労働問題65 「やむを得ない事由」があれば解雇予告なしに「直ちに」有期契約労働者を普通解雇できますか?会社側弁護士が解説
目次
民法628条の「直ちに」は解雇予告義務を免除しません。即時解雇には労基法20条1項ただし書の要件も別途必要です。「やむを得ない事由」≠「即時解雇可能」です。
民法628条の「やむを得ない事由」があっても、解雇予告義務(労基法20条)は原則として適用されます。即時解雇が認められるには、さらに「労働者の責に帰すべき事由」等(労基法20条1項ただし書)に該当する必要があります。
■ 民法628条の「直ちに」は解雇予告義務を免除しない
民法628条の「直ちに契約の解除をすることができる」は、契約期間の定めや民法627条に拘束されないという意味に過ぎず、労基法上の解雇予告義務は原則として適用されます。
■ 即時解雇には労基法20条1項ただし書の要件も必要
解雇予告なしで即時解雇するには、①天災事変等で事業継続が不可能な場合、または②労働者の責に帰すべき事由に基づく解雇(労基署の除外認定が必要)のいずれかに該当する必要があります。
■ 実務上の対応:原則として解雇予告手当を支払う
労基法21条の適用除外に該当しない限り、有期契約労働者を期間途中で解雇する場合も、解雇予告(30日前)または解雇予告手当の支払いが必要です。
1. 民法628条の「直ちに」と解雇予告義務の関係
民法628条の「直ちに」の正確な意味
民法628条は、「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる」と規定しています。一見、「やむを得ない事由」があれば「直ちに」有期契約労働者を普通解雇することができるようにも読めますが、これは契約期間の定めや民法627条等に拘束されないことを言っているに過ぎません。
民法628条の「直ちに」は、「有期契約であっても契約期間満了を待たずに解雇できる」という意味であり、「解雇予告なしで即日解雇できる」という意味ではありません。原則として労基法上の解雇予告義務(労基法20条)の適用があります。
解雇予告義務の原則的な内容
労働基準法20条1項は、使用者が労働者を解雇する場合には少なくとも30日前に解雇の予告をする義務を課しています。30日前に予告しない場合は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。有期契約労働者を期間途中で解雇する場合も、この解雇予告義務が原則として適用されます。
2. 即時解雇が認められる例外的な場合
労基法20条1項ただし書の二つの例外
使用者が有期契約労働者を期間途中で即時解雇するためには、民法628条の「やむを得ない事由」に加えて、以下の労基法20条1項ただし書の要件にも該当する場合でなければなりません。
①天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合:地震・火災等の天災事変や、それに準じる事業継続が不可能な事態が発生した場合。ただしこの場合も、事前または事後速やかに労働基準監督署長の認定を受ける必要があります(労基法20条3項)。
②労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合:労働者側に重大な落ち度・非違行為がある場合。ただしこの場合も、解雇前に労働基準監督署長の除外認定(労基法20条3項)を受けることが必要です。
労基法21条の適用除外に該当する場合
また、労基法21条各号に規定する者(日々雇用される者・2か月以内の期間を定めて使用される者等)については、そもそも解雇予告義務が適用されません。ただし、これらの者が所定の期間を超えて継続して使用されるに至った場合は、解雇予告義務が適用されます。
✕ よくある経営者の誤解
「横領した社員がいる。やむを得ない事由があるのだから、今すぐ即日解雇できる」→ 慎重な手続が必要です。
「やむを得ない事由」があっても、即時解雇には労基法20条1項ただし書の要件も必要です。②「労働者の責に帰すべき事由」に基づく解雇の場合でも、原則として労働基準監督署長の除外認定が必要です。手続を踏まずに即時解雇すると解雇予告手当の支払義務が生じるリスクがあります。
「民法628条に『直ちに』と書いてあるのだから、予告なしで解雇できるはず」→ 誤りです。
「直ちに」は「契約期間満了を待たずに解雇できる」という意味であり、「解雇予告なしで即日解雇できる」という意味ではありません。解雇予告義務は労基法によって別途課されています。
3. 実務上の対応:解雇予告手当を支払うのが原則
解雇予告手当の支払いが原則的な対応
有期契約労働者を期間途中で解雇する場合(民法628条の「やむを得ない事由」がある場合)、労基法21条の適用除外に該当しない限り、解雇予告(30日前)または解雇予告手当の支払いが必要です。即時解雇(当日解雇)が認められるための労基法20条1項ただし書の要件を満たすかどうかの判断は慎重に行う必要があり、判断に迷う場合は事前に弁護士に相談することをお勧めします。
実務上は、「やむを得ない事由」による期間途中解雇であっても、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払った上で即時解雇(当日解雇)とするケースが多く見られます。解雇予告手当を支払えば解雇予告なしで即時解雇することができます(労基法20条1項)。
有期契約労働者の期間途中解雇の手順・解雇予告義務の適用・除外認定の要否について、実施前の弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら
⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)
・「契約社員が横領した。『やむを得ない事由』があるから解雇予告なしで即日解雇した。後から解雇予告手当の請求をされ、労基署への除外認定申請をしていなかったため支払義務が生じた」
・「パートタイマーを期間途中で解雇した際に、解雇予告手当(30日分の平均賃金)を支払った上で当日解雇とした。解雇予告手当の支払があるため、解雇予告義務違反とはならなかった」
「やむを得ない事由」があれば手続不要と思い込んでいるケースが多いですが、解雇予告義務は別途の手続です。事前に弁護士に相談し、適切な手順を確認してください。
4. まとめ
民法628条の「やむを得ない事由」があっても、解雇予告義務(労基法20条)は原則として適用されます。「直ちに」という文言は「契約期間満了を待たずに解雇できる」という意味であり「解雇予告なしで即日解雇できる」という意味ではありません。即時解雇が認められるためには、さらに労基法20条1項ただし書(天災事変等で事業継続不可能・労働者の責に帰すべき事由)に該当することが必要であり、後者については労働基準監督署長の除外認定が必要です。有期契約労働者を期間途中で解雇する場合は、原則として解雇予告(30日前)または解雇予告手当の支払いが必要です。実施前に必ず弁護士に相談してください。
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弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/05
