労働問題278 判決で付加金(労基法114条)の支払が命じられる可能性があるのは、どのような場合ですか。

この記事の要点

付加金(労基法114条)は、解雇予告手当・休業手当・残業代・年次有給休暇取得時の賃金の未払いがある場合に、裁判所が命じることができる制裁的な金銭

未払額と同一額以下の付加金の支払が命じられると、実質的に2倍の支払リスクが生じます

付加金の対象は4種類に限定——①解雇予告手当(労基法20条)②休業手当(労基法26条)③残業代(労基法37条)④年次有給休暇取得時の賃金(労基法39条7項)

①〜④以外の基本給等の賃金については付加金の対象外です

付加金の支払命令は裁判所の裁量——必ず命じられるわけではなく、諸事情を考慮して判断される

未払いが故意・悪質かどうか、訴訟前に一部支払いがあったかどうか等が考慮されます

残業代・解雇予告手当等の適正な支払と、請求を受けた場合の迅速な対応が付加金リスクの軽減につながる

口頭弁論終結前に未払い分を全額支払えば付加金が認められない場合があります

01付加金制度の概要(労基法114条)

 労働基準法114条は、一定の義務に違反した使用者に対して、裁判所が未払金に加えて同一額以下の付加金の支払を命じることができると定めています。付加金は、未払い賃金等に対するペナルティ(制裁)的な性質を持つものであり、労働者が訴訟を提起し、裁判所がその命令を発した場合に支払義務が生じます。

 付加金が命じられると、会社は本来の未払い額に加えてさらに同額以下の付加金を支払うことになるため、実質的に支払総額が最大2倍になるリスがあります。277番で解説した遅延損害金とは別途発生するものですので、残業代請求訴訟においては付加金のリスクも重要な問題となります。

02付加金の対象となる4つの義務違反

 使用者が、次の4つの義務に違反して支払を怠り、労働者から訴訟を提起された場合に、裁判所はこれらの未払金に加え、これと同一額の付加金の支払を命じることができます(労基法114条)。

番号 付加金の対象となる義務 根拠法令
解雇予告手当の未払い 労基法20条
休業手当の未払い 労基法26条
残業代(割増賃金)の未払い 労基法37条
年次有給休暇取得時の賃金の未払い 労基法39条7項

 これらの義務違反による未払いがあった場合、裁判所はその未払金と「同一額」の付加金の支払を命じることができます。ただし、付加金は必ず命じられるわけではなく、裁判所の裁量によります(後述04節参照)。

03付加金の対象とならない賃金——基本給等は対象外

 ①〜④以外の基本給等の賃金について付加金の支払を命じられることはありません。

 例えば、基本給・通勤手当・家族手当・各種賞与等が未払いとなった場合は、付加金の対象外です。これらの賃金未払いについては、通常の賃金請求権に基づく支払義務は生じますが、付加金という形での制裁的な上乗せ支払を命じられることはありません。

付加金の対象・対象外の整理
付加金の対象(上乗せリスクあり):解雇予告手当・休業手当・残業代(割増賃金)・年次有給休暇取得時の賃金の未払い
付加金の対象外(上乗せリスクなし):基本給・通勤手当・家族手当・住宅手当・賞与等、①〜④以外の賃金の未払い

04付加金支払命令の裁量性——必ず命じられるわけではない

 労基法114条は「裁判所は……付加金の支払を命じることができる」と規定しており、付加金は裁判所の裁量によって命じられるものです。①〜④の義務違反があっても、必ず付加金が命じられるとは限りません。

 裁判所が付加金の支払を命じるかどうか、命じるとしてどの程度の額にするかを判断する際には、一般的に以下のような事情が考慮されます。

付加金を増やす方向の事情 付加金を減らす方向の事情
未払いが故意・悪質である 未払いが法令の誤解等によるものであった
長期間にわたって未払いが継続していた 訴訟提起前または口頭弁論終結前に一部または全部を支払った
未払いの金額が多額である 未払い額が比較的少額である

 特に重要なのは、口頭弁論終結前に未払い分を全額支払った場合、付加金が認められないとする裁判例があります。会社側としては、残業代請求を受けた場合、適切な時期に未払い分を支払うことで付加金のリスクを軽減できる可能性があります。

05会社側としての対応——付加金リスクを最小化するために

事前の予防——残業代等の適正支払

 付加金リスクを最小化するための最善の対策は、残業代(割増賃金)・解雇予告手当・休業手当・年次有給休暇取得時の賃金を日頃から適正に支払うことです。未払い状態を生じさせないことが、付加金リスクの根本的な回避策です。

請求を受けた場合の迅速な対応

 残業代等の請求を受けた場合、口頭弁論終結前に未払い分を支払うことで付加金が命じられない可能性があります。ただし、請求額の全部が正当かどうかの検討も重要ですので、請求を受けた段階で速やかに使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。

付加金と遅延損害金の区別

 277番・276番で解説した遅延損害金(消滅時効期間3年分の残業代に対する年5〜6%または年14.6%の遅延損害金)と、付加金(未払額と同一額以下)は別個の制度です。残業代請求訴訟においては、元本・遅延損害金・付加金という三つの要素を整理して対応することが重要です。

06まとめ

 付加金(労基法114条)は、使用者が①解雇予告手当(労基法20条)②休業手当(労基法26条)③残業代(割増賃金)(労基法37条)④年次有給休暇取得時の賃金(労基法39条7項)のいずれかの支払を怠り、労働者から訴訟を提起された場合に、裁判所がこれらの未払金と同一額以下の支払を命じることができる制度です。①〜④以外の基本給等の賃金については付加金の対象外です。

 付加金の支払命令は裁判所の裁量によるものであり、必ず命じられるわけではありませんが、命じられると未払い額が最大2倍になるリスがあります。残業代等の適正な支払と、請求を受けた場合の迅速な対応が付加金リスクの軽減につながります。対応については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。残業代請求への対応・付加金リスクの軽減・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 付加金(労基法114条)とはどのような制度ですか。

A. 一定の義務(解雇予告手当・休業手当・残業代・年次有給休暇取得時の賃金)に違反した使用者に対して、裁判所が未払金に加えて同一額以下の付加金の支払を命じることができる制度です(労基法114条)。付加金が命じられると、実質的に支払総額が最大2倍になるリスがあります。

Q2. 残業代の未払いがある場合、付加金は必ず命じられますか。

A. 必ずしも命じられるわけではありません。付加金の支払命令は裁判所の裁量によるものです。未払いの故意・悪質性、継続期間、金額等の事情が考慮されます。口頭弁論終結前に未払い分を全額支払った場合は付加金が命じられない場合があります。

Q3. 基本給の未払いがある場合、付加金は命じられますか。

A. 命じられません。付加金の対象は①解雇予告手当(労基法20条)②休業手当(労基法26条)③残業代(労基法37条)④年次有給休暇取得時の賃金(労基法39条7項)の4種類に限定されています。基本給・通勤手当・家族手当・賞与等は付加金の対象外です。

Q4. 付加金のリスクを最小化するにはどうすればよいですか。

A. 最善の対策は、残業代・解雇予告手当・休業手当・年次有給休暇取得時の賃金を日頃から適正に支払い、未払い状態を生じさせないことです。請求を受けた場合は、口頭弁論終結前に未払い分を支払うことで付加金が命じられない可能性があります。対応については、速やかに使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。

最終更新日:2026年5月10日


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