労働問題1029 退職勧奨の進め方|成功させるための2つのポイントを会社側弁護士が解説

この記事の要点

細かいテクニックより「2つのポイント」が成否を決める

①辞めなければならない理由を具体的な事実で説明すること、②退職条件を提示すること。この2つが退職勧奨の根幹。当日の段取りより、この基本を押さえることの方がはるかに重要

「評価」ではなく「具体的事実」で伝える——具体的事実の説明はパワハラにならない

「態度が悪い」「仕事ができない」は評価。「○月○日に○○の場面で何をした」が事実。評価的な言葉を繰り返す方がパワーハラスメントと評価されやすい。事実ベースの説明が正解

「断ったら有効に解雇される状況」が退職条件の交渉を有利にする

解雇が有効になる見込みが高い状況では、相手も合意退職に応じやすくなり、解決金も適正な範囲でまとまりやすい。注意指導・懲戒処分の積み重ねが退職勧奨を有利にする最大の準備

話がついたら必ず書面を取る——書面化が退職勧奨の「完了」

口頭で合意が得られても、退職届または退職合意書(清算条項入り)を取り交わすまでが退職勧奨の完了。書面なしは後のトラブルの原因になる

01退職勧奨の「進め方」で本当に大事なこと

 退職勧奨の進め方を考えるとき、「何人で面談するか」「何分かけるか」「どの部屋を使うか」といった段取りに目が向きがちです。もちろんこうしたことも重要ですが、それよりはるかに大事な基本があります。この基本を外したままでは、細かいテクニックを磨いても退職勧奨はうまくいきません。

 退職勧奨を成功させる核心は、①辞めなければならない理由を具体的な事実で説明することと、②退職条件を提示すること——この2つです。退職勧奨の「当日」の話し方より、この2点に集中することが先決です。

退職勧奨を成功させるための2つのポイント

辞めなければならない理由を
具体的な事実で説明する

「仕事ができない」「態度が悪い」は評価。いつ・どこで・何があったかという具体的事実を積み重ねて伝えることが、相手の納得感につながる

退職条件を
提示する

退職日・解決金・会社都合退職扱い・年休の取り扱いなど、退職に際しての条件を具体的に提示する。条件の内容と伝え方が合意の成否に影響する

02ポイント①:辞めなければならない理由を「具体的な事実」で説明する

 退職勧奨の場面で多く見られる問題の一つが、辞めてもらいたい理由を具体的に説明できていないことです。「本人を傷つけてしまうのでは」「反発してもっと辞めてもらいにくくなるのでは」という不安から、理由をぼかしてしまう経営者・人事担当者の方は少なくありません。

 しかし実際のところ、理由をしっかり伝えないことの方が、話がこじれる原因になることが多いです。今の時代、話し合いに臨む方の多くは、自分の置かれた状況をきちんと説明してほしいと考えています。理由を曖昧にしたままでは「大した根拠もないのに言っている」「主観で嫌いだから言っているだけ」という受け取り方をされやすくなります。

「評価」ではなく「事実」で伝える

 重要なのは、「評価」ではなく「事実」を伝えることです。

❌ 評価(NG) ✅ 事実(OK)
「態度が悪い」 「○月○日の朝礼で、上司Aの指示に対して”そんなのやる必要はない”と発言し、その場を立ち去った」
「仕事ができない」 「○月の○○プロジェクトで、○回の指導を行ったにもかかわらず、期日までに報告書を提出できず取引先に迷惑をかけた」
「みんなが困っている」 「○月○日、同僚のBさんがあなたの言動について相談してきた。その内容は○○であり、職場の業務進行に具体的な支障が生じている」

具体的事実の説明はパワーハラスメントにならない

 「本人の聞きたくないことを言ったらパワーハラスメントになるのでは」と心配される方もいますが、仕事に関連する具体的な事実を根拠として丁寧に説明することは、適切な対話の範囲内です。

 むしろ、「態度が悪い」「仕事ができない」といった評価的・侮辱的な言葉を一方的に繰り返す方が、パワーハラスメントと評価されやすくなります。事実をきちんと伝えることは問題になりにくく、評価的な言葉だけを感情的にぶつけることの方が問題になりやすい——これを理解しておくことは重要です。

 自分の伝えていることが業務上の合理的な事実に基づいたものであれば、反論されたとしても、説明を続ける正当性があります。事実に基づいた説明を恐れる必要はありません。

具体的な日本語は弁護士に相談しながら準備する

 何をどう伝えるべきかの大枠は分かっていても、実際にどんな言い方をすればよいか迷う方は多いです。日本語の使い方を一つ間違えると、後のトラブルの原因になることもあります。

 「こういった項目をこういった言い方で伝えてください」「相手がこう返してきたらこう答えてください」——こうした具体的な指導を、問題社員対応を専門とする弁護士に相談しながら受けることが、実務上非常に効果的です。一般論を本で勉強するより、自分の会社の事案に即したアドバイスをその都度もらうことの方が、結果に直結します。

03ポイント②:退職条件を提示する

 退職勧奨のもう一つの重要なポイントが、退職条件の提示です。退職にあたってどのような条件を提示できるかが、合意の成否と解決金の水準に影響します。

提示できる退職条件の例

  • 解決金——在籍期間・問題の程度・解雇の有効性の見込み等を踏まえて検討
  • 会社都合退職扱い——雇用保険の受給条件が有利になる(自己都合より早期・高額の受給が可能)
  • 年次有給休暇の取り扱い——退職日までの消化・残日数の買い取り等
  • 退職日の猶予——転職活動の時間的余裕を与える
  • 退職日までの出社免除——特に金銭的な不正等があった場合に検討

「断ったら有効に解雇される状況」が条件交渉を有利にする

 退職条件の水準は、断った場合に有効な解雇が成立する見込みがどれだけあるかによって大きく変わります。

 注意指導・懲戒処分を積み重ねた結果、「断ったら有効に解雇される可能性が高い」という状況が整っていれば、相手は合意退職に応じることが合理的な選択となります。断って解雇されるより、ある程度の条件で合意退職した方が得策だと相手自身が判断するわけです。この状況では、会社が支払う解決金の水準も適正な範囲でまとまりやすくなります。

 逆に、注意指導・懲戒処分の積み重ねがなく、解雇が有効になる見込みが低い状況では、相手は断っても失うものが少ないため、交渉力は相手に傾きます。高額の解決金を要求されたり、交渉がまとまらなかったりするリスクが高まります。

条件の差加減は弁護士に相談して決める 退職条件として法外に高いお金を払うことはモラルハザードの観点からも問題があります。一方で低すぎる条件では合意が得られません。個別の事情(在職期間・問題の程度・解雇の見込み等)を踏まえた条件の差加減は、弁護士に相談しながら判断するのが最善です。

04事前準備——注意指導・懲戒処分の積み重ねと「逆算思考」の問題

 退職勧奨を有利に進めるための最大の準備は、退職勧奨を始める前の日頃の対応にあります。

日頃の注意指導が「伝えるべき理由」を作る

 退職勧奨の場面で「辞めなければならない理由を具体的事実で説明する」というポイント①を実践するためには、日頃から問題行動について記録し、注意指導を行ってきた実績が必要です。

 普段の注意指導の中で「○月○日、あなたはこういう行動をした。これが問題の理由はこういうことで、このように改善してほしい」という具体的なコミュニケーションを積み重ねてきた場合、退職勧奨の場でその積み重ねをまとめて提示することができます。問題の指摘は日頃から行っているわけですから、退職勧奨の場での理由説明にスムーズにつながります。

「逆算思考」は失敗しやすい

 退職勧奨・解雇を「目的」に設定し、そのために注意指導・懲戒処分を手段として使おうとする「逆算思考」は、失敗しやすい考え方です。

 逆算思考で行われた注意指導・懲戒処分は、裁判になったときに「アリバイ作り」と見透かされやすく、判断も厳しくなります。解雇の有効性を争われた場合に不利な材料になることがあります。

 正しい順序はこうです。問題行動があれば注意指導し、改善を求める → 改善されなければ懲戒処分を行う → それでも改善されない場合に、退職勧奨や解雇を検討する。直してもらうために注意・処分をやってきて、それでもだめだったから退職勧奨・解雇という流れが、最も正当性があり、和解金も安くなり、解雇有効率も高まります。

05面談の進め方——場所・人数・録音への対応

場所・人数・時間の基本

場所 個室(会議室等)が基本。他の社員の目がある場所や立ち話は避ける。プライバシーを確保できる静かな環境で行う
人数 会社側は2名以内(社長・人事担当者等)が一般的。多人数で囲むような形は圧迫感を与えるリスクがある
時間 過度に長時間に及ぶ面談は避ける。相手が「拘束された」と感じるような態様は問題になりえる。1回の面談は1〜2時間程度を目安に
断られた場合 明確に拒否された場合は一旦その場を終了する。執拗に同日中に繰り返すことは避ける

録音されている前提で話す

 スマートフォンで手軽に録音できる現代では、退職勧奨の面談が無断録音されているケースは珍しくありません。「口頭での話だから記録にならない」という感覚は持たないことが重要です。

 面談でのやり取りは、常に録音されている前提で進めてください。録音されていても問題のない言葉遣いで、具体的な事実に基づいた冷静な説明を心がけることが基本です。

面談で言ってはいけない発言の例

  • 「もう来なくていい」「居場所はない」(解雇と評価されるリスク)
  • 「辞めなければ解雇する」「仕事を与えない」(強迫・脅迫と評価されるリスク)
  • 「どうせ辞めるんでしょ」「早く決めて」(プレッシャーをかける発言)
  • 感情的な言葉・侮辱的な表現(パワーハラスメントと評価されるリスク)

06話がついたら書面を取る

 退職について合意が得られた場合、必ず書面を取り交わすことが必要です。「話がついた」と感じた段階で終わりにしてしまうと、後に「退職したつもりはない」「解雇された」と主張されるリスクがあります。

書類 特徴と使い方
退職届 本人の退職意思を示す書面。シンプルで取得しやすい。最低限これは必ず取ること
退職合意書
(推奨)
退職日・退職理由・解決金・年休の取り扱い・清算条項(「以後、甲乙間に一切の債権債務が存在しないことを確認する」)を双方が署名する書面。解決金の支払いを伴う場合や後のトラブルを防ぎたい場合に特に有効

07弁護士との並走——Zoomを使った短時間・高頻度相談

 退職勧奨は、事前準備から面談の進め方、断られた後の対応まで、局面ごとに判断が求められます。こうした場面での「その都度相談」が非常に効果的です。

 以前は弁護士に相談するために事務所に足を運ぶ必要がありましたが、ZoomやMicrosoft Teamsといったオンラインツールが普及した現在では、移動時間なしに30分単位の打ち合わせを行うことができます。

Zoomでの短時間・高頻度相談が効果的な理由 退職勧奨では「今日こう伝えたら、こんな反応だった。次はどう対応するか」というやり取りを素早く繰り返すことが成功につながります。月1回の長時間相談より、週1〜2回の30分相談の方が実際の事案への対応として効果が高く、弁護士側も事案の詳細を把握した状態で継続的にアドバイスできます。

まとめ

  1. 成否を決めるのは2つのポイント——①具体的事実で理由説明 ②退職条件の提示。細かいテクニックより先にこの基本を押さえる
  2. 「評価」ではなく「事実」で伝える——事実ベースの説明はパワーハラスメントになりにくく、相手の納得感も得やすい
  3. 「逆算思考」を捨てる——直してもらうために注意・処分を積み重ね、それでもだめだったから退職勧奨、という正しい順序を守る
  4. 「断ったら有効に解雇」の状況が条件交渉を有利にする——注意指導・懲戒処分の積み重ねが事前準備の最重要ポイント
  5. 録音されている前提で面談する——問題発言は後に証拠になる。具体的事実ベースの冷静な対話を心がける
  6. 話がついたら必ず書面を取る——退職届または退職合意書(清算条項入り)を取り交わすまでが完了
  7. 弁護士との短時間・高頻度のオンライン相談が最も効果的——具体的な言い方・次の対応を都度確認しながら進める

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職勧奨でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 退職勧奨の理由をはっきり伝えることで、相手が反発してもっと辞めてもらいにくくなりませんか。

A. 確かに反論されることはあります。しかし、自分の説明が業務上の合理的な事実に基づいたものであれば、反論されても説明を続ける正当性があります。むしろ、理由を曖昧にしたままの方が「感情で言っているだけ」と受け取られ、こじれるケースが多いです。具体的な事実を丁寧に伝えることが、対話のスタート地点として最善です。

Q2. 退職条件の解決金はどのくらいの金額が相場ですか。

A. 解決金の相場は、在職期間・問題の程度・注意指導・懲戒処分の履歴・解雇が有効になる見込みの高さなどによって個別に大きく異なります。一概に「○ヶ月分」という基準はなく、事案ごとに検討が必要です。具体的な金額については、弁護士に個別の事情を伝えてご相談ください。

Q3. 退職勧奨の面談に、弁護士に同席してもらうことはできますか。

A. 弁護士が同席することは可能ですが、面談でのメインの発言は社長・人事担当者など会社の責任者が行う方が望ましいです。相手(社員)からすれば、会社の責任者が自分のこととして真剣に話しているという場面の方が、納得感を得やすいからです。弁護士は発言のフォロー・訂正役として同席し、面談後に次のステップを相談するという使い方が実務上有効です。

Q4. 注意指導や懲戒処分をこれまでほとんどやってきていません。今から退職勧奨を始めることはできますか。

A. できないわけではありませんが、事前準備が不十分な状況での退職勧奨は、断られた場合の選択肢が大幅に狭まります。解雇の有効性が低い状況では、相手の交渉力が高くなり、高額の解決金を求められたり、交渉がまとまらなかったりするリスクが高まります。今から動く場合は、まず弁護士に相談して、どのように準備を進めながら退職勧奨につなげるかの方針を立てることをお勧めします。

Q5. 相手が検討したいと言って返事を先延ばしにしています。どのくらい待てばよいですか。

A. 検討の期間として一定の時間を設けることは必要ですが、無期限に待ち続けることは問題の先送りになります。「○月○日までにお返事をいただけますか」という形で期限を設定することが一般的です。ただし、期限の設定の仕方や次のステップの判断は事案によって異なりますので、弁護士にご相談ください。

最終更新日:2026年5月8日

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