労働問題283 残業代(割増賃金)の請求を受けている労働審判事件において、付加金の支払を命じられることがありますか。


この記事の要点

労働審判は「判決」ではないため、労働審判で付加金の支払を命じられることはない

付加金(労基法114条)は判決で命じられる制度であり、労働審判の性質上、付加金の支払命令は生じません

労働審判申立書に付加金の請求が記載されていることは珍しくないが、これは除斥期間を遵守するためのものに過ぎない

調停が成立せず、異議申立により訴訟に移行した場合に備えて付加金請求を申立書に記載しています

付加金の請求期間は「除斥期間」——内容証明郵便では止まらず、訴えの提起が必要(280番参照)

労働審判申立書による請求は「訴えの提起」に準じて除斥期間の遵守に機能します

労働審判から訴訟に移行した場合は、通常の訴訟と同様に付加金が問題となる

訴訟移行後は278番〜282番で解説した付加金対応が必要になります

01労働審判では付加金の支払を命じられない——判決ではないため

 労働審判は判決ではありませんので、労働審判で付加金の支払を命じられることはありません。

 278番で解説したとおり、付加金は労基法114条に基づく制度であり、「裁判所は……付加金の支払を命ずることができる。」と規定されています。ここでいう「裁判所」の命令とは「判決」によるものを指し、労働審判(調停の成立または労働審判委員会の審判)は「判決」に当たりません。したがって、残業代請求の労働審判事件において、付加金の支払を命じる審判が下されることはありません。

労働審判と付加金の関係の整理
付加金(労基法114条)は「裁判所が判決で命じる」制度です。労働審判(調停・審判)は「判決」ではないため、付加金の支払を命じることはできません。
ただし、労働審判の申立書に付加金の請求が記載されていることは珍しくなく、その意味を正確に理解しておくことが重要です(02節参照)。

02労働審判申立書に付加金の請求が記載されている理由

 労働審判手続申立書において付加金の請求がなされていることは珍しくありませんが、これは、労働審判手続において調停が成立せず、労働審判に対して異議が出されて訴訟に移行した場合に備え、除斥期間を遵守するためのものに過ぎません。

 280番で解説したとおり、付加金の請求期間は「除斥期間」であり(労基法143条2項・114条ただし書)、内容証明郵便等による請求では止まりません。労働者が付加金の支払を受けるためには制限期間内に「訴え」を提起する必要があります。

 労働審判は訴訟とは異なる手続きですが、労働審判申立書への付加金請求の記載は「訴えの提起に準じるもの」として、除斥期間の進行を止める効果を持つと考えられています。そのため、労働審判の申立人(申立代理人)は、将来的に訴訟に移行した際に付加金の請求が除斥期間の経過により失われることを防ぐため、申立書にあらかじめ付加金の請求を記載することが多いのです。

03除斥期間との関係——申立書への記載の法的意義

 付加金請求の除斥期間と労働審判申立書への記載の関係をまとめると、以下のとおりです。

手段 付加金の除斥期間への影響 根拠・参照
内容証明郵便による請求 影響なし(除斥期間は進み続ける) 280番参照
労働審判申立書への付加金請求の記載 訴えの提起に準じて除斥期間の進行を止める効果がある 280番参照
訴訟(訴え)の提起 除斥期間が停止する(訴えの提起時点で判断) 280番参照

 会社側(使用者側)の観点からすれば、労働審判申立書に付加金の請求が記載されていても、それによって労働審判の手続き内で付加金の支払を命じられることはありません。ただし、申立書への記載が除斥期間を止める効果を持つことから、訴訟に移行した場合には付加金の請求が継続して問題となることを認識しておく必要があります。

04労働審判から訴訟に移行した場合の付加金

 労働審判において調停が成立せず、審判に対して異議が出された場合、事件は通常の訴訟手続きに移行します(労働審判法22条1項)。訴訟に移行した後は、278番〜282番で解説した通常の訴訟における付加金の問題が生じます。

 訴訟移行後は、会社側として以下の対応を検討することが重要です。

訴訟移行後の付加金対応のポイント
①訴訟係属中(口頭弁論終結前)に未払残業代の全額を任意弁済することで付加金の支払命令を回避できる(281番参照)
②付加金を命じるのが不相当な事情があれば積極的に主張立証する(279番参照)
③除斥期間(280番参照)が経過している月日分の付加金請求については、期間経過を主張する
④付加金と残業代(元本)・遅延損害金(276番参照)を区別して整理し、総支払額を正確に把握する

05まとめ

 労働審判は判決ではないため、労働審判で付加金の支払を命じられることはありません。労働審判申立書に付加金の請求が記載されていることは珍しくありませんが、これは調停が成立せず訴訟に移行した場合に備えて除斥期間を遵守するためのものに過ぎません。

 訴訟に移行した場合には、通常の訴訟における付加金対応が必要となります。労働審判への対応・訴訟移行後の付加金リスクの軽減については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。

※ 労働審判対応については、こちらで具体的に解説しています。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。労働審判への対応・残業代請求への対応・付加金リスクの軽減でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 労働審判で付加金の支払を命じられることはありますか。

A. ありません。労働審判は判決ではないため、付加金の支払を命じることはできません。付加金(労基法114条)は「裁判所が判決で命じる」制度であり、労働審判(調停・審判)の性質上、付加金の支払命令は生じません。

Q2. 労働審判申立書に付加金の請求が記載されているのはなぜですか。

A. 調停が成立せず、審判に対して異議が出されて訴訟に移行した場合に備え、付加金請求の除斥期間を遵守するためです。付加金の請求期間は除斥期間(2年または3年)であり、内容証明郵便では止まりません。労働審判申立書への記載が訴えの提起に準じるものとして除斥期間を止める効果を持つため、将来の訴訟移行に備えて申立書に記載するのが通常です。

Q3. 労働審判が訴訟に移行した場合、付加金はどうなりますか。

A. 訴訟に移行した場合、通常の訴訟における付加金の問題が生じます。訴訟係属中に未払残業代の全額を任意弁済することで付加金の支払命令を回避できる(281番参照)ほか、付加金を命じるのが不相当な事情があれば積極的に主張立証することが重要です。また、除斥期間が経過している月日分については、期間経過を主張することも選択肢の一つです。

Q4. 労働審判中に未払残業代を支払えば付加金を回避できますか。

A. 労働審判の段階では付加金の支払命令はありませんが(本記事01節参照)、訴訟に移行した場合を見据えて、未払残業代の弁済のタイミングと金額を慎重に検討することが重要です。労働審判中に未払残業代の全額を弁済すれば、訴訟移行後に付加金の支払命令が命じられる前提が失われ(281番・282番参照)、結果的に付加金を回避できる可能性があります。

最終更新日:2026年5月10日



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