労働問題60 三菱樹脂事件最高裁判決の本採用拒否基準「客観的合理的理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合」とは具体的にどういった場合ですか?

この記事の要点

緩やかな基準が適用されるのは「当初知ることができず知ることが期待できない事実」に基づく本採用拒否に限られます。採用面接時に知り得た事実では緩やかな基準は適用されません。

三菱樹脂事件最高裁大法廷判決は、緩やかな基準での本採用拒否を「当初知ることができず知ることが期待できない事実が試用期間中に判明した場合」に限定しています。採用段階で既に知り得た事実を理由とする本採用拒否には通常の解雇基準が適用されます。

緩やかな基準の適用範囲:「当初知ることができなかった事実」に限定

採用選考時には判明しなかった事実が試用期間中に判明した場合のみ、緩やかな基準(留保解約権の行使)での本採用拒否が認められます。


採用面接時に知り得た事実:通常の解雇基準が適用される

採用面接時に既に知り得た事実を理由とする本採用拒否は、解約権留保の趣旨・目的の範囲外であり、通常の解雇基準で判断されます。


実務上の重要ポイント:「判明した時期」が基準の適用を左右する

問題となる事実が「採用選考時に知り得たか」「試用期間中に初めて判明したか」という点が、適用される基準を左右する重要な分岐点です。

1. 三菱樹脂事件最高裁判決が示した具体的な基準

判決が示した「言い換え」の内容

 三菱樹脂事件最高裁大法廷判決は、「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合」を以下のように言い換えて具体的に説明しています。

 「換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできないと解すべきである。」

判断基準の核心:「当初知ることができなかった事実」

 この判示の核心は「当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実」という要件です。緩やかな基準で認められる試用期間中の本採用拒否は、この「当初知ることができず知ることが期待できないような事実」を理由とする本採用拒否に限られます。

 採用当初から知り得た事実を理由とする解雇は、解約権留保の趣旨・目的の範囲外ですので、留保された解約権の行使としては認められません。採用面接時に知り得た事実を理由とする本採用拒否は緩やかな基準では判断されず、通常の解雇の基準で判断されることになります。

2. 「当初知ることができなかった事実」の具体例

緩やかな基準が適用される典型例

 「当初知ることができず知ることが期待できないような事実」として、緩やかな基準での本採用拒否が認められやすい典型例は次の通りです。

 ①試用期間中に明らかになった業務遂行能力の著しい不足:採用面接・筆記試験等では判断できなかった、実際の業務遂行上の深刻な能力不足が試用期間中の業務を通じて明らかになった場合。

 ②試用期間中に明らかになった勤怠不良:正当な理由のない遅刻・欠勤・無断欠勤が繰り返された場合など、採用面接では予測できなかった勤怠上の問題。

 ③試用期間中に明らかになった職場秩序を乱す行動:上司や同僚との深刻なトラブル・暴言・ハラスメント等、採用前には予測できなかった問題行動。

 ④採用後に判明した経歴詐称:採用選考時に虚偽の経歴を申告していたことが試用期間中または採用後の調査で判明した場合。

緩やかな基準が適用されない典型例

 一方、採用面接時に知り得た事実や、普通に調査すれば判明した事実を理由とする本採用拒否には緩やかな基準は適用されません。具体例として次のようなものがあります。

 ①採用面接で既に判明していた能力・適性の問題:面接・試験の結果から採用前に既に能力不足が明らかであったにもかかわらず採用し、その能力不足を理由として本採用拒否する場合。

 ②容易に確認できた学歴・職歴:採用選考時に確認すれば判明した事実(卒業証明書を確認していれば判明した学歴等)を採用後に「判明した」として本採用拒否する場合。

✕ よくある経営者の誤解

「採用面接で少し心配だったが採用したので、やはりダメだったとして本採用拒否できる」→ 要注意です。
採用面接時に既に懸念があった事実は「当初知ることができなかった事実」には当たらない可能性があります。採用面接での懸念事項を記録しておき、試用期間中に新たに判明した問題と明確に区別することが重要です。

「試用期間中なら採用面接時に知っていた問題でも本採用拒否の理由にできる」→ 誤りです。
採用面接時に知り得た事実を理由とする本採用拒否は通常の解雇基準で判断されます。緩やかな基準は適用されません。

3. 実務上の重要ポイント:「判明した時期」の記録

問題が「試用期間中に判明した」ことを明確にする

 緩やかな基準での本採用拒否を有効に行うためには、問題となる事実が「採用選考時には判明していなかったこと」「試用期間中に初めて判明したこと」を明確にしておくことが重要です。

 実務上は、①採用面接・選考時の記録を保存しておく(面接で判明した事実と試用期間中に判明した事実を区別するため)、②試用期間中に問題が判明した時点の記録(日報・面談記録等)を残しておく、③本採用拒否の理由を説明する際に「採用前には判明していなかったが試用期間中に○月○日に○○の問題が判明した」という形で具体的に説明できるようにしておく、ということが重要です。

 本採用拒否の理由となる事実が「当初知ることができなかった事実」に該当するかどうかの判断・記録の整備について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

・「試用期間中に業務能力の著しい不足が明らかになった。採用面接時には判明していなかったことを記録で示すことができ、本採用拒否が有効とされた」

・「採用面接時に既に能力への懸念があったにもかかわらず採用し、試用期間中に本採用拒否した。採用面接時に既に知り得た事実を理由とする解雇として通常の解雇基準で判断され、無効とされた」

 「判明した時期」が基準の適用を左右します。採用面接の記録・試用期間中の記録を整備しておくことが不可欠です。

4. まとめ

 三菱樹脂事件最高裁大法廷判決が示した本採用拒否基準の核心は「当初知ることができず知ることが期待できないような事実」です。緩やかな基準(解約権留保の趣旨・目的に照らした判断)が適用されるのは、採用選考時には判明しなかった事実が試用期間中に判明した場合に限られます。採用面接時に知り得た事実を理由とする本採用拒否には通常の解雇基準が適用されます。実務上は「問題が試用期間中に初めて判明した」ことを示す記録の整備が、本採用拒否の有効性を支える重要な証拠となります。本採用拒否を検討している場合は早めに弁護士にご相談ください。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/04/05

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