労働問題348 残業代(割増賃金)に当たる部分を特定せずに月例賃金には残業代が含まれている旨の合意は有効ですか。
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残業代に当たる部分の額を特定せずに合意・署名押印させても、通常の賃金と残業代の各部分が計算・検証できないため、残業代の支払があったとは認められない 「月給に残業代が含まれる」と口頭・書面で合意しても、金額の特定がなければ無効です |
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モルガン・スタンレー・ジャパン(超過勤務手当)事件東京地裁H17.10.19判決は特殊事情がある例外的な事案——通常の事例に適用できる判例ではない 高度専門職・基本給だけで月183万円超という特殊事情を見落として読むと誤った判断につながります |
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「月給に残業代が含まれる」という形で残業代を処理するためには、通常の賃金部分と残業代部分を明確に区別し、残業代に当たる部分の金額を特定した適法な定額残業代制度の設計が必要(350番参照) 曖昧な合意ではなく、適法に設計された定額残業代制度のみが有効です |
目次
01金額を特定しない「残業代込み合意」が無効になる理由——計算・検証ができない
「月給30万円には残業代が含まれている」という合意をし、社員に合意書への署名押印をさせている場合であっても、残業代(割増賃金)に当たる部分の額が特定されていなければ、時間外・休日・深夜割増賃金に当たる部分の額が労基法および労基法施行規則19条所定の計算方法で計算された金額以上となっているかどうか(不足する場合はその不足額)を計算(検証)することができません。
残業代の支払として認められるためには、通常の賃金部分と残業代部分が「判別可能」でなければなりません(350番参照)。金額が特定されていないまま「含まれる」とするだけでは判別ができず、残業代(割増賃金)を支払わないのと変わらない結果となるため、労基法37条の規定する時間外・休日・深夜割増賃金の支払があったとは認められません。
02モルガン・スタンレー・ジャパン事件——例外的判決の射程と限界
モルガン・スタンレー・ジャパン(超過勤務手当)事件東京地裁平成17年10月19日判決では、割増賃金に相当する金額が特定されていないにもかかわらず、基本給に残業代(割増賃金)が含まれているとする会社側の主張が認められています。しかし、この判決を一般的な事案に適用することはできません。
・労働者が自らの判断で営業活動や行動計画を決めることができる高度専門職
・基本給だけで月額183万円を超えている(別途、多額のボーナス支給等もある)という高額報酬
・通常の事業場の社員とは全く異なる特殊な就労環境
このような特殊事情がある場合に限って追加の残業代請求を認めるのが相当でないとされた事案であり、通常の事例にまで同様の判断がなされると考えることはできません。
03「月給に残業代が含まれる」を適法に機能させるための条件
月給の中に残業代を組み込む形式(定額残業代制度)を採用することは、適法な要件を満たした場合に有効です。適法な定額残業代制度として機能させるためには、基本的には以下の要件を満たす必要があります(350番で詳しく解説)。
定額残業代制度として有効に機能させるための基本要件
① 賃金規程等に定額残業代を支払う旨の記載があること(口頭説明だけでは不十分)
② 通常の賃金部分と定額残業代部分が明確に区別されていること
③ 定額残業代の「金額」が明示されていること(金額の特定が最重要)
④ 定額残業代を超過した残業代は追加で支払うこと
04まとめ
残業代(割増賃金)に当たる部分を特定せずに月例賃金には残業代が含まれている旨合意し、合意書に署名押印させていたとしても、時間外・休日・深夜割増賃金に当たる部分の額が計算・検証できないため、残業代の支払があったとは認められません。モルガン・スタンレー・ジャパン事件は特殊事情がある例外的な判決であり、通常の事例に適用できません。「月給に残業代が含まれる」という形で残業代を適法に処理するためには、定額残業代部分の「金額」を明示した適法な定額残業代制度の設計が必要です(350番参照)。アドバイスします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
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Q&Aよくある質問
Q1. 「月給30万円には残業代が含まれる」という合意書があれば残業代を別途支払わなくてよいですか。
A. 合意書があっても、残業代に当たる部分の金額が特定されていなければ残業代の支払があったとは認められません。「月給30万円のうち○円が残業代」という形で金額を特定した定額残業代制度として適法に設計する必要があります(350番参照)。
Q2. モルガン・スタンレー事件の判決は自社にも使えますか。
A. 通常の事例には使えません。モルガン・スタンレー事件は、高度専門職で基本給だけで月183万円超という特殊事情がある例外的な判決です。このような特殊事情がない通常の事業場に同様の判断がなされると考えることはできません。
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最終更新日:2026年5月10日