第3号)は、八千代交通事件最高裁第一小法廷判決(平成25年6月6日)を踏まえて、この問題に関する行政解釈を明確化しました。会社側・使用者側の弁護士として、この通達の内容と実務上の影響を解説します。
01行政通達(基発0710第3号)の概要
平成25年7月10日付け基発0710第3号通達は、労基法39条の出勤率算定に関し、以下の3つの区分を明確にしています。
① 全労働日の意味:年次有給休暇の算定基礎となる「全労働日」とは、就業規則等に定められた所定休日を除いた日をいいます。所定の休日に労働させた場合でも、その日は全労働日には含まれません。
② 出勤日数に算入される不就労日(原則):労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日は、原則として出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれます。典型例として、裁判所の判決により解雇が無効と確定した場合や、労働委員会の救済命令により会社が解雇を取り消した場合の解雇日から復職日までの不就労日が挙げられています。
③ 全労働日から除外される不就労日(例外):労働者の責めに帰すべき事由によらない場合でも、①不可抗力による休業日、②使用者側に起因する経営・管理上の障害による休業日、③正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日、については、当事者間の衡平の観点から全労働日から除外されます。
02八千代交通事件最高裁判決との関係
本通達は、八千代交通事件最高裁第一小法廷平成25年6月6日判決(労判1075号21頁)の判示内容を踏まえた行政解釈です。同判決は、無効な解雇により就労できなかった日は「労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日」に当たり、出勤率算定において出勤日数に算入すべきと判示しました。
行政通達は最高裁判決の射程を整理し、「解雇無効の場合」を②の典型例として明記するとともに、除外される不就労日(経営障害・争議行為等)との区別を明確にしています。今後の裁判実務においても、概ねこの通達の解釈に沿った判断がなされるものと考えられます。
03会社側が受けるリスクと実務上の対応
本通達が確認するとおり、解雇が無効とされた場合、会社は①バックペイ(解雇期間中の賃金支払義務)に加えて、②解雇期間中の不就労日が出勤日数に算入されることで年次有給休暇の付与要件を満たし、年次有給休暇の付与義務まで生じる可能性があります。
特に、解雇期間が長期にわたった場合(例:訴訟が1〜2年継続した場合)は、その期間中に年次有給休暇が複数回付与され、未消化の有給休暇が相当日数蓄積する可能性があります。この有給休暇は、復職後に取得されるか、退職時の買取問題に発展するかのいずれかとなり、会社の追加負担となります。
解雇を検討している会社は、この点も含めた総合的なリスク計算を行った上で判断することが重要です。解雇よりも退職勧奨による合意退職を先に検討することが、実務上のリスク管理として有効な場面も多くあります。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。解雇無効リスク・年次有給休暇対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
04よくある質問(FAQ)
Q. 解雇無効の場合、必ず年次有給休暇の付与義務が発生しますか?
発生する可能性が高いといえます。解雇期間中の不就労日が出勤日数に算入されることで出勤率8割以上の要件を充足し、年次有給休暇が付与されます。ただし、付与日数は在籍期間や解雇前の出勤率によって異なります。
Q. 不可抗力や経営上の都合による休業の場合はどうなりますか?
行政通達が示すとおり、不可抗力による休業日および使用者側に起因する経営・管理上の障害による休業日は、全労働日から除外されます。これらの日は出勤日数に算入されません。解雇無効の場合とは取扱いが異なる点に注意が必要です。
Q. 解雇が有効と認められるためにはどのような準備が必要ですか?
客観的合理的な理由(労契法16条)の存在が必要です。具体的には、注意指導の書面記録、就業規則に基づく懲戒処分の履践、問題行為の証拠保全などが不可欠です。これらが不十分な状態での解雇は無効リスクが高まります。実施前に会社側専門の弁護士に相談することを強くお勧めします。
Q. 解雇後に労働者から労働審判を申し立てられた場合、どう対応すればよいですか?
申立書受領から第1回期日まで約1か月しかありません。受領した当日に会社側専門の弁護士に相談し、答弁書の作成・証拠収集を速やかに進める必要があります。労働審判は初回期日の準備が結果を大きく左右します。
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最終更新日:2026年5月10日