労働問題71 解雇が無効と判断された場合、使用者はいつまでの賃金を支払い続けなければならないのですか?
目次
解雇が無効なら、就労が再開されるまで・または雇用関係が有効に終了するまで、賃金支払義務が継続します。紛争が長期化するほどバックペイが膨らみます。
解雇が無効と判断された場合、使用者は就労命令・解雇撤回・和解・判決確定等で雇用関係が終了するまで賃金を支払い続けなければなりません。解決を引き延ばすことは会社側のリスクを増大させるだけです。
■ 就労命令を出した場合:就労命令後の初日の前日まで
解雇を撤回して就労を命じた場合、解雇日翌日から就労命令後に就労を開始した初日の前日まで賃金支払義務を負います。
■ 就労命令を出さない場合:雇用関係が終了するまで毎月増え続ける
就労命令を出さないまま放置すると、判決確定・和解成立・合意退職等で雇用関係が終了するまで毎月賃金が積み上がります。
■ 早期解決が最善:紛争の長期化はバックペイ総額を増大させる
解決が遅れるほど未払賃金が積み上がり、解決金の水準も高くなります。解雇の有効性に疑問がある場合は早急に弁護士に相談し、早期解決を目指すことが最善策です。
1. 解雇が無効な場合の賃金支払義務の終期
原則:就労が再開されるまで・雇用関係が終了するまで
解雇が無効と判断された場合、使用者は原則として就労が再開されるまで(または雇用関係が有効に終了するまで)の賃金を支払い続けなければなりません。これは、解雇が無効である以上、労働契約は継続しており、使用者の就労拒絶が賃金を支払い続けなければならない原因となっているからです(民法536条2項)。
具体的な賃金支払義務の終期は、雇用関係がどのように終了するかによって異なります。
就労命令を出した場合の終期
解雇を撤回して就労を命じた場合、概ね解雇日の翌日から解雇撤回後に就労を命じた初日の前日まで、解雇期間中に対する賃金の支払義務を負うことになります。就労命令を出した後は、実際に就労した日から賃金が発生します。
したがって、解雇の有効性に疑問がある場合は、早期に解雇を撤回して就労を命じることで、積み上がるバックペイを最小限に抑えることができます。
就労命令を出さない場合の終期
使用者が就労命令を出さないまま紛争が継続する場合は、判決確定・和解成立・合意退職等で雇用関係が終了するまで、毎月賃金支払義務が積み上がっていきます。
月給30万円の社員を解雇した場合、紛争が2年間継続して解雇が無効と判断されると、既発生の未払賃金元本だけで30万円×24か月=720万円の支払義務を負うことになります。この金額はその後も毎月増え続けます。
2. 労働者が復職を拒否した場合・使用者が就労を拒否した場合
就労命令に対して労働者が復職を拒否した場合
使用者が就労命令を出したにもかかわらず、労働者が復職を拒否した場合、就労命令を出した日以降は、使用者の帰責事由による就労不能ではなく、労働者の側の事情による就労不能となり得ます。この場合、就労命令を出した日以降の賃金支払義務を免れる可能性があります。
ただし、実務上は労働者が「職場環境が変わっており安全配慮義務上問題がある」等の理由で復職を拒否するケースもあり、個別の状況に応じた判断が必要です。就労命令を出す場合も、弁護士と相談しながら進めることをお勧めします。
使用者が就労を拒否し続けた場合
使用者が就労命令を出さずに就労を拒否し続けた場合、判決確定・和解成立・合意退職等で雇用関係が終了するまで賃金支払義務が継続します。紛争が長期化するほど未払賃金の総額が膨らみ、解決金の水準も高くなります。解決を引き延ばすことは会社側にとって一切利益がありません。
⚠ 解雇の効力が争われた場合の経営者の心理的誤解
「裁判が長引いても、どうせ負けてから払えばいい」→ 誤りです。
紛争が長期化するほど未払賃金が積み上がります。2年間の紛争で720万円のバックペイが発生し、その後も毎月増え続けます。早期解決の方が総コストを低く抑えられます。
「解雇無効とされても、復職さえさせれば後は払わなくていい」→ 慎重な判断が必要です。
就労命令を出しても、労働者が復職を拒否したり、復職環境に問題がある場合は、さらなる紛争に発展する可能性があります。就労命令の出し方・タイミングについても弁護士と協議することが重要です。
3. 実務上の対応:早期解決が最善策
解雇の有効性を正直に評価する
解雇の効力が争われている場合、まず弁護士とともに解雇の有効性を正直に評価することが重要です。解雇が無効とされる可能性が高い場合は、早期に解決策を検討することが会社側のバックペイリスクを最小限に抑える最善策です。
具体的な選択肢として、①解雇を撤回して就労を命じる(バックペイを最小化できる)、②早期に和解・合意退職の成立を目指す(復職なしで解決できる)、③労働審判・訴訟において適切な解決金の水準を目指す、などが考えられます。
和解による金銭解決が実務上多い
解雇が無効と判断された場合でも、判決ではなく和解によって一定の金銭を支払うことで解決することが実務上多く見られます。使用者としては復職よりも金銭解決を望むことが多く、労働者側も解決金を受け取って退職することを選ぶケースがあります。解決金の水準はバックペイ(未払賃金額)を基準として決まることが多く、紛争が長期化するほど解決金が高額になります。
解雇の有効性評価・バックペイリスクの算定・早期解決の方針について、早めの弁護士へのご相談をお勧めします。解雇の効力が争われた段階での早急な相談が、総コストを最小化する最善策です。→ 経営労働相談はこちら
⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)
・「解雇の有効性に疑問があったが、認めたくない気持ちから放置した。2年後に解雇が無効とされ、720万円のバックペイ+遅延損害金の支払いを余儀なくされた。早期に解雇を撤回して就労命令を出していれば、ここまで高額にならなかった」
・「解雇の効力が争われた段階で弁護士に相談し、解雇の有効性を正直に評価した。有効性に疑問があったため解雇を撤回し就労命令を出すとともに、早期和解を目指した。合意退職が成立し、バックペイを最小限に抑えることができた」
解雇の効力が争われた場合の早期対応が、会社側の経済的負担を大きく左右します。
4. まとめ
解雇が無効と判断された場合、使用者は就労が再開されるまで(または雇用関係が有効に終了するまで)の賃金を支払い続けなければなりません。就労命令を出した場合は就労命令後の就労開始初日の前日まで、就労命令を出さない場合は判決確定・和解成立・合意退職等で雇用関係が終了するまで賃金支払義務が継続します。紛争が長期化するほどバックペイ総額が増大します。解雇の有効性に疑問がある場合は早急に弁護士に相談し、解雇撤回・就労命令・早期和解等の対応を検討することが、会社側の経済的負担を最小化する最善策です。
さらに詳しく知りたい方はこちら
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■ 解雇のリスクと対応方針
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/05