労働問題90 社員が行方不明の場合に解雇することはできますか。
目次
行方不明社員の解雇は「解雇通知の到達」が最大の課題です。完全に行方不明の場合は公示による意思表示(民法98条・簡易裁判所)が必要です。家族・身元保証人への通知では足りません。
解雇の意思表示は相手方への到達が必要です(民法97条1項)。行方不明の場合は到達の確保が問題となります。状況に応じて自宅への通知・メール・公示による意思表示を使い分ける必要があります。
■ 解雇の意思表示は到達が必要:行方不明は到達確保が課題
解雇は通知が相手方に到達して初めて効力を生じます(民法97条1項)。行方不明の場合、解雇通知をどこに発送すれば到達したと認められるかが問題です。
■ 自宅が把握できる場合:自宅への通知で足りるケースと足りないケース
自宅に居住している場合は自宅への到達で有効。しかし自宅が引き払われている・長期間不在の場合は自宅への到達でも社員の支配権内に置かれたとは言えません。
■ 完全に行方不明の場合:公示による意思表示(民法98条)が必要
完全に行方不明の場合は、簡易裁判所において公示による意思表示の手続を取る必要があります。家族・身元保証人への通知では足りません。
1. 行方不明社員の解雇——解雇理由は問題になりにくいが通知方法が課題
長期無断欠勤は解雇事由に該当するのが通常
長期間の無断欠勤は、普通解雇事由及び懲戒解雇事由に該当するのが通常ですので、行方不明のため長期の欠勤が続いている場合には、解雇を通知することができれば、解雇は有効と判断される可能性が高いです。
しかし、いくら捜しても社員が行方不明の場合は、どこ宛に解雇通知書を発送すればいいのかといった解雇を通知する方法が問題となります。解雇の意思表示は、解雇通知が相手方に到達して初めてその効力を生じるため(民法97条1項)、有効無効以前の問題として、解雇通知が行方不明の社員に到達しなければ解雇の効力を生じる余地はありません。
2. 状況別の解雇通知方法
①自宅に居住している場合(単に出社を拒否しているケース)
社員が自宅で生活しており、単に出社を拒否しているに過ぎないような事案であれば、社員の自宅に解雇通知が届けば社員の支配権内に置かれたことになりますから、実際に社員が解雇通知を読んでいなくても、解雇の意思表示が到達したことになります。
②自宅が引き払われている・長期間帰宅形跡なしの場合
会社が把握している自宅が引き払われているなど本当の意味での行方不明でどこに住んでいるのか皆目見当がつかない場合は解雇通知を発送すべき宛先が分かりません。
会社が把握している社員の自宅が引き払われてはいなくても、長期間にわたり社員が自宅に戻っている形跡が全くないような場合は、社員の自宅に解雇通知が到達したとしても社員の支配権内に置かれたと評価することはできませんので、解雇の意思表示が社員に到達したことにはならず、解雇の意思表示は効力を生じません。
③電子メールによる通知
電子メールによる解雇通知は、行方不明の社員からの返信があれば、通常は解雇の意思表示が当該社員に到達し、解雇の効力が生じていると考えることができます。ただし、メールに返信があるような事案は、そもそも行方不明と言えるのか問題となる余地がありますので、解雇権濫用(労契法16条)とされないよう、解雇に先立ち行方不明の社員と連絡を取る努力を尽くす必要があります。
他方、行方不明の社員からメール返信がない場合は、解雇の意思表示が到達したと考えることにはリスクが伴いますが、連絡を取る努力を尽くした上で、リスク覚悟で退職処理してしまうということも考えられます。
④家族・身元保証人への通知——原則として効力なし
行方不明の社員の家族や身元保証人に対し、行方不明の社員を解雇する旨の解雇通知を送付しても、解雇の意思表示が到達したとは評価することができず、解雇の効力は生じないのが原則です。
兵庫県社土木事務所事件最高裁第一小法廷平成11年7月15日判決では特殊な事案において解雇の効力発生が認められていますが、射程を広く考えることはできません。通常、家族に解雇通知書を交付し社内報に掲載したといった程度で解雇の意思表示が到達したと考えるのは困難です。
⑤完全に行方不明の場合:公示による意思表示(民法98条)
完全に行方不明の社員に対し、解雇を通知する場合は、簡易裁判所において公示による意思表示(民法98条)の手続を取る必要があります。公示による意思表示の要件を満たせば、解雇の意思表示が行方不明の社員に到達したものとみなしてもらうことができます。
行方不明社員への対応方針・解雇通知の到達確保・公示による意思表示の手続について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら
3. まとめ
行方不明社員の長期無断欠勤は解雇事由に該当するのが通常ですが、解雇の意思表示は相手方への到達が必要(民法97条1項)であるため、到達方法が最大の課題です。自宅に居住している場合は自宅への通知で足ります。しかし自宅が引き払われている・長期間帰宅形跡がない場合は自宅への到達でも不十分です。電子メールへの返信があれば到達と考えることができます。家族・身元保証人への通知は原則として効力がありません。完全に行方不明の場合は、簡易裁判所において公示による意思表示(民法98条)の手続が必要です。具体的な対応については弁護士に相談することをお勧めします。
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弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/05