労働問題347 同業他社よりも高額の基本給・手当・賞与を支給し昇給もさせているので残業代(割増賃金)を別途支払う必要はないですよね

この記事の要点

高額の基本給・手当・賞与の支給は残業代の支払の代わりにはならない——別途残業代(割増賃金)の支払義務が生じる

「十分な報酬で報いているから残業代は別途不要」という考えは法律上通用しません

むしろ、毎月の基本給等の金額が上がれば残業代の単価が上がることになり、かえって高額の残業代請求を受けるリスクが高くなる

「高い給与を払っているから安心」ではなく「高い給与を払うと残業代リスクも上がる」という発想が必要です

賃金総額に対する月例給与の比率を下げ賞与の比率を上げることは、基礎賃金(残業代単価の計算基礎)を不必要に上げないという意味では有効な残業代請求対策——ただし高額の賞与の支給それ自体を残業代の支払と考えることはできない

「賞与で残業分を報いる」ことと「残業代を支払う」ことは法律上全く別の問題です

基本給・手当・賞与を高額に設定しながら残業代も適切に処理するためには、賃金制度全体の設計が重要(332番・341番参照)

「給与を高くする」と「残業代を適正に処理する」を両立させる賃金設計が求められます

01「十分な給与を払っているから残業代は不要」という誤解の背景

 それなりに高額の基本給・手当・賞与を社員に支給し、昇給までさせているにもかかわらず、残業代(割増賃金)は全く支給しない会社が散見されます。社員の努力に対しては、基本給・手当・賞与の金額で応えているのだから、それで十分と、経営者が考えているからだと思われます。

 確かに、高額の給与・賞与を支給して社員の貢献に報いようとする経営者の姿勢自体は理解できます。しかし、「高い給与で報いているから残業代は別途不要」という考えは法律上の根拠を欠いており、多額の未払残業代請求リスを生じさせます。

02高額の基本給・手当・賞与は残業代の代わりにならない

 高額の基本給・手当・賞与の支給は残業代の支払の代わりにはなりません。毎年昇給させても同様です。残業代(割増賃金)の支払義務は労基法37条で定められており、その義務は社員への処遇の高低にかかわらず発生します。

 したがって、同業他社よりも高額の基本給・手当・賞与を社員に支給し、毎年昇給もさせるなどして社員の残業に対して十分に報いている場合であっても、残業代(割増賃金)を別途支払う必要があります。

03むしろ危険——基本給が上がると残業代の単価も上がる

 「高い給与を払っているから安心」という考えには、さらに見落としがあります。毎月の基本給等の金額が上がれば残業代の単価が上がることになり、かえって高額の残業代請求を受けるリスクが高くなります。

基本給が上がると残業代の未払リスクも上がる

残業代(割増賃金)の計算式:基礎賃金÷所定労働時間数×割増率×残業時間数

基本給が高いほど「基礎賃金」が高くなり、残業代の「単価」が高くなります。例えば、基本給20万円の社員の残業代単価が1,500円/時間とすれば、基本給30万円の社員の残業代単価は2,250円/時間になります。高額の基本給を設定して残業代を払わずにいると、時効(3年)の範囲で遡及した高額の残業代請求を受けるリスが生じます。

04賞与の比率を高めることと、賞与を残業代と考えることの違い

 賃金総額に対する月例給与の比率を下げ、賞与の比率を上げることは、残業代算定の基礎賃金(残業代の単価計算の基礎)を不必要に上げないという意味では残業代請求対策になります(332番参照)。この点では、高額の基本給を設定するよりも賞与の比率を高めることが賃金設計上有利です。

 しかし、高額の賞与の支給それ自体を残業代の支払と考えることはできません。賞与は「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」として除外賃金に当たり(労基則21条・労基法37条5項)、割増賃金の計算の基礎から除外されますが、これは「賞与が残業代の代わりになる」ということではなく、「賞与は残業代の単価を下げる効果がある」ということにすぎません。

 したがって、賞与の比率を高めた賃金設計を採用する場合でも、発生した残業代(割増賃金)は別途支払う必要があります。

05まとめ

 同業他社よりも高額の基本給・手当・賞与を社員に支給し、毎年昇給もさせるなどして社員の残業に対して十分に報いている場合であっても、残業代(割増賃金)を別途支払う必要があります。高額の基本給・手当・賞与の支給は残業代の支払の代わりにはなりませんし、毎月の基本給等の金額が上がれば残業代の単価が上がることになり、かえって高額の残業代請求を受けるリスクが高くなります。高額の給与を払いながら残業代も適正に処理するための賃金制度設計については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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Q&Aよくある質問

Q1. 高額の基本給を支払っていれば残業代を支払わなくてよいですか。

A. 支払わなくてよいわけではありません。高額の基本給の支給は残業代の代わりにはならず、むしろ基本給が高くなるほど残業代の単価(基礎賃金÷所定労働時間数×割増率)が高くなり、未払残業代請求を受けた場合の金額が大きくなります。

Q2. 高額の賞与を払うことで残業代の代わりになりますか。

A. なりません。賞与は残業代単価の計算基礎から除外される(基礎賃金を下げる効果はある)ものの、賞与の支給それ自体が残業代の支払となるわけではありません。発生した残業代(割増賃金)は別途支払う必要があります。

最終更新日:2026年5月10日

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