労働問題431 労働審判申立て直後に経営者が最初にすべきこと|弁護士のスケジュール確保が最優先の理由
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申立書が届いたら、急いで弁護士に相談して答弁書を準備する 申立書が届いてから第1回期日まで約1か月で、答弁書の提出期限はその1〜2週間前です。実際の準備期間は3週間程度しかありません。届いた時点で、ゆっくりしている余裕はありません。 |
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第1回期日でほぼ結論が出る 労働審判は第1回期日でほぼ勝負が決まります。答弁書をしっかり仕上げて、第1回期日で言いたいことを出し切る覚悟で臨む必要があります(426番参照)。 |
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準備不足のまま臨むと、解決水準が大幅に不利になることがある しっかり反論できていれば解決できた額が、準備不足によって会社に大きく不利な条件で調停を求められることもあります。初動の質が、最終的な損失規模に直結します。 |
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目次
01申立て直後の経営判断がすべてを左右する
労働審判を申し立てられた場合、会社経営者に求められるのは「様子を見ること」ではなく「即時対応」です。労働審判は迅速解決を制度目的とする特別手続であり、根拠法である労働審判法も、短期間での審理終結を前提としています。
申立書が会社に届いた時点で、すでに時間との戦いが始まっています。第1回期日は比較的近い日程で指定され、答弁書提出期限も短く設定されるのが通常です。「社内で検討してから」「顧問に相談してから」と段階を踏んでいる余裕はありません。
特に重要なのは、この初動段階での対応の質が、その後の解決水準に影響するという点です。誰に代理を依頼するのか、どの方針で臨むのか、和解の可能性をどう見るのか。これらを迅速に決定しなければ、準備が十分でないまま第1回期日を迎えることになります。
労働審判は、単なる労務問題ではなく、企業のリスク管理が問われる局面です。通常業務よりも優先順位を引き上げ、直ちに使用者側弁護士へ連絡を取ることが求められます。
02準備に使える時間は約3週間しかない
労働審判の申立書が届いてから第1回期日まで、原則として40日以内と定められています(労働審判規則13条)。答弁書の提出期限は第1回期日の1〜2週間前に設定されることが多く、実際に準備に使える時間は3週間程度にとどまります。
申立書が届いてから少しのんびりしていると、あっという間に残り2週間、1週間しかないという事態になりかねません。「案外時間が足りない」という認識を持つことが重要です。
さらに、労働審判は第1回期日でほぼ結論が出ます。申立書と答弁書を事前に読んで、当日本人の言い分を聞いた上で、ほぼ結論が出てしまうのです(426番参照)。「第1回期日はあくまで入口」という感覚で臨むと、実態に合いません。
会社経営者としては、「労働審判はものすごく会社側にとって忙しい手続きだ」という認識のもと、届いた日のうちに弁護士に連絡を取ることが重要です。
03なぜ弁護士への早期相談が重要なのか
申立書が届いたら急いで弁護士に相談しないと危険です。権利義務関係を踏まえた判断をする手続きである以上、法律や判例に通じた弁護士の力が不可欠です。しかし自力で3週間のうちに答弁書を書くというのは、本業が忙しい経営者にとって現実的ではありません。
もし普段から相談していた弁護士がいて、その案件の経緯も知っているのであれば、事情を説明する時間が省けます。一方、それまで弁護士に相談したことがない場合は、弁護士を探す時間、案件を説明する時間、資料を整理する時間がそれぞれかかります。3週間という限られた期間の中で、これらすべてをこなすのは大変です。
だからこそ、申立書が届いた時点で迷わず使用者側弁護士に連絡を取ることが重要です。「詳しく調べてから相談しよう」という発想は、時間を無駄にするだけです。早く弁護士に相談しないと間に合わなくなります。
04答弁書作成と第1回期日の関係
会社に有利な方向に持っていくには、しっかり答弁書で会社の言い分を伝えて、当日も言い分をしっかり話す。これが第1回期日までにできることです。
答弁書をしっかり出すところまで事実整理して言い分を伝える。それができれば、当日も楽になります。基本的に答弁書にしっかり書いてあるわけですから、メインの部分はその通り話せばよいのです。答弁書に書いていないような補足的なことを聞かれたら答えるという形でやれば、第1回期日も十分に対応できます(428番参照)。
一方、答弁書をしっかり出せていないと、当日話そうとしても整理されていないから話しにくく、なかなかうまくいきません。準備不足のまま第1回期日を迎えても、しっかり伝えるのは難しいのです。
「答弁書を一生懸命仕上げて、第1回期日で言いたいことを出し切る」という覚悟を持って臨むことが求められます。
05準備不足が招く具体的なリスク
しっかり準備できていないと、あれよあれよという間に、会社に不利な条件・金額で調停の話になってしまうことがあります。例えば、しっかり反論できていれば50万円程度で解決できたかもしれないのに、反論が不十分だったばかりに200万円の解決金を求められてしまう、というような事態も起こり得ます。
調停を断れば異議を出すことはできます。しかし異議を出すと自動的に通常裁判に移行します。1年以上かかることもある負担の重い裁判で戦わなければならなくなります。
準備不足が招くリスクの連鎖
①不利な心証形成:答弁書が不十分であれば、第1回期日前の段階で「会社側の反論は弱い」という印象が形成されることがある
②解決水準の悪化:準備不足のまま臨むと、本来より大幅に不利な条件での解決を求められることがある
③異議申立てによる裁判移行:納得できない結論に異議を出せば自動的に通常裁判へ移行し、長期間の負担を負うことになる
④機会損失:しっかり反論できていれば適切な金額で解決できた事案でも、準備不足が原因で損失が拡大することがある
「逃げ道がない」ということを理解したうえで、覚悟を決めてしっかり対応するしかありません。会社を守るために、届いた日から速やかに動き出すことが大切です。
06普段から弁護士に相談していない場合の注意点
もともと弁護士に相談していた案件であれば、事情を知っている弁護士に答弁書を書いてもらえばよいでしょう。しかしそうでない場合は、いきなり労働審判の申立書が届いたら大変です。3週間で準備しろと言われても、まず弁護士を探さなければならず、探す時間、案件を説明する時間、資料を整理する時間がすべてかかります。
事前の交渉に関わっていない弁護士だと、ゼロからスタートすることになります。弁護士を見つけて事情を伝え、資料を整理してもらうだけでも、3週間という時間はかなりきつい時間となります。
ですので、会社経営者としては、もし普段から弁護士と顧問契約を結んでいなければ、すぐに使用者側弁護士を探して相談することが急務です。申立書が届いた日のうちに動き始めることが望ましいといえます。
07感情的な対応を避けることの重要性
申立書が届くと、まだ在職中の社員から申し立てられた場合など、感情的になりがちです。申立書を見ると随分悪いことをしている会社みたいに書いてあったりすることもあり、感情的になるのはある程度自然な反応です。
しかし感情的になると、普段は合理的な判断ができる経営者であっても、判断能力が大幅に低下することがあります。その結果、うっかり何か誤った対応をしてしまい、本来は大した問題でなかったのに感情的な行動が会社に不利な状況をもたらすことがあります。
特に在職中の社員から申し立てられた場合は、労働審判の申し立て自体を理由として解雇や配転などの措置を取ることは、報復措置と受け止められて無効と評価される可能性があります。まず一呼吸置いて冷静に判断することが大事です。
とはいえ、冷静にと言われてもなかなか難しいのも事実です。そのような時のためにも、使用者側弁護士にご相談ください。感情的な判断ではなく、客観的・合理的な対応を一緒に考えることができます。
08会社経営者が直ちに整理すべき資料と情報
弁護士に相談する際には、関連する資料をできる限り早く整理しておくことが大切です。弁護士が事情を把握し、答弁書を作成するためには、会社側の事実関係と証拠資料が必要です。
事案の種類別・優先的に整理すべき資料
解雇事案:解雇理由書・指導記録・業績評価資料・改善指導の経緯・就業規則・取締役会議事録
残業代請求事案:勤怠記録・賃金台帳・固定残業代の合意内容・労働時間管理の運用実態
共通:雇用契約書・就業規則・社内でのやり取りを示すメール・面談記録・当事者への説明経緯
資料の整理と並行して、社内の情報共有窓口を一本化し、関係者を必要最小限にとどめることも重要です。担当者ごとに事実認識が異なると、信用性を損ないます。会社としての公式見解を整理したうえで弁護士と共有することが、的確な答弁書作成の土台となります。
09依頼前に決めておくべき経営方針
弁護士に正式に依頼する前に、会社経営者として整理しておくべき重要事項があります。それは「どのような方針で臨むのか」という経営判断です。
労働審判は迅速な解決を志向する手続きです。そのため、第1回期日から調停の方向性が提示されることも少なくありません。全面的に争うのか、一定の条件で早期解決を目指すのか、あるいは組織運営への影響を最優先に考えるのか。事前に経営方針を明確にしておく必要があります。
具体的な法的見通しは弁護士の分析を踏まえて判断すべきです。しかし、最終的にどの程度のリスクを許容するのか、金銭解決の上限をどう考えるのかは、会社経営者が決めることです。この軸が定まっていなければ、期日の場で適切な意思決定が難しくなります。
「弁護士に任せる」のではなく、「方針を決めたうえで弁護士と連携する」という姿勢が大切です。労働審判は法律問題であると同時に、経営問題でもあります。
10まとめ 労働審判は「即日対応」が原則
労働審判を申し立てられた場合、会社経営者がまず行うべきことは、弁護士への即時相談と答弁書の準備です。申立書が届いてから第1回期日まで約1か月、実際の準備期間は3週間程度しかありません。社内検討に時間をかけている余裕はありません。
労働審判は第1回期日でほぼ結論が出ます。答弁書を一生懸命仕上げて、第1回期日で言いたいことを出し切る。これが会社を守るための基本です。準備が不十分なまま臨むと、本来よりも大幅に不利な条件での解決を求められるリスクがあります。
労働審判は単なる労務対応ではなく、企業の危機管理そのものです。迷う前に連絡する、届いた日のうちに動く。この基本動作が、最終的な解決水準に影響します。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
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Q&Aよくある質問
Q1. 申立書が届いた当日に弁護士に連絡できない場合、翌日以降でも問題ありませんか。
A. できる限り早く連絡することが重要です。翌日以降でも対応は可能ですが、準備に使える時間は約3週間しかありません。1日でも早く動き始めることが、答弁書の完成度を高めることにつながります。「届いたその日のうちに動く」を心がけてください。
Q2. 弁護士に依頼する前に、社内でどこまで事実確認を進めておくべきですか。
A. 弁護士への相談を最優先にしたうえで、並行して基本的な資料収集(雇用契約書・就業規則・勤怠記録・指導記録など)を進めてください。深い事実分析は弁護士と一緒に行う方が効率的です。社内検討を待ちすぎて相談が遅れることの方が、準備の未完成よりもリスクが高いといえます。
Q3. 在職中の社員から申し立てられた場合、特別に気をつけることはありますか。
A. 最も注意すべきは、労働審判の申し立てを理由とした解雇や配転など、報復と受け取られる措置を避けることです。労働審判は法律で認められた制度ですので、申し立て自体を否定的に扱うことはできません。感情的になりがちな状況でも、一呼吸置いて冷静に判断することが大切です。適切な対応策については、使用者側弁護士にご相談ください。
最終更新日:2026年2月25日
