労働問題288 1か月単位の変形労働時間制の導入に必要な就業規則・労使協定の記載内容
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1か月単位の変形労働時間制を導入するには、各週・各日の所定労働時間を就業規則または労使協定に定める必要がある 法定労働時間を上回る週・日を特定し、単位期間を平均して週法定労働時間を超えないことを明らかにすることが必要です |
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業務の性質上事前の特定が困難な場合は、変形の期間・上限・勤務パターン等の基本事項を定めた上で、変形期間の開始前に具体的な勤務割りで特定することも認められる ただしこの場合も、変形期間の開始前に勤務割りを特定する必要があります |
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就業規則・労使協定に枠組みだけを定め、具体的な労働時間を使用者が任意に定めることができるようなものは認められない 「枠組みのみ」の形では変形労働時間制の適法な導入とはなりません |
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適法な変形労働時間制でなければ、時間外労働は通常の法定労働時間(1日8時間・週40時間)を基準として判断され、多額の残業代請求につながるリスがある 変形労働時間制の導入は、適正な手続きを踏むことが不可欠です |
目次
011か月単位の変形労働時間制の概要
287番で解説したとおり、1か月単位の変形労働時間制(労基法32条の2)とは、1か月以内の期間を平均して週の法定労働時間(原則40時間、特例措置対象事業場では44時間)を超えない範囲であれば、特定の日または週に法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。
この制度を利用するためには、労使協定の締結または就業規則への定めが必要ですが、その記載内容・特定の程度については、法的な要件が定められています。「就業規則に変形労働時間制を採用する旨を定めれば十分」という理解は誤りです。
02原則——各週・各日の所定労働時間の特定が必要
1か月単位の変形労働時間制を導入するためには、法定労働時間を上回る週又は日を特定し、単位期間を平均して1週間あたりの労働時間が週法定労働時間を超えないことを明らかにするために、各週・各日の所定労働時間を就業規則又は労使協定に定める必要があります。
具体的には、シフト表・勤務時間のパターン等で、各週・各日の始業・終業時刻および休憩時間(すなわち労働時間)を特定した上で、変形期間全体の総労働時間が法定労働時間の総枠(単位期間の日数×8時間または7時間×週数等)を超えないことを確認する必要があります。
①変形期間の長さ(1か月以内)と起算日
②各週・各日の始業・終業時刻(所定労働時間の特定)
③法定労働時間を上回る日・週(繁忙日・繁忙週)の具体的な時間
④変形期間全体の総労働時間が法定労働時間の総枠を超えないことの確認
03例外——事前特定が困難な場合の変形期間前の勤務割りによる特定
業務の性質上事前の特定が困難な場合は、変形の期間、上限、勤務のパターンなどの変形制の基本事項を就業規則又は労使協定に定めた上、変形期間の開始前に、具体的な勤務割りで特定することも認められます。
例えば、医療・介護・飲食・小売等の業種では、シフトを事前に決定することが難しい場合があります。このような場合は、就業規則・労使協定に「1か月単位の変形労働時間制を採用する」「1日の上限は10時間」「週の上限は48時間」「勤務パターンはA勤・B勤・C勤の3種類」などの基本事項を定めた上で、各変形期間が始まる前(例:毎月の勤務割表を月初前に掲示・通知する等)に具体的なシフトを特定することが認められます。
①就業規則・労使協定に変形制の基本事項(変形の期間・上限・勤務パターン等)が定められていること
②変形期間(例:1か月)の開始前に具体的なシフト(勤務割り)が特定されていること
③特定されたシフトの全体が、変形期間を平均して週法定労働時間を超えないこと
04認められない形——枠組みのみで使用者が任意に定める形
就業規則・労使協定に労働時間制の枠組みを定めるだけで労働時間を特定せず、具体的な労働時間を使用者が任意に定めることができるようなものは認められません。
認められない形——よくある問題のある運用
×(認められない):就業規則に「当社は1か月単位の変形労働時間制を採用する」と定めるだけで、各日・各週の所定労働時間を定めず、使用者が毎日・毎週その都度シフトを決定できる運用
×(認められない):「繁忙日は10時間・閑散日は6時間」という上限・下限だけを定め、具体的な日ごとの割り当ては変形期間が始まった後に使用者が随時決定できる運用
このような「枠組みのみ」の変形労働時間制は、労働者が自己の労働時間を予め知ることができず、変形労働時間制の適法な要件を満たさないと判断される可能性があります。その場合、変形労働時間制は無効となり、通常の1日8時間・週40時間を基準として時間外労働の計算が行われることになります。
05適法な変形労働時間制でなかった場合のリスク
変形労働時間制の要件を満たさない場合、時間外労働は通常の法定労働時間(1日8時間・週40時間)を基準として判断されます。例えば、繁忙日に10時間働かせた場合でも、変形労働時間制が無効であれば、通常の2時間の時間外労働が発生したこととなり、時間外割増賃金(25%以上)の支払義務が生じます。
適法な変形労働時間制があれば時間外労働とならなかった部分について、後になって多額の残業代請求を受けることになるリスがあります。変形労働時間制の導入に際しては、就業規則・労使協定の記載内容について使用者側弁護士・会社側弁護士に確認を求めることをお勧めします。
06まとめ
1か月単位の変形労働時間制を導入するためには、各週・各日の所定労働時間を就業規則または労使協定に定める必要があります。業務の性質上事前の特定が困難な場合は、変形の期間・上限・勤務パターン等の基本事項を定めた上で、変形期間の開始前に具体的な勤務割りで特定することも認められます。しかし、就業規則・労使協定に枠組みだけを定めて具体的な労働時間を使用者が任意に定めることができるようなものは認められません。
適法な変形労働時間制の要件を満たさない場合、通常の法定労働時間を基準として時間外労働が発生し、多額の残業代請求につながるリスがあります。変形労働時間制の設計・就業規則の整備については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。変形労働時間制の導入・就業規則の整備・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 1か月単位の変形労働時間制を導入するには就業規則に何を定める必要がありますか。
A. 各週・各日の所定労働時間(始業・終業時刻)を定めることが必要です。法定労働時間を上回る日・週を特定し、変形期間全体を平均して週法定労働時間を超えないことを明らかにする必要があります。「変形労働時間制を採用する」という枠組みだけの定めでは不十分です。
Q2. 業務の性質上事前に各日の労働時間を特定できない場合はどうすればよいですか。
A. 変形の期間・上限・勤務パターン等の基本事項を就業規則または労使協定に定めた上で、変形期間の開始前(例:毎月の勤務割表を月初前に掲示)に具体的なシフトを特定することが認められます。変形期間が始まった後に随時変更できる形は認められません。
Q3. 就業規則に変形労働時間制の枠組みだけを定めれば十分ですか。
A. 十分ではありません。就業規則・労使協定に枠組みだけを定めて具体的な労働時間を使用者が任意に定めることができるようなものは、法的に有効な変形労働時間制の導入とはなりません。要件を満たさない場合は変形労働時間制が無効となり、通常の1日8時間・週40時間を基準として時間外労働が計算されます。
Q4. 1か月単位の変形労働時間制で有効に時間外労働が発生するのはどのような場合ですか。
A. 適法な変形労働時間制が導入されている場合、時間外労働は①各日の所定労働時間を超えた時間(所定労働時間が法定労働時間を超える日は法定労働時間を超えた時間)、②各週の所定労働時間を超えた時間(所定労働時間が法定労働時間を超える週は法定労働時間を超えた時間)、③変形期間全体の法定労働時間総枠を超えた時間——のいずれかに該当する時間について発生します。
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最終更新日:2026年5月10日