労働問題160 精神疾患発症が業務起因の労災かどうかの判断方法【会社側弁護士が解説】
精神疾患を発症した社員が出た場合、その発症原因が業務に起因するものかどうかを判断することは、会社側にとって非常に重要な問題です。業務起因性が認められた場合には、休職命令の無効・退職の無効・損害賠償責任という重大なリスクが生じます。
本ページでは、精神疾患の業務起因性(労災か否か)をどのように判断するかについて、会社側・使用者側専門の弁護士が解説します。
01業務起因性の判断基準となる心理的負荷認定基準
精神疾患発症の原因が業務に起因する労災(業務上疾病)かどうかは、行政レベルでは厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準」(基発1226第1号・平成23年12月26日)を参考に判断します。企業レベルでの対応においても、基本的には同認定基準を参考にして労災に当たるかどうかを判断することになります。
同認定基準では、対象疾病の発病の有無・発病前おおむね6か月間に業務による強い心理的負荷が認められるか・業務以外の心理的負荷及び個体側要因が発病の原因として認められるか、という3つの要件を総合的に審査します。
02月100時間超の時間外労働がある場合は緊急対応が必要です
月100時間を超える恒常的な時間外労働がなされている場合のように、労災である可能性が高い事案については、直ちに労災であることを前提とした対応を取るとともに、労災申請に協力していくことになります。この場合、私傷病を理由とした休職命令は休職事由を欠き無効となる可能性があります。
このような状況では、休職・退職の手続を進める前に弁護士に相談し、業務起因性の評価と今後の対応方針を確認することが急務です。
03労災かどうか明確でない場合の対応方針
労災であるとは直ちにいえない事案(業務起因性が微妙な場合)においては、労災申請を促して労働基準監督署の判断を仰ぎ、審査の結果、労災として認められれば労災として扱い、認められなければ私傷病として扱うこととすれば足りると考えられます。
会社側が労災申請に非協力的な態度を取ることは、後に「労災隠し」として問題になるリスクがあります。社員から労災申請の申出があった場合は、協力義務を果たすことが重要です。
04認定基準における強い心理的負荷の主な例
認定基準において「強い心理的負荷」とされる具体的な出来事の例としては、恒常的長時間労働(月80〜100時間超の残業)・上司等によるひどい嫌がらせ・いじめ・暴行を受けたこと・会社でひどい失敗や大きな事故を起こしたこと・退職勧奨を受けたこと・強度の身体的負荷を受けた作業・業務に従事したこと、などがあります。
精神疾患の業務起因性の評価・労災申請への対応・安全配慮義務違反リスクの把握については、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。使用者側専門の弁護士として、会社側の視点から実務的なアドバイスを提供しています。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。精神疾患の業務起因性の判断でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 月何時間の残業があれば業務起因性が認められやすいですか。
A. 認定基準では、発病前の概ね6か月間を通じて、1か月当たり100時間以上の時間外労働が認められる場合は「強い心理的負荷」として評価されます。また、80時間以上の場合も「強い」と評価されることがあります。ただし、時間外労働の時間数だけでなく、業務の質・精神的負荷・職場環境なども総合的に考慮されます。
Q2. 社員が労災申請を希望した場合、会社はどのように対応すべきですか。
A. 社員が労災申請を希望した場合、会社は申請書への事業主証明欄への記入など、必要な協力を行う義務があります。正当な理由なく協力を拒否した場合、「労災隠し」として問題になるリスクがあります。また、会社の主張したい事実がある場合は、申請書の余白や別途の意見書で記載することが可能です。具体的な対応については弁護士に相談することをお勧めします。
Q3. 業務起因性が認められた場合の会社の損害賠償責任はどの程度ですか。
A. 精神疾患発症に対する損害賠償は、労働者の精神的苦痛・治療費・休業損害・後遺障害による逸失利益など多岐にわたります。労災保険から支給されない損害(慰謝料等)については会社が直接賠償責任を負います。損害額は個別の事情によって大きく異なりますので、弁護士に相談して具体的なリスク評価を行うことをお勧めします。
関連ページ
最終更新日:2026年5月10日