労働問題421 労働審判の満足度はなぜ労使で違う?経営者が知るべき「納得感」の正体と現実的な落とし所

01労働審判の満足度に関する調査結果の概要

 労働審判手続の結果に対する満足度については、東京大学社会科学研究所が実施した意識調査が参考になります。この調査によると、労働者側と使用者側とでは、満足度に明確な差が見られることが分かっています。

調査結果のポイント(東京大学社会科学研究所)

労働者側:「とても満足している」と「少し満足している」を合わせると、約60%が労働審判の結果に満足していると回答
使用者側:「全く満足していない」「あまり満足していない」と回答した割合が半数を超えた

 この数字だけを見ると、労働審判は「労働者に有利な制度」と受け止められがちですが、重要なのは、なぜこのような満足度の差が生じているのかを理解することです。単純に勝敗の問題として捉えるのでは、労働審判制度の本質を見誤るおそれがあります。

02労働者側の満足度が高い理由

 労働者側の満足度が比較的高い理由としては、労働審判手続の構造そのものが、労働者のニーズと合致している点が挙げられます。

 まず、労働審判は迅速な解決が予定されており、短期間で一定の結論が示されます。多くの労働者は、職場復帰を最優先に考えているわけではなく、早期に紛争を整理し、次の生活やキャリアに進みたいと考えています。そのため、時間をかけずに結果が得られること自体が、高い評価につながりやすいといえます。

 次に、公正な第三者による判断が示される点も重要です。裁判官と労働関係の専門家が関与し、権利義務関係を踏まえた評価が行われるため、「自分の主張がきちんと聞かれた」「不当な扱いではなかったかを判断してもらえた」という心理的な納得感を得やすい構造になっています。

 さらに、調停による金銭解決が多いことも、満足度を高める要因です。解雇や雇止めの事案では、一定額の解決金を得ることで、生活上の不安が軽減され、現実的な区切りをつけやすくなるという側面があります。

 このように、労働者側の満足度が高いのは、必ずしも「常に有利な結果が出ているから」ではなく、迅速性・公正性・実効性という制度の特徴が、労働者の期待と一致しているためと考えられます。

03使用者側の満足度が低い理由

 使用者側の満足度が相対的に低い理由は、労働審判制度の性質と、会社経営者が抱きやすい期待との間にギャップが生じやすい点にあります。

 まず、使用者側は、労働審判において「自社の対応が正当であることが明確に確認される」ことを期待する傾向があります。しかし、労働審判は、必ずしも使用者の正当性を全面的に認める場ではなく、紛争を現実的に整理することを目的とする制度です。そのため、法的には争う余地がある事案であっても、一定の金銭解決が提示されることが少なくありません。

 また、労働審判は迅速に進行するため、会社側としては、十分に主張や立証を尽くしたという感覚を持ちにくいことがあります。結果として、「言い分が十分に反映されなかった」「納得しきれないまま終わった」という印象を抱きやすく、満足度の低さにつながりやすいといえます。

 さらに、労働審判では、会社側が自ら申立てを行うケースは少なく、多くは労働者から申し立てられたことへの対応として手続に臨みます。このため、「やむを得ず参加させられた」という受動的な意識を持ちやすく、結果に対する評価も厳しくなりがちです。

 このように、使用者側の満足度が低いのは、労働審判が会社に不利な制度だからというよりも、制度の目的と会社側の期待とのずれに起因する部分が大きいと考えられます。

04労使の満足度の差が生じる背景

 労働審判の結果に対する満足度に労使間で差が生じる背景には、労働審判に期待している「ゴール」の違いがあります。

 労働者側は、労働審判を「早期に一定の区切りをつけるための手段」と捉える傾向があります。必ずしも全面的な勝利や職場復帰を求めているわけではなく、公正な評価を受け、経済的・心理的に納得できる結果が得られれば、一定の満足を得やすい構造にあります。

 これに対し、会社経営者の側は、労働審判を「自社の対応の正当性が確認される場」と期待することが少なくありません。しかし、労働審判は勝敗を明確にする制度ではなく、紛争を現実的に整理し、早期に収束させることを目的とする制度です。このため、法的に争う余地がある場合でも、調停や労働審判により一定の譲歩を求められることがあり、その点が不満につながりやすくなります。

 また、労働審判は迅速に進行するため、会社側としては「十分に主張立証を尽くした」という実感を持ちにくい一方、労働者側は「短期間で判断が示された」こと自体を評価しやすいという手続構造上の非対称性も、満足度の差を生む要因となっています。このように、労使の満足度の差は、結果の優劣そのものではなく、制度に対する期待値の違いから生じていると理解することが重要です。

05満足度の違いから見える労働審判の性質

 労働審判の結果に対する満足度が、労働者側では高く、使用者側では低い傾向にあるという点は、労働審判制度の性質そのものをよく表しています。

 労働審判は、勝ち負けを明確に決するための制度というよりも、紛争を早期に、かつ現実的に整理するための制度です。そのため、労働者側にとっては、短期間で一定の補償や評価を得られれば「十分に意味のある結果」と受け止めやすい構造になっています。

 一方で、使用者側から見ると、法的に争う余地がある事案であっても、調停や労働審判の中で一定の譲歩を求められることがあり、その点が「納得しきれない結果」と感じられやすくなります。しかしこれは、労働審判が使用者に不利な制度であるというよりも、紛争解決を優先する制度設計によるものといえます。

 満足度の違いは、労働審判が「誰かを勝たせる制度」ではなく、当事者双方にとって完全な満足には至らない可能性を前提とした制度であることを示しています。労働審判の本質は、納得度の高低ではなく、紛争が適切に整理され、将来に持ち越されない形で終結するかにあります。

06会社経営者が実務で意識すべきポイント

 労働審判の結果に対する満足度が、労働者側では高く、使用者側では低い傾向にあるという調査結果は、会社経営者にとって重要な示唆を含んでいます。まず理解すべきなのは、労働審判は「会社が納得できるかどうか」を基準に設計された制度ではないという点です。

 労働審判は、紛争を早期に整理し、当事者双方が一定の負担を引き受ける形で終結させることを目的としています。そのため、法的には争う余地がある事案であっても、一定の金銭解決や譲歩が示されることは珍しくありません。これを「不本意な結果」と捉えるのではなく、紛争処理コストを含めた経営判断の一環として評価する視点が重要です。

 また、使用者側の満足度が低くなりがちな背景には、「自社の正当性が全面的に認められるはずだ」という期待がある場合も少なくありません。労働審判に臨むにあたっては、勝敗を明確にする場ではなく、第三者による評価を踏まえて現実的な落としどころを探る場であることを前提にする必要があります。

 さらに、労働審判で示された評価は、その後の訴訟対応だけでなく、社内の人事・労務管理を見直すための重要な材料にもなります。仮に結果に不満が残ったとしても、なぜそのような評価がなされたのかを分析し、再発防止に活かす姿勢が、長期的には経営リスクの低減につながります。

経営上のポイント 労働審判の結果を「感情の満足度」で測ってはいけません。不本意な譲歩に見えても、それが本業への集中を可能にする「戦略的撤退」であるならば、経営者としての役割は十分に果たされているのです。会社経営者としては、労働審判の満足度の高低に一喜一憂するのではなく、制度の性質を正しく理解したうえで、予防的な労務管理と、紛争発生時の冷静かつ戦略的な対応を行うことが、最も重要な実務対応といえます。

参考動画

労働審判対応について網羅的に知りたい方へ

労働審判の全体像や会社側の対応戦略を体系的に理解したい方は、下記特設ページをあわせてご覧ください。

労働審判の会社側対応を網羅的に解説

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みの会社経営者の方はご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

Q&Aよくある質問

Q1. 満足度が低いのに、なぜ多くの会社は異議を申し立てず、調停に応じるのですか。

A. 感情的には納得できなくても、経済合理性から判断しているためです。訴訟に移行した場合の弁護士費用・労力、そして負けた際のリスクを考慮すると、不本意な金額であっても「ここで終わらせるのが最善」という苦渋の、しかし賢明な判断を下しているのが実態です。

Q2. 労働者が満足しているということは、やはり労働者有利な制度なのでしょうか。

A. 労働者側には「職場を失った」という大きなマイナスが前提にあります。労働審判によってそのマイナスが「ゼロ」に戻るわけではなく、あくまで「再出発の資金を得て、精神的な区切りがついた」ことへの満足です。制度が一方の味方をしているのではなく、解決のテンポが労働者の再就職サイクルに合っている、と解釈すべきです。

Q3. 経営者が満足度を高めるためにできることはありますか。

A. 審判の結果を「勝ち負け」ではなく、「自社の人事リスクを洗い出すコンサルティング」と捉え直すことです。委員会から指摘された点を次回の就業規則改定や現場指導に活かすことで、今回の紛争を未来の損失を防ぐための「授業料」に変えることができます。

最終更新日:2026年2月25日

労働問題FAQカテゴリ


Return to Top ▲Return to Top ▲