労働問題289 変形労働時間制を採用すれば残業代(割増賃金)請求対策になりますか。
|
✓
|
変形労働時間制は「所定労働時間が週40時間または1日8時間を超えて労働させることを許容する制度」であり、残業代(割増賃金)の支払義務を免除する制度ではない 「変形労働時間制を入れれば残業代を払わなくてよい」という理解は誤りです |
|
✓
|
週当たりの平均労働時間が週40時間未満で足りる会社では残業代対策になる可能性があるが、恒常的に1日8時間週5日労働させる必要がある会社では残業代対策にはならない 変形労働時間制の効果は、繁閑の差がある業種において特に有効です |
|
✓
|
変形労働時間制を採用しても、休日・深夜に労働させた場合は通常どおり休日割増賃金・深夜割増賃金を支払う必要がある 変形労働時間制は「時間外労働の判断方法を変える制度」であり、休日・深夜割増賃金の支払義務を免除するものではありません |
|
✓
|
変形労働時間制の効果・限界を正確に理解した上で、自社の業務実態に合った活用を検討することが重要 効果を誤解したまま導入しても残業代対策にはならず、むしろリスクが残ります |
目次
01変形労働時間制の基本的な性質——残業代免除制度ではない
変形労働時間制は、一定の期間を単位として、週当たりの平均労働時間が週40時間を超えないことを条件に、所定労働時間が週40時間又は1日8時間の労働時間を超えて労働させることを許容する制度に過ぎず、残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の支払義務を免除する制度ではありません。
「変形労働時間制を導入すれば残業代を払わなくてよい」という理解は誤りです。変形労働時間制は、「時間外労働かどうかを判断する際の基準の組み方を変える制度」であり、残業代そのものを免除するものではありません。
変形労働時間制を適法に導入した場合、週40時間または1日8時間を超える所定労働時間が設定された日・週については、「その所定労働時間」を超えるまでは時間外労働(時間外割増賃金の対象)に当たらないという効果があります。
例えば、繁忙日に10時間の所定労働時間を設定し、適法な変形労働時間制が導入されている場合、10時間を超えるまでは時間外割増賃金が発生しません(変形労働時間制がなければ、8時間を超えた2時間分から時間外割増賃金が発生)。
02変形労働時間制が時間外割増賃金の対策になり得る場合
変形労働時間制は、週当たりの平均労働時間が週40時間を超えないことが必要ですので、労働時間が週40時間未満又は1日8時間未満で足りることもあるのであれば、結果として残業代(時間外割増賃金)請求対策になる可能性があります。
変形労働時間制の効果が最大限に発揮される場面としては、以下のような業種・状況が考えられます。
03恒常的に1日8時間週5日労働させる会社では対策にならない
恒常的に1日8時間週5日労働させる必要がある会社では、残業代(時間外割増賃金)請求対策にはなりません。
変形労働時間制は、「週当たりの平均労働時間が週40時間を超えない」という条件が必須です。1日8時間×週5日=週40時間の労働をさせる場合、変形労働時間制を導入しても、変形期間の総労働時間は法定労働時間の総枠を超えません(時間外労働がそもそも発生しない)ので、変形労働時間制の導入による残業代削減効果はありません。
さらに、1日8時間週5日の労働に加えて残業をさせる場合は、変形労働時間制を導入しても、その残業部分については通常どおり時間外割増賃金の支払義務が生じます。恒常的に残業が発生する会社では、変形労働時間制は残業代対策にはなりません。
04変形労働時間制は休日・深夜割増賃金の対策にはならない
休日・深夜に労働させた場合は、変形労働時間制を採用したとしても、通常どおり、残業代(休日・深夜割増賃金)を支払う必要がありますので、変形労働時間制は残業代(休日・深夜割増賃金)請求対策にはなりません。
変形労働時間制が効果を持たない残業代
休日割増賃金(35%以上):法定休日に労働させた場合の割増賃金。変形労働時間制を採用しても、法定休日労働は「時間外労働かどうか」の問題ではなく「休日労働かどうか」の問題であるため、支払義務はなくなりません。
深夜割増賃金(25%以上):22時〜5時の深夜時間帯の労働に対する割増賃金。深夜割増賃金は「深夜の労働時間帯」に対して発生するものであり、変形労働時間制による時間外労働の判断方法の変更とは関係ありません。変形労働時間制を採用しても、深夜時間帯の労働には通常どおり深夜割増賃金が発生します。
05まとめ
変形労働時間制は、残業代(割増賃金)の支払義務を免除する制度ではありません。週40時間または1日8時間を超える所定労働時間が設定された場合に、変形期間の所定時間内であれば時間外割増賃金の対象とならないという効果があるに過ぎません。
変形労働時間制が残業代(時間外割増賃金)の対策になる可能性があるのは、業務の繁閑が大きく、労働時間が週40時間未満で足りることもある場合に限られます。恒常的に1日8時間週5日労働させる必要がある会社では対策にはなりません。また、変形労働時間制を採用しても、休日・深夜に労働させた場合は通常どおり休日割増賃金・深夜割増賃金の支払義務が生じます。変形労働時間制の効果と限界を正確に理解した上で、自社の業務実態に合った活用を検討することが重要です。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。変形労働時間制の導入・就業規則の整備・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 変形労働時間制を採用すれば残業代を払わなくてよいですか。
A. 払わなくてよいわけではありません。変形労働時間制は残業代(割増賃金)の支払義務を免除する制度ではなく、時間外労働かどうかを判断する際の基準の組み方を変える制度です。繁忙日に設定した所定労働時間(例:10時間)を超えるまでは時間外割増賃金が発生しないという効果があるに過ぎません。
Q2. 変形労働時間制がある程度残業代対策になる場合はどのような場合ですか。
A. 業務の繁閑が大きく、繁忙日に10時間・閑散日に6時間という形で、変形期間全体の平均が週40時間以内に収まる場合です。例えば、観光業・農業・建設業・小売業など、繁忙期・閑散期や土日・平日の差が大きい業種で効果を発揮しやすい制度です。
Q3. 恒常的に1日8時間週5日働かせる会社でも変形労働時間制は残業代対策になりますか。
A. なりません。変形労働時間制は「変形期間の平均が週40時間を超えない」ことが条件であり、恒常的に1日8時間週5日(週40時間)労働させる場合は、変形労働時間制を導入しても残業代削減効果はありません。また、この上に残業が発生すれば、その部分には通常どおり時間外割増賃金が発生します。
Q4. 変形労働時間制を採用しても休日・深夜割増賃金は必要ですか。
A. 必要です。変形労働時間制は「時間外労働かどうかの判断基準を変える制度」であり、休日割増賃金(35%以上)・深夜割増賃金(25%以上)の支払義務には影響しません。法定休日に労働させた場合は変形労働時間制を採用していても休日割増賃金が必要ですし、22時〜5時の深夜に労働させた場合は深夜割増賃金が必要です。
関連ページ
最終更新日:2026年5月10日