労働問題59 試用期間中の社員は通常よりも緩やかな基準で本採用拒否(解雇)できますよね?

この記事の要点

「緩やかな基準」は「客観的合理的理由が不要」ではありません。証拠による立証が必要なことは通常の解雇と変わりません。日報等で具体的な事実を記録することが不可欠です。

試用期間中の本採用拒否は通常の解雇より裁量の範囲が広いとされていますが、客観的合理的理由が必要であり、証拠により立証できることも求められます。「勤務態度が悪い」という抽象的評価だけでは不十分です。

裁量の範囲は広い:通常の解雇よりハードルは相対的に低い

試用期間中の本採用拒否は、本採用後の解雇よりも広い範囲の解雇の自由が認められます(三菱樹脂事件最高裁大法廷判決)。ただし「自由に解雇できる」わけではありません。


客観的合理的理由+証拠は必須:主観的判断だけでは不十分

本採用拒否には客観的合理的理由が必要であり、証拠によりその理由を立証できなければなりません。使用者が主観的に「本採用に値しない」と判断しただけでは足りません。


具体的な事実の記録が必須:日報・指導記録等の整備

「何月何日に・どこで・誰が・何をしたか」という具体的事実を客観的証拠で示せるようにしておくことが不可欠です。日報への記載・指導担当者のコメント等が有効な方法です。

1. 「広い範囲の解雇の自由」の意味

三菱樹脂事件最高裁判決が示した「広い裁量」

 試用期間中の社員の本採用拒否は、本採用後の解雇と比べて使用者が持つ裁量の範囲は広いと考えられています。三菱樹脂事件最高裁昭和48年12月12日大法廷判決も、解約権留保の趣旨を「採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他管理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行ない、適切な判断資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨」と捉えた上で、「通常の解雇の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものと判示しています。

 これは、採用選考の段階では判断しきれなかった適性・能力・人柄等を実際の業務を通じて評価する期間が試用期間である以上、その評価結果として本採用に値しないと判断できる範囲が、本採用後より広くなるという意味です。

「緩やかな基準」の正確な意味

 「緩やかな基準」とは次の式で正確に理解する必要があります。

 本採用拒否の有効性が緩やかに判断される
 ≠本採用拒否に客観的合理的な理由が不要
 ≠本採用拒否に客観的合理的な理由があることを証明するための客観的証拠が不要

 つまり「緩やかな基準」とは「証拠不要」ではありません。客観的合理的理由が必要であり、その理由を証拠により立証できることが求められることは、通常の解雇と変わりません。

2. 客観的合理的理由の立証:主観的判断では足りない

「裁判官の目から見て正当化できる事情」が必要

 本採用拒否に客観的合理的な理由が必要ということは、使用者が主観的に「本採用するに値する人物ではない」と判断したというだけでは足りず、裁判官の目から見ても本採用拒否を正当化できるだけの事情が存在することを証拠により証明することができるようにしておく必要があることを意味します。

 「なんとなく合わない気がする」「勤務態度が悪い」「能力が低い」という抽象的・主観的な評価だけでは不十分です。具体的に、何月何日に、どこで、誰が、どのように、何をしたのかといった事実を客観的証拠により認定できるようにしておく必要があります。

抽象的評価だけでは本採用拒否できない

 「勤務態度が悪い」「能力が低い」という表現自体は間違っていません。しかしこれだけでは裁判で証明できません。「○月○日の会議で、上司の指示に対して○○という不適切な発言をした」「○月の業務において、○○の指示を受けたにもかかわらず、期限までに○○ができなかった」というように、具体的な事実として記録されている必要があります。

✕ よくある経営者の誤解

「試用期間中なら証拠がなくても本採用拒否できる」→ 誤りです。
「緩やかな基準」は「証拠不要」を意味しません。客観的証拠により具体的な事実を立証できなければ、本採用拒否は無効とされるリスクがあります。

「感覚的に合わないから本採用拒否してよい」→ 誤りです。
主観的な判断だけでは不十分です。「何月何日に、どこで、誰が、何をしたか」という客観的事実が証拠として必要です。「なんとなく合わない気がする」は理由になりません。

3. 証拠確保の実務:日報・指導記録等の整備

日報による証拠確保が有効

 客観的証拠確保の方法として、例えば試用期間中の社員は毎日日報に反省点等を記載させることとし、指導担当者がコメントする等といった方法が考えられます。日報に本人自身が問題点を記載する形になれば、後から「そんな問題はなかった」と主張されにくくなります。指導担当者のコメントも客観的証拠となります。

 その他の証拠確保の方法として、①面談記録(日時・出席者・指摘した問題点・本人の反応)、②業務指示書と達成状況の記録、③注意指導書・改善指示書、④メール等の電子記録(問題行動の指摘と本人の返答)などが挙げられます。

試用期間開始時から記録する習慣を

 試用期間中に本採用拒否が必要になるかどうかは、開始時点ではわかりません。しかし、問題が生じてから記録を取り始めようとしても、それまでの期間の問題行動の記録がなく、「突然問題を指摘した」という印象を与えてしまいます。試用期間の開始時から、日報・面談記録等の記録を残す仕組みを整えておくことが重要です。これは本採用した場合でも人材育成・労務管理の記録として有用です。

 本採用拒否の可否判断・証拠の十分性の評価・合意退職の進め方について、早めの弁護士へのご相談をお勧めします。試用期間を経過させてしまう前に方針を固めることが最重要です。→ 経営労働相談はこちら

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

・「試用期間中から問題を感じていたが記録を残していなかった。本採用拒否時に『勤務態度が悪かった』と説明したが具体的事実を証明できず、本採用拒否が無効とされた」

・「試用期間開始時から日報・面談記録を整備していた。本採用拒否時に具体的な事実を示すことができ、本採用拒否が有効とされた」

 試用期間の開始時から記録の仕組みを整えておくことが、本採用拒否の有効性を支える最大の対策です。

4. まとめ

 試用期間中の本採用拒否は本採用後の解雇と比べて広い範囲の解雇の自由が認められますが(三菱樹脂事件最高裁大法廷判決)、客観的合理的理由が必要であり証拠により立証できることが求められる点は変わりません。「緩やかな基準」は「証拠不要」を意味しません。使用者が主観的に本採用に値しないと判断しただけでは足りず、裁判官の目から見ても正当化できる事情を客観的証拠により証明できることが必要です。試用期間の開始時から日報・面談記録等の記録を残す仕組みを整えておくことが、本採用拒否の有効性を支える最大の対策です。本採用拒否を検討している場合は早めに弁護士にご相談ください。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/04/05

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