労働問題1021 退職勧奨を社員に断られた場合、会社はどう対応すればよいですか
この記事の要点
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退職勧奨を断られた根本原因は「事前の懲戒処分・注意指導が不十分だったこと」 事前の注意指導や懲戒処分がなければ、断られた後に解雇しても無効になるリスクが高く、相手の交渉力が上がる一方になる |
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退職勧奨の前に「他の選択肢(配置転換・担当変更)を先に提案する」ことが紛争を防ぐ いきなり退職の話をするより、まず異動や業務変更を提案してから退職という流れにすることで、相手の納得感が得やすくなる |
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断られた後の人事異動はトラブルになりやすい——具体的な事実に基づいた丁寧な説得が必要 退職勧奨を断ったから嫌がらせで異動させたと受け取られると、不当な配転命令として争われるリスクがある |
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「断ったら有効に解雇される状況を作ること」が退職勧奨を成功させる最大の準備 断っても怖くないと相手が分かっていれば交渉力は相手に傾く。解雇有効の状況を作ることで、相手も合意退職に応じやすくなる |
目次
1. 退職勧奨を断られた場合にまず確認すべきこと
退職勧奨を社員に断られた場合、多くの会社が「どうすれば辞めさせられるか」という視点で考え始めます。しかしその前に、まず「なぜ断られたのか」の根本原因を確認する必要があります。
退職勧奨が断られる最大の原因は、相手が「断っても安全だ」と思っているからです。事前に懲戒処分や注意指導が積み重ねられておらず、解雇されても無効になる可能性が高い状況では、相手は強気に出ます。
退職勧奨が断られやすい状況の典型例
- 事前の注意指導・懲戒処分が全くない、または不十分
- 退職してもらいたい理由が漠然としており、具体的な事実で説明できていない
- いきなり退職勧奨から入り、相手が「嫌がらせ」と受け取っている
- 退職合意書・退職届の取り交わし前に「話がついた」と判断してしまっている
2. 断られた後の対応①——人事異動・担当変更を検討する
退職勧奨を断られた後に人事異動や担当変更を行うことは、経営上の必要性がある場合には適法です。ただし、退職勧奨を断ったことへの嫌がらせと受け取られると、配転命令の有効性が争われるリスクがあるため、対応を誤ると逆効果になります。
退職勧奨を断られた後に人事異動を行う場合は、以下の点に注意してください。
退職勧奨後の人事異動で注意すべき点
- 具体的な事実に基づいて説明する——「うまくいっていないから」「職場に向いていないから」ではなく、具体的な事実(業績・トラブル・業務縮小等)を示して説明する
- 「辞めてほしいから異動させた」という印象を与えない——あくまで業務上の必要性・合理性がある異動として説明できる内容にする
- 相手の話を聞く姿勢を持つ——「どこに異動すれば満足か」「どんな仕事なら対応できるか」を聞き、誠実に検討したことを示す
- 賃金の大幅減額を伴う人事異動は特に慎重に——不利益の程度が大きいほど無効と判断されるリスクが高まる
3. 断られた後の対応②——再度の退職勧奨を行う
退職勧奨は一度断られたら終わりではありません。状況が変化した場合(懲戒処分を積み重ねた、問題行動がさらに発生したなど)には、再度の退職勧奨を行うことが有効な手段です。
再度の退職勧奨では、前回の勧奨から何が変わったのか、なぜ今また話をするのかを具体的な事実に基づいて説明することが重要です。単に「前と同じ話」を繰り返すだけでは、相手の反発を生むだけで効果がありません。
また、退職勧奨の場面では必ず無断録音されている可能性を念頭に置くことが必要です。スマートフォンで簡単に録音できる時代ですから、後で問題にされるような発言は絶対に避けてください。「もう来なくていい」「居場所はない」などの発言は、解雇と評価されたり、強迫と判断されたりするリスクがあります。
4. 断られた後の対応③——解雇を検討する
退職勧奨を断られ、かつ問題行動が改善されない場合には、最終的に解雇を検討することになります。ただし、解雇には客観的合理的な理由と社会通念上の相当性が必要であり、これらを欠いた解雇は無効と判断されます。
解雇が有効になるために必要な準備
- 問題行動の具体的事実の記録(日時・場所・発言内容・状況を詳細に)
- 注意指導の実施とその記録(口頭指導の記録・書面での注意指導書)
- 懲戒処分の積み重ね(戒告・減給・出勤停止など段階的に)
- 改善の機会を与えたことの記録(改善計画書・面談記録)
- 解雇予告(30日前の予告または解雇予告手当の支払い)
これらの準備が整っていれば、相手も「断ったら有効に解雇されてしまう」と認識し、最終的には合意退職に応じることが多くなります。逆に準備が不十分な状態での解雇は、労働審判や訴訟に発展し、多額の和解金を払うことになりかねません。
5. 退職勧奨が紛争に発展しやすいケースと注意点
以下のようなケースでは、退職勧奨が紛争に発展しやすいため特に注意が必要です。
| 紛争になりやすいケース | |
| 退職合意書・退職届を取っていない | 「退職に合意した」「していない」で争いになる。必ず書面を取り交わすこと |
| 面談で不適切な発言をした | 「もう来なくていい」などの発言が解雇・強迫と評価されるリスクがある |
| 複数回・長時間の面談を繰り返した | 度を超えた退職勧奨は違法な強制となり、不法行為として損害賠償請求を受けることがある |
| 事前の懲戒処分なしにいきなり退職勧奨 | 断られた後の選択肢が極端に狭まり、強引な対応に追い込まれやすい |
6. 断られない退職勧奨にするための事前準備
退職勧奨を断られないようにするための最善の方法は、退職勧奨を切り出す前の「準備」にあります。具体的には次の2点が特に重要です。
①辞めなければならない理由を具体的な事実で説明できるようにする
評価的・抽象的な表現(「仕事ができない」「周りと合わない」)だけでは相手は納得しません。「○月○日に○○のミスが発生した」「△△の業務で繰り返し○回注意した」など、具体的事実を積み重ねた説明ができることが必要です。そのためには、日頃からの注意指導の記録と懲戒処分の実施が欠かせません。
②退職勧奨よりも先に他の選択肢を提案する
いきなり「辞めてほしい」という話をすると、相手は感情的に反発しやすくなります。まず「異動して別の場所で頑張ってもらう選択肢もある」「別の仕事に就いてもらう選択肢もある」と提案し、それでも折り合いがつかない場合に退職という流れにすることで、相手の納得感が得られやすくなります。提案すること自体に意味があり、相手が嫌だと言えば説得してみる、それでもダメなら次のステップに進むという順序が重要です。
7. まとめ
- 断られた根本原因を確認する——事前準備(注意指導・懲戒処分)が不十分だったことが多い
- 断られた後の人事異動は慎重に——嫌がらせと受け取られないよう、具体的事実に基づいた丁寧な説明が必要
- 再度の退職勧奨は状況変化を踏まえて行う——単純な繰り返しは逆効果
- 解雇を視野に入れるなら、その前に証拠と懲戒処分歴を積み上げておく
- 「断ったら有効に解雇される状況」を作ることが、退職勧奨を成功させる鍵
退職勧奨は、事前の準備なしに単発でやると失敗します。「断られた後」に慌てるのではなく、退職勧奨を始める前から弁護士と連携して戦略的に進めることが重要です。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。問題社員対応・退職勧奨・労働審判など使用者側の労働問題を専門に取り扱う。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
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よくある質問(FAQ)
Q1. 退職勧奨を断られた後、何度も面談を繰り返すことはできますか?
A. 退職勧奨の回数・時間・方法が社会通念上相当な範囲を超えると、不法行為として損害賠償請求を受けるリスクがあります。「退職しなければ解雇する」「仕事を干す」などの脅迫的な発言は特に禁物です。繰り返し行う場合は必ず弁護士に相談しながら進めてください。
Q2. 退職勧奨に応じてもらうために、解決金を支払う必要はありますか?
A. 必ずしも解決金の支払いが必要なわけではありません。ただし、断られた場合に解雇しても無効になるリスクが高い状況では、相手の交渉力が強く、結果的に高額の解決金を支払わざるを得なくなることが多いです。反対に、事前の準備(注意指導・懲戒処分)が整っており、解雇が有効になる見込みが高い状況では、相手も合意退職に応じやすく、支払う金額も少なくて済むことが多いです。
Q3. 退職勧奨の面談は録音されていた場合、どんな問題が生じますか?
A. 無断録音された内容が、労働審判や訴訟で証拠として使われることがあります。面談での不適切な発言(「もう来なくていい」「会社に居場所はない」など)が、解雇の意思表示や強迫と評価されるリスクがあります。退職勧奨の面談では、常に録音されていることを前提に、冷静・丁寧・具体的な事実に基づいた対話を心がけてください。
最終更新日:2026年5月7日