労働問題327 就業規則において管理職は管理監督者として扱い残業代(割増賃金)を支給しない旨規定し周知させた場合であっても、管理職に残業代(割増賃金)を支払う必要がありますか。


この記事の要点

就業規則が労基法に反する場合には、当該反する部分については労働条件にならない(労契法13条)

就業規則の「管理監督者扱い・残業代不支給」規定は、管理監督者の実態がなければ無効となります

就業規則で管理職を管理監督者扱いとして残業代不支給を規定・周知した場合でも、管理監督者の実態がなければ残業代(時間外・休日割増賃金)の支払義務が生じる

「就業規則に書いてある」「周知した」という事実は残業代支払義務を免除しません

326番で解説した個別労働契約(労基法13条)と同様に、就業規則(労契法13条)においても労基法の強行的効力が及ぶ

労基法(37条)に違反する就業規則の条項は無効となり、労基法の基準が適用されます

深夜割増賃金(22時〜5時)については、管理監督者かどうかにかかわらず支払義務がある(312番・ことぶき事件参照)

就業規則での不支給規定もこの点については同様に無効です

01労契法13条の効力——就業規則が労基法に反する場合は労働条件とならない

 326番では、個別労働契約で管理監督者扱いに同意していても、労基法13条(強行的効力)により当該条項が無効となる場合があることを解説しました。本記事では、同様の問題が就業規則に存在する場合について解説します。

 労働契約法(労契法)13条は次のとおり定めています。「就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第七条、第十条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。」

 この規定は、就業規則が法令(労基法を含む)に反する場合には、その反する部分については就業規則としての効力が生じず、労働条件にはならないことを意味します。

労契法13条の効果——就業規則の「管理監督者扱い・残業代不支給」規定の無効
就業規則に「管理職は管理監督者として扱い、時間外・休日割増賃金は支払わない」という規定を設け、従業員に周知させた場合でも、その規定が労基法37条(割増賃金の支払義務)に反するものであれば、労契法13条により当該部分は労働条件とならず、無効となります。

無効となった部分には、労基法の基準(労基法37条に基づく割増賃金の支払義務)が適用されます。

02就業規則で管理監督者扱いを規定・周知しても残業代支払義務は消えない

 就業規則において管理職は管理監督者として扱い残業代(割増賃金)を支給しない旨規定し周知させた場合であっても、管理監督者に当たらない場合は、管理職に対し、労基法37条1項に基づき残業代(時間外・休日割増賃金)を支払う必要があります。

 就業規則の周知(労基法106条:就業規則を常時各作業場の見やすい場所に掲示・備え付けること等)は、就業規則を労働条件として有効とするための要件ですが、就業規則の内容が労基法等の法令に違反するかどうかとは別の問題です。周知がなされていても、就業規則の内容が労基法に反する(管理監督者の実態がない管理職への残業代不支給規定)場合は、労契法13条により当該部分は労働条件とはならず、残業代の支払義務が生じます。

「就業規則に書いて周知すれば残業代を免れる」という考えは誤り

実務では「就業規則で管理監督者として扱うと明記して周知したから問題ない」という対応が見られることがありますが、管理監督者性の実態がない場合は、就業規則の規定・周知にかかわらず残業代請求を防ぐ効果はありません。

根本的な対策は就業規則の規定ではなく、312番〜325番で解説した管理監督者性の実態を備えることです。

03深夜割増賃金は就業規則の規定にかかわらず支払義務がある

 深夜(22時〜5時)に労働させた場合には、管理監督者であるかどうかにかかわらず、労基法37条4項に基づき深夜割増賃金を支払う必要があります(312番・ことぶき事件最高裁H21.12.18参照)。

 就業規則に「管理職は深夜割増賃金も不支給」と規定・周知した場合でも、労基法37条4項(深夜割増賃金の支払義務)に反するものとして、労契法13条により当該部分は労働条件とならず、深夜割増賃金の支払義務は生じます。

04326番(個別労働契約・労基法13条)との比較

区分 326番(個別労働契約) 本記事327番(就業規則)
根拠法 労基法13条(強行的効力) 労契法13条(就業規則が法令に反する場合の効力)
無効となる条項 労基法に達しない労働条件を定める労働契約の条項 法令(労基法)に反する就業規則の条項
無効後の適用 無効部分には労基法の基準が適用される 労契法13条の規定により法令(労基法)が適用される
結論 同意があっても管理監督者の実態なければ残業代支払義務あり 就業規則での規定・周知があっても管理監督者の実態なければ残業代支払義務あり

 326番(個別労働契約・労基法13条)と本記事(就業規則・労契法13条)は、根拠法こそ異なりますが、結論は同一です。「労使間の合意や就業規則の規定によっても、労基法の規制(割増賃金の支払義務)は排除できない」という点で共通しています。

05まとめ

 就業規則において管理職は管理監督者として扱い残業代を支給しない旨規定し周知させた場合であっても、就業規則が労基法に反する場合にはその反する部分は労働条件とならないため(労契法13条)、管理監督者に当たらない場合は残業代(時間外・休日割増賃金)の支払義務が生じます。深夜割増賃金については管理監督者かどうかにかかわらず支払義務があります。「就業規則に書いて周知すれば残業代を免れる」という対応は法律上認められず、根本的な対策は管理監督者性の実態を備えた制度設計を行うことです。具体的な対応については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。管理職の管理監督者性の判断・就業規則の整備・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

Q&Aよくある質問

Q1. 就業規則で「管理職は管理監督者として残業代は不支給」と規定して周知すれば残業代を支払わなくてよいですか。

A. 支払わなくてよいわけではありません。就業規則が法令(労基法37条)に反する場合には当該反する部分は労働条件とならないため(労契法13条)、管理監督者に当たらない場合は残業代(時間外・休日割増賃金)の支払義務が生じます。就業規則の規定・周知は残業代支払義務を免除しません。

Q2. 労契法13条とはどのような規定ですか。

A. 就業規則が法令(労基法を含む)に反する場合には、その反する部分については就業規則としての効力が生じず、当該労働者との間の労働契約には適用されないという規定です(労契法13条)。326番で解説した労基法13条(個別労働契約への強行的効力)と組み合わせて、労基法の規制は就業規則によっても排除できないという結論が導かれます。

Q3. 個別労働契約(労基法13条・326番)と就業規則(労契法13条・本記事)の関係は何ですか。

A. 根拠法こそ異なりますが(個別労働契約は労基法13条、就業規則は労契法13条)、結論は同一です。「個別労働契約で合意しても」「就業規則に規定して周知しても」、いずれの場合も管理監督者の実態がなければ労基法(37条)に基づく残業代の支払義務は消えません。

Q4. 就業規則に管理監督者扱いの規定を設けることに意味はありますか。

A. 管理監督者性の実態を伴った上級管理職への適用を明確にする意味はあります。ただし、就業規則に規定があれば管理監督者性を認められるわけではなく、あくまで「実態として管理監督者の要件を満たしている者に対して管理監督者として扱う」ことを就業規則で明確にする、という位置づけです。実態のない管理監督者扱い規定は、残業代請求の際に「会社が意図的に管理監督者として扱ったことの証拠」として機能するリスがあります。

最終更新日:2026年5月10日



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