労働問題328 管理職からの残業代(時間外・休日割増賃金)請求を予防する方法を教えて下さい。

この記事の要点

管理職からの残業代請求を予防するための最も効果的な方法は、①管理監督者とする管理職の範囲を狭く捉えて上級管理職に限定する、②大部分の管理職は最初から管理監督者としては取り扱わずに残業代を満額支給する——の2点

「管理監督者かどうか」の曖昧な判断を避け、残業代を正面から支払うことがリスク管理上も合理的です

313番で解説したとおり、管理監督者性の判断は難しく「この管理職は管理監督者に当たる」と自社で判断しても、裁判では否定されるリスが常に存在する

管理監督者性の判断リスクを取り続けることは、企業にとっても重大なリスクです

管理職に残業代を支払う場合の賃金原資は、基本給・諸手当・賞与を調整することで捻出できる(329番参照)

「残業代を払うと人件費が増える」という懸念は、賃金制度の設計次第で解消できます

「同意書」「就業規則への規定」は残業代請求の予防策にはならない——326番・327番で解説したとおり、労基法13条・労契法13条により無効となる

書面による手当ては「根本的な予防策」にはなりません

01管理職からの残業代請求が増加している背景

 312番で解説したとおり、管理職も原則として残業代(時間外・休日割増賃金)の支払義務の対象であり、管理監督者(労基法41条2号)に当たる場合に限り時間外・休日割増賃金の支払が免除されます。しかし313番で解説したとおり、管理監督者性の判断は難しく、最高裁判例も存在しないため、企業が「この管理職は管理監督者に当たる」と判断していても、裁判では管理監督者性が否定されるリスが常に存在します。

 また、326番・327番で解説したとおり、「同意書」や「就業規則の規定・周知」は、管理監督者の実態がない場合には残業代請求を防ぐ効果がありません。こうした背景から、管理職からの残業代請求を根本的に予防するためには、以下の2点をお勧めします。

02予防策①——管理監督者とする管理職の範囲を上級管理職に限定する

 予防策の第一は、管理監督者とする管理職の範囲を狭く捉えて上級管理職に限定することです。

 行政解釈(315番)が「職制上の役付者であれば全員が管理監督者として例外的取扱いが認められるものではない」としているとおり、「部長・課長・係長全員を管理監督者扱い」という運用は行政解釈とも相容れません。管理監督者の要件(312番〜325番)を実態として確実に満たす、真に「経営者と一体的な立場にある」上級管理職(例えば、取締役直属の本部長・事業部長・工場長等)に限定して管理監督者として扱うことが、訴訟リスクの観点からも合理的です。

管理監督者とする範囲の絞り込みポイント
・部長・課長・係長等の全役職者を一律に管理監督者とするのではなく、真に経営者と一体的な立場にある上位の管理職にのみ限定する
・管理監督者として扱う役職・条件を就業規則等に明確に定め、その実態確認を定期的に行う
・管理監督者としての実態(職務内容・権限・責任・勤務態様の自由性・相当な処遇)を確実に備えた上で扱う

03予防策②——大部分の管理職には残業代を満額支給する

 予防策の第二は、大部分の管理職は最初から管理監督者としては取り扱わず、残業代(時間外・休日割増賃金)を満額支給することです。

 「管理監督者かどうか」という難しい法的判断を行うことなく、残業代を正面から支払うことが、残業代請求リスクを根本的に除去する最も確実な方法です。管理監督者性の判断が難しく訴訟リスクが高い以上、大部分の管理職については最初から管理監督者としての扱いを諦め、残業代を適正に支払う制度を構築することが、長期的な企業リスク管理の観点からも合理的です。

比較 管理監督者として残業代不支給 残業代を適正に支払う
法的リスク 管理監督者性が否定された場合、多額の未払残業代・付加金・遅延損害金の請求リスク 残業代を適正に支払っているため残業代請求リスクなし(適正な計算が前提)
判断の難しさ 管理監督者性の判断が難しく、最高裁判例もない(313番参照) 判断不要——残業時間を正確に把握して支払えばよい
賃金原資 管理職手当等に上乗せが必要(名目的な手当だけでは残業代の代わりにならない) 基本給・諸手当・賞与を調整することで原資を確保可能(329番参照)

04「同意書・就業規則」は予防策にならない——根本的な対策の必要性

 よくある誤った対策として、「昇進時に管理監督者扱いへの同意書に署名押印させる」「就業規則に管理監督者扱いを明記して周知する」という対応が見られます。しかし326番・327番で解説したとおり、これらは労基法13条・労契法13条により管理監督者の実態がない場合には無効となり、残業代請求を防ぐ効果はありません。

 根本的な予防策は、①管理監督者として扱う範囲を厳格に上級管理職に限定し、②大部分の管理職には残業代を正面から支払う制度設計を行うことです。残業代を支払う場合の賃金原資の確保については、329番で具体的に解説しています。

05まとめ

 管理職からの残業代請求を予防する方法としては、①管理監督者とする管理職の範囲を狭く捉えて上級管理職に限定し、②大部分の管理職は最初から管理監督者としては取り扱わずに残業代を満額支給することをお勧めします。管理監督者性の判断は難しく(313番)、「同意書」や「就業規則の規定」は法律上無効となる場合があります(326番・327番)。残業代を支払う場合の賃金原資の確保については329番で解説しています。具体的な制度設計については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。管理職の残業代トラブルの予防・賃金制度の設計・就業規則の整備でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

Q&Aよくある質問

Q1. 管理職からの残業代請求を予防する最も効果的な方法は何ですか。

A. ①管理監督者とする管理職の範囲を狭く捉えて真に経営者と一体的な立場にある上級管理職に限定し、②大部分の管理職は最初から管理監督者としては取り扱わずに残業代を満額支給することが最も効果的です。「同意書」「就業規則への規定・周知」は管理監督者の実態がなければ無効となるため(326番・327番参照)、根本的な予防策にはなりません。

Q2. 管理監督者として扱う管理職の範囲をどのくらいに限定すればよいですか。

A. 312番〜325番で解説した管理監督者性の要件(経営者との一体性・勤務態様の自由性・処遇の相当性)を実態として確実に満たす役職に限定することが必要です。一般的には、取締役直属の本部長・事業部長・工場長等、企業によっては上位の部長等に限定することが考えられます。具体的な範囲については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。

Q3. 大部分の管理職に残業代を支払うと人件費が増えて経営が苦しくなりませんか。

A. 適切な賃金制度を設計することで、人件費総額を増やさずに残業代を支払う制度を構築することができます。基本給・諸手当・賞与を調整して残業代の原資を確保する方法については329番で具体的な計算例を交えて解説しています。「残業代不払い→後に多額の未払残業代請求」という自滅を招くリスよりも、適正な賃金制度を構築した方が長期的には経営上有利です。

Q4. 管理監督者として扱う範囲を限定することで、管理職のモチベーションに影響はありますか。

A. 適切な制度設計を行えば、モチベーションへの悪影響を最小限に抑えることができます。むしろ残業代を適正に支払うことで「残業をするほど給与が増える」という透明性のある仕組みとなり、労働意欲の向上につながる面もあります。また、管理監督者として扱う範囲を真に経営者と一体的な立場にある上位の管理職に限定することで、「管理監督者であること」の希少価値・ステータスを高める効果もあります。

最終更新日:2026年5月10日



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