労働問題1031 着服・横領・手当不正受給をした社員の退職勧奨における注意点
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「解雇できるか否か」で対応の方針が変わる 有効に解雇できる見込みが高い場合は、断られても最終的に解雇するという選択肢がある。解雇が難しい場合は、辞めてもらうための説得と条件提示が核心になる |
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不正の事実を具体的に説明することが退職勧奨の出発点 「言わなくても分かるはず」は通用しない。金額・時期・手口を具体的に示しながら、なぜ辞めなければならない状況なのかを丁寧に伝える |
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面談は録音されている前提で臨む 「解雇になるから怖くて退職届を出した」という錯誤・脅迫を理由とした退職意思表示の取消しを主張されるリスクがある。解雇の見込みが実際にある場合のみ事実として伝える |
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退職合意書に弁済条項・清算条項を必ず入れる 不正取得した金銭の返還と、退職後の追加請求防止を退職合意書に明記する。書面なしに話が終わると、後から争われるリスクが高い |
目次
01着服・横領・不正受給が発覚した場合の基本的な考え方
社員による着服・横領・手当の不正受給が発覚した場合、「このまま一緒に働き続けることはできない」と判断して退職勧奨を検討する会社は少なくありません。
こうした事案で退職勧奨を進める際、最初に確認しなければならないのは、有効に解雇できる状況かどうかという点です。解雇できる見込みがどの程度あるかによって、退職勧奨の進め方が大きく変わるからです。
02解雇できる場合の退職勧奨
横領・着服などの重大な不正行為があり、有効に解雇できる見込みが高い状況では、対応の選択肢が広がります。
退職勧奨として進める場合は、不正の事実をしっかり確認した上で退職を提案し、断られた場合は懲戒解雇を実施するという選択肢がある分、交渉上の立場が安定します。解決金などの退職条件を高くする必要もなく、断られた場合のリスクを過度に恐れる必要もありません。
ただし、解雇できる状況でも話し合いでスマートに解決できる場合は、合意退職の方が双方にとって負担が少ないことも多いです。特に、懲戒解雇の手続きを踏まなくても済む軽微な不正の場合は、退職勧奨で穏やかに解決することを優先する会社も少なくありません。
この場合も、不正を行った社員に引き続き出社させることが職場のためにならないと判断するのであれば、退職日までの出社を求めない代わりに給与は保障する、という形の退職条件を提示することも実務上よく行われます。
03解雇が難しい場合の退職勧奨
解雇の有効性に確信が持てない場合や、解雇の見込みが低い場合は、話し合いによる合意退職を目指すことが基本になります。この場合も、退職勧奨の核心は「辞めなければならない理由を丁寧に説明すること」です。
「言わなくても分かるはず」は通用しない
横領・不正受給をした事実があるのだから、説明しなくても本人は分かっているはずだと思う経営者は多いです。しかし実際のところ、取得した金額を正確に把握していない、そこまで悪いことだと思っていない、という本人もいます。
不正取得した金額を具体的に示しながら、なぜそれが許されないことなのか、なぜ会社として一緒に働き続けることが難しいのかを、事実に基づいて丁寧に説明することが必要です。感情的な言葉や評価的な表現(「裏切り者だ」「最低だ」など)より、具体的な事実を淡々と伝える方が、相手に現実を認識させる効果があります。
退職条件の提示も組み合わせる
「悪いことをした人間に条件を提示するのか」と感じる経営者もいますが、解雇が難しい状況では、条件を提示してでも合意退職を成立させる方が会社にとって合理的な場合があります。毎月の給与を払い続けながら、やらせる仕事もないという状況が続くよりも、一定の解決金を支払って合意退職に持ち込む方がトータルのコストが低くなるケースも多いです。
条件提示は、不正取得した金銭の返還を前提とした上で行うことが基本です。返還と退職条件をセットで交渉することで、話し合いをまとめやすくなります。
04面談での言葉遣いと録音リスク
横領・不正受給をした社員との面談では、会話を録音されている可能性が高いと考えてください。スマートフォンで手軽に録音できる現代では、面談の場で話した内容が後に証拠として使われることは珍しくありません。
「解雇になる」という言葉の使い方に注意
解雇が有効になる見込みが実際に高い場合は、「このまま行けば解雇になる可能性がある」という事実を伝えることは適切な範囲内です。しかし、解雇の見込みが低い状況でこれを伝えたり、「絶対に解雇する」と断言したりすることは問題になりえます。
錯誤・脅迫による退職意思表示の取消しリスク
解雇できない状況で「解雇になる」と伝えて退職届を取った場合、後から「解雇されるかと思って怖くて署名してしまった(錯誤・脅迫)」として退職届の効力を争われることがあります。こうなると退職日以降の給与を払い続けなければならなくなるリスクが生じます。解雇の見込みについては事実に基づいて正確に伝えることが必要です。
05退職合意書の作成と弁済条項
合意退職が成立した場合は、必ず退職合意書を取り交わしてください。特にこうした事案では、以下の条項を必ず盛り込むことが重要です。
退職合意書に盛り込むべき主な条項
- 弁済条項:不正取得した金銭の返還義務・金額・返還方法・返還期日を明記する
- 清算条項:「本合意書に定めるほか、甲乙間に一切の債権債務のないことを確認する」という条項。残業代請求・損害賠償請求などの追加請求を防ぐ
- 秘密保持条項:不正の事実・退職条件などの外部への漏洩を禁止する
- 退職日・退職理由・解決金の金額と支払時期
退職合意書の内容は事案によって異なりますので、弁護士に依頼して作成することをお勧めします。特に弁済条項と清算条項の組み合わせは、後のトラブルを防ぐために重要です。
まとめ
- まず「解雇できるか否か」を見極める。解雇の見込みがあるかどうかで、退職勧奨の進め方が変わる
- 辞めなければならない理由を不正の事実に基づいて具体的に説明する。感情的な言葉より、金額・時期・手口を示した事実の説明が効果的
- 面談は録音されている前提で臨む。解雇の見込みがない状況で「解雇になる」と伝えることは避ける
- 退職合意書に弁済条項と清算条項を盛り込む。書面化しておくことが後の争いを防ぐ
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職勧奨でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 横領した社員に懲戒解雇と退職勧奨、どちらがよいですか。
A. 横領の態様・金額・経緯によって判断が異なります。懲戒解雇が有効になる見込みが高く、後の争いを覚悟できるのであれば解雇という選択もあります。ただし、解雇は後に無効と判断されるリスクがある反面、合意退職が成立すれば争いになりにくいというメリットがあります。どちらが適切かは個別事情によりますので、弁護士にご相談ください。
Q2. 横領した社員から「解雇されるかと思って退職届に署名した」と言われました。どうなりますか。
A. 解雇が実際に有効になりえた状況でこの主張がなされた場合は、問題になりにくいです。しかし、解雇の見込みが低い状況で「解雇になる」と伝えて退職届を取っていた場合は、錯誤や脅迫を理由とした退職意思表示の取消しが認められるリスクがあります。こうした主張がなされた場合は、早急に弁護士にご相談ください。
Q3. 退職合意書に不正取得した金銭の返還条項を入れましたが、返してもらえない場合はどうすればよいですか。
A. 退職合意書に弁済条項が明記されていれば、それを根拠に請求することができます。支払いがない場合は、内容証明郵便による請求、その後の法的手続き(支払督促・訴訟等)という流れになります。弁護士にご相談いただければ、手続きの進め方をご案内できます。
最終更新日:2026年5月8日