労働問題349 残業代(割増賃金)込みの賃金ということで社員全員が納得しており、誰からも文句が出ていないのですから、別途残業代(割増賃金)を支払わなくてもいいのではないですか。
残業代(割増賃金)込みで月給30万円とか、日当1万6000円と約束しており、それで文句が全く出ていないのだから、残業代(割増賃金)に相当する金額を特定していなくても、未払残業代(割増賃金)の請求を受けるはずはない、少なくともうちは大丈夫、と思い込んでいる会社経営者がいらっしゃいますが、甘い考えと言わざるを得ません。現実には、解雇などによる退職を契機に、未払残業代(割増賃金)を請求するたくさんの労働審判、訴訟等が提起されており、残業代(割増賃金)の請求に必要な情報はインターネットを検索すれば簡単に見つかります。
また、訴訟になれば、労働者側は必ず、「月給30万円(日当1万6000円)に残業代(割増賃金)が含まれているなんて話は聞いたことがない。」といった主張をするに決まっており、そうなってから使用者側が後悔しても後の祭りです。
現時点で在籍している社員から文句が出ていないのは、社長の機嫌を損ねて職場に居づらくなるのが嫌だからに過ぎず、解雇されるような事態が生じた場合は、躊躇なく、会社に対して未払残業代(割増賃金)の請求をするようになります。
最近では、問題社員に辞めてもらおうと思って退職勧奨をした途端、社員の態度がそれまでとは全く変わってしまい、「それだったら、これまでの未払残業代を支払って下さい。」と強硬に言われたり、素直に業務指示に従わなくなってしまったりして困っているといった相談も散見されるところです。勤務を続けさせてもらえるのなら未払残業代(割増賃金)の請求はしないが、辞めさせられそうになったら未払残業代を退職金代わりに請求しようと考えながら勤務している問題社員もいるようです。
残業代(割増賃金)の請求を受けてから、「文句があるんだったら、最初から言ってくれればよかったのに。」と嘆く会社経営者が大勢いるのは残念なことです。しかし、採用前に会社経営者に文句を言ったら採用してもらえませんし、在職中に会社経営者に文句を言ったら事実上会社にいられなくなってしまいますから、労働組合の支援でもない限り、退職を決意する前に会社経営者に文句を言う社員など、そう多くはいるはずがありません。
本来であれば、全ての会社が、すぐにでも賃金制度を変更して、通常の労働時間・労働日の賃金にあたる部分と残業代(割増賃金)にあたる部分を判別できるような形で残業代(割増賃金)を支払うようにすればいいのですが、一度、痛い目にあってからでないとなかなか、対策が採られないというのが実情です。
そういった無防備な会社をターゲットにした残業代(割増賃金)請求が、一部の弁護士の「ビジネスモデル」として確立しつつある印象ですので、ご注意下さい。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎