労働問題284 過去2年分の未払残業代(割増賃金)を支払う場合、現実に支払った日の属する月の給与所得として源泉所得税の計算をすればいいのか、本来支給すべきであった給料日の属するそれぞれの年分の給与所得として処理すればいいのか、教えて下さい。


この記事の要点

過去2年分の未払残業代を支払った場合、「本来支給すべきであった給料日」の属するそれぞれの年分の給与所得として処理する

国税庁「No.2509 給与所得の収入金額の収入すべき時期」に基づく処理です

現実に支払った日の属する月の給与所得として処理すると、200万〜300万円の一括支払では源泉所得税が高額になるリスがある

一括支払いの場合、その月の給与に上乗せして課税されることで、累進税率の影響を大きく受けます

支払日基準で処理した場合、確定申告で還付を受ければ最終的な手取額に大きな差はないが、労働者との間でトラブルになり紛争が蒸し返されるリスがある

最初から正確な処理を行うことが重要です

源泉所得税の具体的な計算方法については、使用者側弁護士・会社側弁護士だけでなく税理士にも相談することが重要

税務上の処理の誤りは、追加のトラブルにつながります

01未払残業代の源泉所得税処理の原則——本来の給料日基準

 過去2年分の未払残業代(割増賃金)を支払った場合、本来の給料日に支払っておくべきだった残業代(割増賃金)が一括して支払われたことになりますので、本来支給すべきであった給料日の属するそれぞれの年分の給与所得となります。

 つまり、現実に支払った日(例:2026年3月)を基準にするのではなく、本来支払われるべきだった各月の給料日(例:2024年4月分・2024年5月分・…・2026年2月分)ごとに分けて、それぞれの月に支払われた給与所得として源泉所得税を計算する必要があります。

2通りの処理方法の比較
正しい処理(本来の給料日基準):
本来支給すべきであった給料日(各月)の属するそれぞれの年分の給与所得として処理する
→ 各月の通常給与に対応する税率で源泉所得税を計算するため、過大な源泉徴収になりにくい

誤った処理(支払日基準):
現実に支払った日の属する月の給与所得として一括処理する
→ その月の給与に200〜300万円が上乗せされた形で課税されるため、累進税率の影響で源泉所得税が高額になりやすい

02国税庁「No.2509 給与所得の収入金額の収入すべき時期」

 この処理は、国税庁ウェブサイトの「No.2509 給与所得の収入金額の収入すべき時期」に基づくものです。

 同ページでは、給与所得に係る収入すべき時期(収入の帰属年度)について規定されており、未払給与(未払残業代を含む)については、本来支払われるべき日が収入の帰属時期となることが明確にされています。この考え方に基づき、過去の未払残業代を一括して支払う場合も、各月の本来の給料日を基準として給与所得の帰属年度を判断することになります。

 具体的な処理方法の詳細については、国税庁ウェブサイト(No.2509)を直接ご確認いただくか、税理士にご相談ください。

03支払日基準で処理した場合のリスク

 現実に支払った日の属する月の給与所得として源泉所得税の計算をしてしまうと、支払われる未払残業代(割増賃金)額が200万円とか300万円といった金額となる場合、源泉所得税の金額が高額となってしまいます。

支払日基準で処理することの2つのリスク

①源泉所得税が高額になるリスク
支払日基準で処理すると、その月の通常給与(例:月30万円)に未払残業代(例:300万円)が加算された形(合計330万円)で課税されます。所得税は累進課税であるため、一括支払いにより適用される税率が上がり、各月に分けて処理した場合と比べて源泉所得税が高額になります。

②労働者との間でトラブルになり紛争が蒸し返されるリスク
確定申告して還付を受ければ、最終的な手取額に大きな差はないともいえます。しかし、一時的に手取額が減少した労働者から「なぜこんなに税金が引かれているのか」という苦情が生じ、既に解決したはずの残業代紛争が蒸し返される可能性があります。最初から正しい処理(本来の給料日基準)を行うことが重要です。

04実務上の注意点——税理士への相談の重要性

 未払残業代の源泉所得税処理は、税務上の問題であるため、使用者側弁護士・会社側弁護士だけでなく、税理士にも相談することが重要です。

各月ごとの計算の複雑さ

 本来の給料日基準で処理する場合、2年分(24か月分)の未払残業代を月ごとに分けて、各月の通常給与に加算した上でそれぞれの月の源泉所得税を計算し直す必要があります。これは相当な手間がかかる作業であり、計算の誤りが生じやすいため、税理士に依頼することをお勧めします。

弁済の書面化

 281番・282番・283番でも解説したとおり、未払残業代を弁済する際は、弁済の事実を証明できる書面(振込記録・領収書・弁済確認書等)を残しておくことが重要です。源泉徴収後の金額を振り込んだ場合、その源泉徴収の計算根拠(各月の未払残業代額・適用税率・源泉税額)を明確に記録しておくことで、後の紛争防止に役立ちます。

既に退職している社員への支払の場合

 既に退職している社員に未払残業代を支払う場合は、源泉徴収義務が生じる一方で、給与支払報告書の提出先(市区町村)への対応も必要となる場合があります。この点についても、税理士に確認することをお勧めします。

05まとめ

 過去2年分の未払残業代(割増賃金)を支払った場合、本来支給すべきであった給料日の属するそれぞれの年分の給与所得として源泉所得税を処理することが必要です(国税庁「No.2509 給与所得の収入金額の収入すべき時期」参照)。現実に支払った日の属する月の給与所得として一括処理してしまうと、源泉所得税が高額になり、労働者との間でトラブルになって紛争が蒸し返されることがありますので、注意が必要です。

 未払残業代の支払に際しての源泉所得税の処理については、使用者側弁護士・会社側弁護士とともに税理士にもご相談ください。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。残業代トラブルへの対応・和解・弁済に際しての源泉所得税処理でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 未払残業代を支払う際の源泉所得税は、いつの年分として処理すればよいですか。

A. 本来支給すべきであった給料日の属するそれぞれの年分の給与所得として処理します。現実に支払った日(支払日)の属する月の給与所得として一括処理するのは誤りです。国税庁「No.2509 給与所得の収入金額の収入すべき時期」をご確認ください。

Q2. 支払日基準で源泉所得税を処理するとどのような問題がありますか。

A. 主に2つの問題があります。①未払残業代が200〜300万円の場合、その月の通常給与との合算で累進税率の影響を受け、源泉所得税が高額になります。②一時的に手取額が減少した労働者から苦情が生じ、既に解決したはずの残業代紛争が蒸し返されるリスがあります。確定申告で還付を受ければ最終的な手取額に大きな差はないですが、トラブルを避けるために最初から正しい処理を行うことが重要です。

Q3. 本来の給料日基準で処理する場合、2年分(24か月分)を月ごとに計算し直す必要がありますか。

A. はい。本来の給料日基準で処理するためには、2年分(24か月分)の未払残業代を月ごとに分けて、各月の通常給与に加算した上でそれぞれの月の源泉所得税を計算し直す必要があります。これは相当な手間がかかる作業ですので、税理士に依頼することをお勧めします。

Q4. 未払残業代の支払時に税理士に相談する必要はありますか。

A. 相談することを強くお勧めします。源泉所得税の正しい処理(本来の給料日基準)は計算が複雑であり、誤った処理は労働者との間で追加のトラブルを招くリスがあります。また、既に退職している社員への支払の場合は、給与支払報告書の対応等も必要になる場合があります。使用者側弁護士・会社側弁護士とともに税理士にもご相談ください。

最終更新日:2026年5月10日



労働問題FAQカテゴリ


Return to Top ▲Return to Top ▲