労働問題88 解雇無効時の年次有給休暇出勤率算定【会社側弁護士が解説】

 解雇が後に無効と判断された場合、会社が負うリスクは賃金の遡及支払(バックペイ)だけではありません。解雇期間中の不就労日が年次有給休暇(労基法39条)の出勤率算定においても「出勤日数」に算入されるという問題が生じます。この点を見落としたまま解雇を強行すると、年次有給休暇の付与義務まで追加で発生し、企業の負担は想定をはるかに超えることがあります。

 本ページでは、八千代交通事件最高裁第一小法廷平成25年6月6日判決の内容を踏まえ、使用者側・会社側の立場から実務上の注意点を解説します。解雇を検討している経営者や人事担当者の方は、必ず事前にご確認ください。

01八千代交通事件最高裁判決の判示内容

 八千代交通(年休権)事件最高裁第一小法廷平成25年6月6日判決(労判1075号21頁)は、労基法39条1項および2項における出勤率算定の場面で、以下のように判示しました。

 「無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日であり(中略)法39条1項及び2項における出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。」

 すなわち、解雇が無効と判断された場合、その解雇期間中に就労できなかった日は「労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日」として、出勤率の計算上は出勤したものとして扱われます。これにより、年次有給休暇の付与要件(出勤率8割以上)を満たすことになり、会社は追加の年次有給休暇を付与しなければならない事態が生じます。

02判決の背景にある法的考え方

 労基法39条の出勤率要件(8割以上)は、欠勤率が特に高い労働者を年次有給休暇の対象から除外するために設けられたものです。そのため、欠勤の原因が労働者の責めに帰すべき事由による場合には、全労働日から除外せず出勤日数に算入しないことが原則とされています。

 一方、不可抗力や使用者側に起因する休業など、労働者の責めに帰すことができない理由による不就労については、衡平の観点から出勤日数に算入するのが相当とされています。無効な解雇による就労不能はまさにこれに該当し、会社が一方的に就労を拒んだ以上、その期間を出勤日数に算入するのは当然の帰結といえます。

03会社側が受けるリスクの全体像

 解雇が無効と判断された場合、会社が負担するリスクは複数に及びます。まず最も大きいのがバックペイ(解雇期間中の未払賃金)です。解雇日から復職日または判決確定日まで、毎月の賃金相当額を支払い続ける義務が生じます。月給30万円の社員を解雇して2年後に無効判断が出た場合、元本だけで720万円の支払義務が生じます。

 これに加え、本判決により年次有給休暇の問題が発生します。解雇期間中の日数が出勤日数に算入されることで、年次有給休暇の付与要件を充足し、追加の有給休暇が発生する可能性があります。この年次有給休暇については、復職後に取得されるか、退職時に買取が問題になるか、いずれの場面でも会社の追加コストとなり得ます。

 さらに、解雇無効が確定すると、社員が復職を求めてくる可能性もあります。バックペイ・年次有給休暇・復職という三重のリスクを念頭に置いて、解雇の判断は慎重に行う必要があります。

04実務上の対応策:解雇前に弁護士へ相談する

 解雇が有効か無効かは、解雇理由の客観的合理性と社会通念上の相当性(労契法16条)によって判断されます。単に「問題がある」と感じていても、それだけでは有効な解雇とは認められません。注意指導の記録が不十分な場合、懲戒処分を経ずにいきなり解雇した場合、就業規則上の手続を踏んでいない場合などは、解雇無効と判断されるリスクが高まります。

 解雇を検討している会社は、実施前に必ず会社側専門の弁護士に相談し、解雇の有効性を見極めることが重要です。万が一無効と判断された場合に備えて、早期解決(退職勧奨による合意退職)を視野に入れておくことも、経営上の合理的な判断です。問題社員への対応に早くから弁護士が関与していれば、解雇に至らずに問題を収束させられる可能性も高まります。

SUPERVISOR
弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。解雇の有効性判断・解雇無効リスクへの対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

05よくある質問(FAQ)

Q. 解雇が無効と判断された場合、年次有給休暇の問題は必ず発生しますか?

 発生する可能性が高いといえます。解雇期間中の不就労日が出勤日数に算入される結果、出勤率8割以上の要件を充足し、年次有給休暇が付与されることになります。ただし、解雇前の出勤状況や在籍期間によって付与日数は異なります。バックペイとともに、この点も踏まえた早期解決の検討が重要です。

Q. 解雇を実施する前にどのような準備が必要ですか?

 解雇の有効性を高めるために、注意指導の書面記録、懲戒処分の実施、就業規則上の手続の遵守が不可欠です。これらが整っていない場合は、解雇よりも退職勧奨による合意退職を先に検討することが実務上の定石です。いずれにしても、実施前に会社側専門の弁護士に相談することを強くお勧めします。

Q. 解雇後に紛争が生じた場合、どう対応すればよいですか?

 労働審判や訴訟に発展する前に、早期の合意解決(退職合意書による清算)を目指すことが多くの場合で合理的です。解雇が有効か無効かの見通しを踏まえ、バックペイ・年次有給休暇・訴訟コストを総合的に考慮した上で方針を決定します。紛争が生じた段階でも、会社側専門の弁護士への速やかな相談が重要です。

Q. 退職勧奨と解雇はどう使い分ければよいですか?

 退職勧奨は、社員の同意を得て合意退職させる手続であり、解雇の有効性を巡る紛争リスクを回避できます。解雇は一方的な意思表示であり、有効性が争われた場合のリスクが大きい手段です。解雇が有効になる状況(十分な注意指導・懲戒処分の積み重ね)を作った上で退職勧奨を行い、断られた場合の最終手段として解雇を検討するのが実務上の基本的な進め方です。

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最終更新日:2026年5月10日

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