労働問題1030 退職勧奨を断られた後に人事異動を行う場合の注意点

この記事の要点

退職勧奨を断られた直後の人事異動はトラブルになりやすい

会社に悪意がなくても、相手には「断ったことへの報復」と映る。「不当な動機による配転権限の乱用」として配転命令が無効になるリスクがある

「社長の内心に悪意はない」では争いに勝てない

不当な動機があったかどうかは、社長の主観ではなく客観的な事実関係から判断される。経緯・タイミング・説明の内容が問われる

本来は、退職勧奨より先に異動の可能性を提案するのが望ましい

異動の業務上の必要性がある場合は、退職勧奨の前か同時に選択肢として提示する方が、後のトラブルを防ぎやすい

進める場合は業務上の理由を具体的に説明し、相手の意向も聞く

なぜこの異動なのかを業務上の事情に基づいて丁寧に説明する。言葉の選び方を含めて弁護士と並走しながら進めることが重要

01なぜトラブルになりやすいのか

 退職勧奨を断られた後に人事異動(配置転換・担当業務の変更・勤務地変更等)を行うことは、業務上の必要性がある場合には適法です。しかし、実際のところトラブルに発展しやすいケースの一つです。

 会社側の立場からすると「拒否したから残るというなら、業務上の理由でこちらに移ってもらうしかない」という感覚です。悪意も嫌がらせの意図もありません。しかし、相手の立場に立ってみると、「辞めてほしいと言われて断ったら、すぐに嫌な仕事や遠い場所に異動させられた」という経緯に見えます。

 退職勧奨を断って間もない相手は、会社に対して不信感を持っている状態です。その状態で人事異動を命じると、「報復だ」「辞めさせるための嫌がらせだ」という受け取り方をされやすく、争いに発展することがあります。

02「不当な動機による配転権限の乱用」とは

 会社が配転命令権限を持っていたとしても、不当な動機・目的でなされた配転については、「配転権限の乱用」として命令が無効と判断されることがあります。

 重要なのは、「不当な動機・目的があったかどうか」は、社長の主観(内心)ではなく、客観的な事実関係から推認されるという点です。つまり、社長に嫌がらせの気持ちが全くなくても、「退職勧奨を断られた直後に異動命令を出した」という事実の積み重ねから、裁判官が「不当な動機があったと推認できる」と判断することがあります。

「悪気がなかった」は法的には通用しないことがある

退職勧奨→断られた→直後に人事異動という経緯が客観的に示されると、「この異動は退職勧奨に応じなかったことへの報復ではないか」という推認が働きやすくなります。社長に悪意が全くない場合でも、この流れで配転命令が無効と判断されるケースがあります。

03本来の順序と対応の考え方

 業務上の必要性から人事異動を検討している場合、その必要性が退職勧奨とは別に存在するのであれば、本来は退職勧奨より先か同時に選択肢として提示することが望ましいです。

 たとえば、「拠点の縮小・閉鎖のため、このままの業務・場所での勤務継続が難しい状況になっている。①別の場所・業務に移ってもらう、②または退職を選んでいただく、どちらかを検討してほしい」という形で提示すれば、異動と退職勧奨がセットで示されます。この場合、後から「断ったから異動させた」という構図になりにくくなります。

 すでに退職勧奨を断られた後であっても、「退職を断ったから異動させる」ではなく「業務上の必要性から異動が必要になっている」という事実を丁寧に説明する姿勢が重要です。

04進める場合の具体的な注意点

業務上の理由を具体的な事実に基づいて説明する

 「なぜこの異動なのか」を業務上の具体的な事情に基づいて丁寧に説明することが最も重要です。「業務上の必要があるから」という抽象的な説明では、相手の納得感は得られません。「この拠点・業務はこういう事情で縮小・変更になる」「あなたのキャリアや担当業務の変化に合わせてこういう役割を担ってほしい」という具体性が説得力を生みます。

相手の意向を聞く姿勢を持つ

 異動の内容を一方的に通告するより、「あなたとしてはどこで、どんな仕事をしたいと思っているか」「こういう状況の中で、どんな対応が可能だと思うか」という問いかけをしながら進める方が、相手の反発を和らげる効果があります。相手の希望をすべて受け入れる必要はありませんが、聞いた上で判断したという経緯が重要です。

大幅な賃金減額を伴う場合は特に慎重に

 異動に伴って大幅な賃金減額が生じる場合は、さらに争われやすくなります。賃金の大幅減額を伴う人事異動については、それ自体の有効性が別途問題になりえますので、実施前に必ず弁護士に相談してください。

05弁護士と並走しながら進めることの重要性

 退職勧奨を断られた後の人事異動は、判断が難しく、言葉の選び方一つでトラブルの有無が変わることがあります。

 相手はすでに会社に不信感を持っている状態です。通常の業務指示よりもはるかに丁寧な言葉遣いと説明が求められます。「普通に話せば分かるはず」「当然理解してくれるだろう」という感覚での対応では、うまくいかないことがほとんどです。

 ZoomやTeamsでの短時間のオンライン打ち合わせを都度重ねながら弁護士と並走することで、「先日こういう話をしたら、こう言い返されました。次はどう話せばよいですか」というやり取りを積み重ねることができます。この並走の積み重ねが、最終的な解決に向けた最も確実なアプローチです。

まとめ

  1. 退職勧奨を断られた直後の人事異動はトラブルになりやすい。会社に悪意がなくても、報復と受け取られ配転命令が無効になるリスクがある
  2. 不当な動機があるかどうかは客観的事実で判断される。社長の内心ではなく、経緯・タイミング・説明内容が問われる
  3. 本来は退職勧奨と異動の可能性をセットで提示するのが望ましい
  4. 進める場合は業務上の理由を具体的に説明し、相手の意向を聞く姿勢を持つ
  5. 大幅な賃金減額を伴う場合は特に慎重に検討し、弁護士に事前相談する
SUPERVISOR弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職勧奨でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 業務上の必要があれば、退職勧奨を断られた後でも人事異動を行えますか。

A. 業務上の必要性がある場合には適法ですが、退職勧奨を断られた直後に実施すると「報復目的の異動」と受け取られやすく、配転命令が無効と判断されるリスクがあります。実施前に、異動の業務上の必要性・説明内容・タイミングについて弁護士に相談することを強くお勧めします。

Q2. 配転命令が「権限の乱用」と判断された場合、どういう結果になりますか。

A. 配転命令が無効と判断されると、異動先での勤務義務がなくなり、元の職場・業務に戻ることを求められることになります。加えて、強制的な配転が不法行為と評価された場合は、損害賠償請求の対象になることもあります。

Q3. 退職勧奨と人事異動の選択肢を同時に提示することはできますか。

A. 可能です。「業務上の変化があり、①別の部署・場所への異動、②退職のいずれかを選んでいただきたい」という形で提示することで、異動と退職勧奨が業務上の事情から生じたものであることを示しやすくなります。ただし、提示の仕方・言葉遣いによっては問題が生じることもあるため、事前に弁護士と内容を確認することをお勧めします。

最終更新日:2026年5月8日

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