労働問題66 民法628条と労契法17条1項の関係を教えて下さい。
目次
労契法17条1項は強行法規です。「やむを得ない事由」なしの解雇合意は無効です。契約期間中に終了させたい場合は合意退職か契約期間満了時の雇い止めによるべきです。
労働契約法17条1項の施行により「やむを得ない事由」がない場合には使用者は契約期間中に解雇できないことが明確化されました。強行法規のため当事者合意による排除もできません。使用者が契約期間中に終了させたい場合は合意退職または雇い止めによる対応が必要です。
■ 労契法17条1項は強行法規:「やむを得ない事由」なし解雇合意は無効
「やむを得ない事由」がない場合でも解雇できる旨の合意は労契法17条1項に反し無効です。当事者間の合意で労契法17条1項の適用を排除することはできません。
■ 使用者が契約期間中に終了させたい場合の対応:合意退職か雇い止め
上乗せの退職条件を提示するなどして話し合いで合意退職を成立させるか、契約期間満了時の雇い止めによって契約を終了させることが現実的な対応です。
■ 労働者の辞職制限:就業規則で緩和可能
民法628条は労働者の辞職にも適用がありますが、使用者側と異なり、就業規則・労働契約書で辞職制限を緩和する合意をすることは可能です。
1. 民法628条と労働契約法17条1項の関係
労契法17条1項の規定と趣旨
使用者は、有期労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができません(労働契約法17条1項)。
民法628条は「やむを得ない事由」があるときに契約期間中の解除を認める規定ですが、「やむを得ない事由」がない場合に雇用契約の解除をすることができるのかについては必ずしも明らかではなく、見解の対立がありました。労契法17条1項の施行により、「やむを得ない事由」がない場合には、使用者は契約期間満了までの間に労働者を解雇できないことが明確となりました。
労契法17条1項は強行法規:合意による排除は無効
労契法17条1項は強行法規ですから、有期労働契約の当事者が民法628条の「やむを得ない事由」がない場合であっても契約期間満了までの間に労働者を解雇できる旨合意したとしても、同条項に違反するため無効となります。使用者は民法628条の「やむを得ない事由」がなければ契約期間中に解雇することができません。
これは、たとえ労働者側が「解雇されても構わない」と同意していたとしても変わりません。労契法17条1項は労働者保護のための強行規定であり、当事者間の合意で排除することはできないのです。
✕ よくある経営者の誤解
「労働契約書に『いつでも解雇できる』と書いておけば解雇できる」→ 無効です。
労契法17条1項は強行法規であり、当事者間の合意で排除することはできません。「いつでも解雇できる」旨の合意は同条項に反し無効です。
「パートの契約書に『会社が必要と認めた場合は解雇できる』と記載しているから問題ない」→ 問題があります。
有期契約である以上、「やむを得ない事由」がなければ契約期間中の解雇はできません。就業規則・労働契約書の記載がいかなるものであっても、労契法17条1項の制限を排除することはできません。
2. 使用者が契約期間中に終了させたい場合の対応
合意退職の追求:上乗せの退職条件を提示して話し合う
使用者が契約期間中に有期労働契約を終了させたいと考えたとしても、契約期間中の解雇は「やむを得ない事由」がない限り行えないのですから、通常は上乗せの退職条件を提示するなどして話し合いで退職の同意を取り付けるか、契約期間満了時の雇い止めにより契約を終了させるべきことになります。
合意退職(退職届の提出)は、解雇と異なり「やむを得ない事由」を必要としません。本人が納得して退職に同意すれば、契約期間の途中であっても雇用関係を終了させることができます。合意退職が成立しやすくするためには、残存期間分の賃金の一部または全部を支払う等の上乗せ条件を提示することが実務上有効です。
合意退職が難しい場合:契約期間満了時の雇い止め
合意退職の話し合いがうまくいかない場合は、契約期間満了まで待って雇い止め(更新拒絶)により契約を終了させることが現実的な対応となります。雇い止めについては「やむを得ない事由」よりも相対的にハードルが低く(ただし雇い止め法理の適用に注意が必要)、また契約期間満了という明確な区切りがあるため、説明がしやすい面があります。
有期契約労働者との契約期間中の問題対応・合意退職の進め方・雇い止めの可否確認について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら
3. 有期契約労働者の辞職制限と就業規則による緩和
民法628条は労働者の辞職にも適用される
民法628条は有期契約労働者の辞職についても適用があり、原則として「やむを得ない事由」がなければ、有期契約労働者は契約期間中に辞職することはできません。これは使用者による解雇の制限と対称的な規定です。
就業規則・労働契約書による辞職制限の緩和が可能
もっとも、契約期間中の労働者の辞職の制限について労契法17条1項があえて規定していないことからすれば、労働者の辞職については「やむを得ない事由」がなくても行うことができる旨労使間で合意することができるものと考えられます。
したがって、例えば有期契約労働者の就業規則や労働契約書に「退職の申し出をしてから14日を経過した場合」が退職事由として規定されているような場合は、「やむを得ない事由」がなくても、有期契約労働者は退職日の14日前に退職を申し出ることにより契約期間満了前に退職することができることになります。
使用者による解雇の制限(労契法17条1項は強行法規のため合意による排除不可)と、労働者の辞職の制限(労契法17条1項の規定なしのため合意による緩和が可能)という非対称な関係に注意が必要です。
⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)
・「契約社員の就業規則に『会社が必要と認めた場合は解雇できる』と規定し、「やむを得ない事由」なしに期間途中で解雇した。労契法17条1項違反として解雇無効・残期間分の賃金支払いを求められた」
・「有期契約のパートに問題があった。『やむを得ない事由』には該当しないと判断し、残期間分を含む退職条件を提示して合意退職を実現した。後のトラブルなく解決できた」
労契法17条1項の強行法規性を理解した上で、合意退職・雇い止めによる適切な対応を取ることが重要です。
4. まとめ
労働契約法17条1項の施行により、「やむを得ない事由」がない場合には使用者は契約期間満了までの間に労働者を解雇できないことが明確となりました。同条項は強行法規であり、「やむを得ない事由」なしで解雇できる旨の合意も無効です。使用者が契約期間中に有期契約を終了させたい場合は、合意退職(上乗せの退職条件提示による話し合い)か契約期間満了時の雇い止めによることが現実的な対応です。一方、労働者の辞職の制限については労契法17条1項が規定していないため、就業規則・労働契約書により辞職制限を緩和する合意をすることは可能です。
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弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/05
