労働問題349 残業代(割増賃金)込みの賃金ということで社員全員が納得しており、誰からも文句が出ていないのですから、別途残業代(割増賃金)を支払わなくてもいいのではないですか。
「社員から文句が出ていない」は安全の根拠にはなりません
残業代(割増賃金)込みで月給30万円等と約束しており、社員から文句が全く出ていないからといって、残業代に相当する金額を特定していなくても未払残業代の請求を受けるはずはないと思い込んでいる会社経営者がいらっしゃいますが、甘い考えと言わざるを得ません。本記事では、この思い込みが生じる理由と現実のリスクを解説します。
目次
01「文句が出ていない」のはなぜか——在職中の遠慮という現実
現時点で在籍している社員から文句が出ていないのは、社長の機嫌を損ねて職場に居づらくなるのが嫌だからに過ぎません。採用前に会社経営者に文句を言ったら採用してもらえませんし、在職中に会社経営者に文句を言ったら事実上会社にいられなくなってしまいます。労働組合の支援でもない限り、退職を決意する前に会社経営者に文句を言う社員など、そう多くはいるはずがありません。
「文句が出ていない」という事実は「問題がない」ことを意味するのではなく、「問題があっても言えない状況にある」ことを意味している場合がほとんどです。
02退職・解雇をきっかけに一変する——退職勧奨後の豹変パターン
解雇されるような事態が生じた場合は、躊躇なく会社に対して未払残業代(割増賃金)の請求をするようになります。最近では、問題社員に辞めてもらおうと思って退職勧奨をした途端、社員の態度がそれまでとは全く変わってしまい、「それだったら、これまでの未払残業代を支払って下さい。」と強硬に言われたり、素直に業務指示に従わなくなってしまったりして困っているといった相談も散見されます。
退職勧奨後の典型的な展開パターン
・勤務を続けさせてもらえるのなら未払残業代の請求はしないが、辞めさせられそうになったら未払残業代を退職金代わりに請求しようと考えながら勤務している問題社員がいる
・退職勧奨をした直後に「それなら未払残業代○百万円を請求します」と宣言され、退職勧奨の交渉どころでなくなってしまう
・退職した後に弁護士を通じて時効(3年)の範囲で遡及した未払残業代を請求してくる
03訴訟になれば「含まれているとは聞いていない」という主張は必ず出る
訴訟になれば、労働者側は必ず「月給30万円(日当1万6000円)に残業代(割増賃金)が含まれているなんて話は聞いたことがない」といった主張をします。そうなってから使用者側が後悔しても後の祭りです。
残業代(割増賃金)の請求に必要な情報はインターネットを検索すれば簡単に見つかります。現実には、解雇などによる退職を契機に、未払残業代(割増賃金)を請求する多くの労働審判・訴訟等が提起されています。「うちの社員に限って」という思い込みは非常に危険です。
04無防備な会社をターゲットにした残業代請求の「ビジネスモデル化」
残業代(割増賃金)の請求を受けてから、「文句があるんだったら、最初から言ってくれればよかったのに。」と嘆く会社経営者が大勢いるのは残念なことです。しかし、採用前に文句を言ったら採用してもらえませんし、在職中に文句を言ったら事実上会社にいられなくなってしまいますから、社員側が在職中に残業代を請求しないことには合理的な理由があります。
そういった無防備な会社をターゲットにした残業代(割増賃金)請求が、一部の弁護士の「ビジネスモデル」として確立しつつある印象ですので、ご注意ください。
05今すぐ賃金制度を変更することが唯一の正解
本来であれば、全ての会社が、すぐにでも賃金制度を変更して、通常の労働時間・労働日の賃金に当たる部分と残業代(割増賃金)に当たる部分を判別できるような形で残業代(割増賃金)を支払うようにすればよいのですが、一度、痛い目にあってからでないとなかなか対策が採られないというのが実情です。
「痛い目にあってから対策を講じる」では遅すぎます。「文句が出ていない今のうちに」賃金制度を適正化することが、会社を守る唯一の方法です。賃金制度の変更については、既存社員に対しては不利益変更の問題が生じる可能性があるため(342番参照)、使用者側弁護士のサポートを受けながら慎重に進めることをお勧めします。
06まとめ
残業代込みの賃金ということで社員全員が納得しており誰からも文句が出ていない場合であっても、別途残業代を支払う必要がなくなるわけではありません。社員が在職中に文句を言わないのは、立場上言いにくい環境にあるからにすぎず、解雇・退職勧奨等をきっかけに一転して未払残業代を請求してくるケースは多発しています。「文句が出ていない」という現状に安心せず、今すぐ賃金制度を適正化することが会社を守る唯一の対策です。具体的な対応については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
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Q&Aよくある質問
Q1. 社員全員が残業代込みの賃金制度に納得して働いています。それでも未払残業代を請求されることがありますか。
A. あります。在職中に「納得している」ように見えるのは、立場上文句を言えない状況にあるからにすぎません。解雇・退職勧奨等をきっかけに「実は納得していなかった、払ってもらっていなかった」として未払残業代を請求するケースは多発しています。また、退職後に弁護士を通じて時効(3年)の範囲で遡及した請求が来ることもあります。
Q2. 今から賃金制度を変更すると社員に不信感を持たれそうです。どのように対応すればよいですか。
A. 賃金制度の適正化は「社員への待遇を下げる変更」ではなく「法律に沿った制度に整える変更」です。丁寧に説明することで社員の理解を得られる場合も多くあります。また、変更にあたっては既存社員への不利益変更の問題が生じる可能性があるため(342番参照)、使用者側弁護士の関与のもとで適切な手続きを取ることが重要です。
最終更新日:2026年5月10日