労働問題1039 本当に体調不良か分からない社員
解説動画
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仮病と疑わしくても、十分な根拠なく仮病と決めつけてはいけない 根拠なく仮病と決めつけて対応すると判断を誤るだけでなく、ハラスメントの問題にも発展しかねない。なんとなくの印象でなく、事実関係をリストアップして整理することが大事 |
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事実を踏まえて面談を行い、丁寧に事情を確認する 「今月もう7日間も休んでいる。遅刻3回、早退2回ある。どういった体調の問題なのか」という具体的な事実を示しながら面談で確認する。本当に体調が悪い場合はそれなりの理由説明があるはずで、仮病の場合は嘘をつき続けることが辛くて自分からやめたり出社しなくなることが多い |
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体調・病気に関してはお医者さんの判断が基本——診断書・産業医の活用 体調・健康の問題は医師の判断を仰ぐことが大事。診断書の提出を求める際はその理由を具体的な事実で説明することが有効。産業医がいる場合は実際の業務の状況を報告した上で意見を求める |
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診断書が出た場合は原則として体調不良を前提に対応する 医師の診断には重みがある。他の医師の診断や産業医意見が反対しない限り、その診断内容を否定することは難しい。怪しいと思ったら産業医面談・別の医師への相談で確認する |
目次
01仮病と疑っても決めつけてはいけない理由
体調不良を理由として欠勤・遅刻・早退を繰り返す社員について、「どうも仮病ではないか」と感じることがあります。しかしまず大前提として、仮病かなと思っても仮病と決めつけないことがとても大事です。仮病と評価できる根拠が本当にあるのかどうかを検討しなければいけません。
「なんとなく怪しい」という印象があるから仮病だと思うのでしょうが、その印象が正しいとは限りません。十分な根拠なく仮病と決めつけて対応すると、判断を誤るだけでなく、場合によってはハラスメントの問題にも発展しかねません。
仲間内の雑談の中で「あれ多分サボりだよね」と話すことはあるかもしれませんが、それをそのまま対応方針にしてはいけません。なんとなくの印象ではなく、事実関係に基づいて判断していくことが大切です。
02まず事実関係をリストアップする
まず疑わしい事情があると感じているのであれば、事実関係をリストアップしてみましょう。なんとなくの印象で考えるよりも、実際にリストアップしてみると頭も整理されて、より正しい判断に近づいていきます。
リストアップすべき主な事実は以下の通りです。
出社時の仕事の状況が最も重要な確認ポイント
リストアップする中で特に重要なのは、出社してきた日に仕事がしっかりできているかどうかです。職場というのは仕事をする場所ですから、仕事がきっちりできていれば体調は問題ないということになります。出社してきた日に社内で正社員として許容される範囲のパフォーマンスを上げられているかどうかが一つの目安になります。
一方、仕事がしっかりできていないようだとすると、現在の体調では仕事の負担が過重になっている可能性があり、体調不良が本当にある可能性が高まります。「出社時に元気そうに見える」という見かけ上の印象よりも、「仕事がきちんとできているか」という事実の方がずっと重要な指標です。
こういった事実を整理してみた上でも答えが出ないことも多いと思います。それでも、なんとなくの印象だけよりもずっと正しい判断に近づくことができます。答えが出ない場合の次のステップが面談です。
03面談を行い本人から事情を確認する
事実をリストアップして整理したら、面談をして事情を直接本人に聞いてみましょう。生産性のないモヤモヤを抱え続けるよりも、面談して確認することの方がずっと有益です。
面談では具体的な事実を示して聞く
面談の場では、具体的な事実を示した上で丁寧に事情を聞くことが大事です。たとえばこういった話し方が有効です。
「体調が悪い人を働かせて体を壊させてはいけない」という安全配慮義務の観点からも、何日も休んだり遅刻・早退が続くような場合はしっかり確認しなければなりません。また、労働契約は給料を払って仕事をきっちりやってもらうという契約ですから、あまりにも休みや遅刻・早退が多い、あるいは出社しても仕事のパフォーマンスが低いという状態が続くと、「労働者として果たすべき義務を果たしていないのではないか」という評価になり得ます。そのことを確認するのは決して不当なことではありません。
穏やかに丁寧に——強く責め立てなくてよい
面談は、穏やかに丁寧な言葉で淡々と話を進めることで十分です。強く責め立てたり詰問するような口調にする必要はありません。
なぜかというと、本当に仮病だったとしても、穏やかに丁寧に淡々と話をされるだけで、嘘をついている側にとっては非常に辛いからです。嘘をつき続けることは普通の人には難しいものです。面談を丁寧に重ねることで、仮病を続けることに耐えられなくなって自分からやめたり、休まなくなったりというケースが多くあります。強い口調での追及よりも、淡々と事実確認を続ける方が実際には効果的な場合が多いのです。
本当に体調が悪い場合は説明がある
本当に体調が悪いのであれば、それなりの説明をしてもらえることがほとんどです。「実はこういった病気で」「医師からはこういう診断を受けていて」という形で、合理的な説明が出てくるはずです。その場合は仮病と疑う方向ではなく、「体調が悪いのですね。それならしっかり休んでもらった方がよいのでは」という方向——つまり休職対応・傷病給食の検討へと転換することが筋です。
04診断書の提出を求める——理由の説明が大事
体調・病気に関する問題は、誰がプロかといえばお医者さんです。体調・病気・健康に関する問題については、医師の判断を仰ぐことが非常に大事になってきます。そのためにも、診断書の提出を求めることが有効です。
いきなり「診断書を出してください」とだけ言わない
診断書の提出を求める際は、「診断書を出してください」とだけ単に言うのではなく、なぜ求めているのかという理由を具体的な事実とともに説明することが大事です。理由の説明があれば、本人も「正当な要求だ」と受け止めやすくなります。
これだけの欠勤・遅刻が続いている状況で診断書の提出を求めることは非常に正当な対応です。さらに就業規則に「一定日数以上連続して欠勤する場合は診断書の提出を求めることができる」という規定がある会社では、その規定も根拠として示してください。
形式的な規定と実質的な理由(これだけ休みが多い)の両方を説明できると、より説得力が増します。
05産業医面談の活用
産業医がいる会社では、産業医面談を進めることも有効な対応の一つです。
産業医の最大の強みは、仕事の内容を把握した上で社員の健康状態を評価できるという点です。主治医は本人の申告をもとに診断しますが、実際の職場での仕事の状況——出社時の様子、業務内容、欠勤・遅刻・早退の日数など——まで把握しているわけではありません。産業医には、こういった実際の職場の状況をしっかり報告した上で面談してもらい、意見を求めてください。
産業医から「これは体調が悪いから休ませなければいけない状態だ」という意見が出れば、休職対応に進みます。「特に問題ない、元気に働けます」という意見であれば、別の方向での対応を検討することができます。
産業医がいない中小企業の場合は、外部の産業保健総合支援センターへの相談も選択肢として検討してください。
06診断書が提出された場合の対応
体調不良を裏付ける診断書が提出された場合、その対応を説明します。
医師の判断には重みがあります。他の医師の診断や産業医の意見が反対するものがない限り、この診断内容を否定することは難しいと考えてください。ですから原則として、体調不良を前提として対応してください。
体調不良を前提とした場合の対応は、必要があれば出社を認めずに休ませること、一定期間が続けば傷病給食をスタートさせること、といった通常の体調不良の社員への対応を行うことになります。これは「仮病かもしれない」という疑いがあっても同様です。診断書が出た以上、その前提で対応することが基本です。
「怪しいとは思っていたけど、診断書が出た以上は体調不良として扱わなければいけないのか」と感じる経営者もいるかもしれません。その違和感はよく分かります。しかし診断書という医師の判断を無視して対応することは、後の紛争で会社が不利になることが多いです。怪しいと思ったならば、次のセクションで解説する産業医意見との照合という方法で確認していくことが正道です。
07主治医と産業医の意見が相反する場合
主治医の診断書は「体調不良で欠勤・遅刻・早退もしょうがない」という内容なのに、産業医の意見は「全然問題ない、元気に働けます」というものだった場合——意見が相反するケースはどう対応するのか。
この場合は、双方の診断・意見を照らし合わせて、どちらの信用性が高いのかを判断していくことになります。
信用性を判断するための考慮要素
診断・意見の信用性を判断する際に考慮する主な要素は以下の通りです。
- 実際に本人と面談・診察した回数・時間はどうか
- 仕事の内容・業務の状況をどの程度把握した上での意見か
- 診断・意見の根拠となった事実関係はどのようなものか
- 診断書の記載内容の具体性・合理性はどうか
産業医は実際の仕事の状況を把握した上での意見である一方、主治医は本人の申告をもとに診断しています。実際の業務の状況を会社が産業医にしっかり報告していれば、産業医の意見の方が職場実態を踏まえたものになりやすい面があります。
しかし、どちらの信用性が高いかの判断は会社単独では難しいことが多いです。一定のリスクがある中での判断を迫られますので、医師・弁護士と協力しながら会社としての判断を進めていきましょう。
08仮病だと判明した場合——実際に起きやすいこと
仮病であることが判明した場合、理論的には厳重注意・懲戒処分などをすることも考えられます。ただし、実際にそこまで至るケースはそれほど多くないというのが実務の印象です。
なぜかというと、本当に仮病かもしれないという怪しい事案だと、面談などを丁寧に重ねる中で、自分から出社しなくなったり退職したりすることが多いからです。
やはり嘘をついたりズルいことをやったりするのは辛い人の方がはるかに多いわけです。面談などをやって嘘をつき続けるということは普通の人には難しい。穏やかに丁寧に淡々と事情を確認され続けることで、それに耐えられなくなって自分からやめたり、やめないまでも出社しなくなったりというケースが多いというのが経験からの印象です。
もちろんそうならないケースもありますが、懲戒処分まで至る状況になったとしても、そこまで積み上げるための事実確認・面談の積み重ねが既に行われているわけですから、その積み重ねが懲戒処分・解雇の根拠になります。
なお、仮病だと判明して退職という結果になる場合、あらかじめその可能性を覚悟しておく必要があります。仮病を見抜こうとする対応の結果として「では辞めます」という展開になることは実際にあります。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。欠勤・遅刻問題でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 「仮病だ」という確信はありますが、それを理由に処分してよいですか。
A. 「確信がある」という気持ちだけでは処分できません。仮病と評価できる客観的な事実・根拠がなければ、その処分は正当性を欠く可能性があります。まず事実関係をリストアップし、面談で本人から事情を確認し、診断書の提出・産業医意見の取得という手順を踏んでください。その結果として仮病と判断できる状況になってから処分を検討することが必要です。
Q2. 出社してきた日は元気そうなのに、週2日程度欠勤が続いています。何を確認すればよいですか。
A. 「元気そうに見える」という印象より、「出社時に仕事がきちんとできているか」という事実の方が重要な指標です。正社員として許容される範囲のパフォーマンスが上げられているなら、体調は相対的に問題ない可能性があります。その上で面談を行い、「どういった病気で、医師には診てもらっているか」を具体的に確認してください。説明が曖昧・矛盾している場合は診断書の提出を求めることが正当です。
Q3. 診断書が提出されましたが、明らかに仮病だと思います。その診断書を無視して処分できますか。
A. 医師の診断には重みがあります。他の医師の診断や産業医意見が反対しない限り、その診断内容を否定することは難しいです。「怪しい」という会社側の判断だけで診断書を無視して処分を行うと、後の紛争で不利になる可能性があります。怪しいと感じる場合は、産業医面談・別の医師への相談を通じて確認していくことが正道です。
Q4. 面談を重ねたら社員が自分からやめると言い出しました。そのまま退職させてよいですか。
A. 本人が自ら退職の意思を示した場合、退職合意書を作成した上で退職の手続きを進めることができます。ただし、退職合意書には清算条項(「以後、甲乙間に一切の債権債務が存在しないことを確認する」)を入れることで後のトラブルを防ぐことができます。退職合意書の作成については弁護士にご相談ください。
最終更新日:2026年5月10日