労働問題161 労災保険給付がなされれば損害賠償請求を免れるか【会社側弁護士が解説】
「労災保険が支給されれば、会社は損害賠償を免れる」と考えている経営者の方がいますが、これは大きな誤解です。労災保険給付がなされても、使用者は依然として民事損害賠償請求を受けるリスクがあります。むしろ労災認定は、安全配慮義務違反の証拠として機能する場合があります。
本ページでは、労災保険給付と民事損害賠償の関係について、会社側・使用者側専門の弁護士が解説します。
01労災補償と民事損害賠償の関係
労働基準法75条以下は、業務上負傷・疾病に対する災害補償について規定しています。この補償責任は使用者の無過失責任であり、過失相殺はなされません。しかし、補償額は原則として平均賃金に対する定率で決定されており、実際の損害全額を填補するものではありません。
労災保険給付がなされた場合、使用者は同一の事由については、その価額の限度において民法の損害賠償の責を免れることになりますが(労働基準法84条2項類推)、これはあくまで「労災保険給付と同一の種類の損害」についてのみです。
02労災保険給付でカバーされない損害があります
労災保険給付が対象としていない損害として、特に重要なのは慰謝料と休業損害・逸失利益の差額部分です。
まず、労災保険給付には慰謝料の補償がありません。精神的苦痛・後遺障害による精神的損害などの慰謝料は、労災保険給付とは別に損害賠償請求の対象となります。次に、休業補償給付は給付基礎日額の60%(特別支給金を含めると80%)が支給されますが、実際の収入の100%ではありません。この差額部分も損害賠償請求の対象となります。
したがって、労災保険給付がなされたとしても、慰謝料や休業損害・逸失利益の差額について、会社に対して民事損害賠償請求がなされるリスクは残ります。
03労災認定は安全配慮義務違反の証拠になります
重要な点として、業務起因性が肯定されて労災保険給付が行われた場合は、むしろ使用者が安全配慮義務違反の責任を問われて損害賠償義務を負担する可能性が高くなります。労災保険法に基づく保険給付が行われるためには業務と疾病等との間に相当因果関係が必要とされており、労災認定は実質的に業務起因性(安全配慮義務違反との因果関係)の証拠として機能するからです。
「労災保険で解決済み」と考えることは危険です。労災認定はむしろ安全配慮義務違反(労働契約法5条)・不法行為(民法709条・715条)に基づく損害賠償請求のリスクを高める方向に作用します。精神疾患社員に業務起因性の可能性がある場合は直ちに弁護士に相談することが必要です。
04損害賠償リスクへの予防的対応が重要です
精神疾患の業務起因性リスクを予防するためには、長時間労働の管理・ハラスメント防止体制の整備・安全配慮義務の履行(ストレスチェックの実施・相談窓口の設置等)が必要です。問題が生じた後ではなく、問題が生じる前の段階で対策を講じることが、会社にとって最も経済的なリスク管理策です。
労災保険給付と損害賠償の関係・安全配慮義務違反リスクへの対応については、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。使用者側専門の弁護士として、実務的なアドバイスを提供しています。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。労災保険給付と損害賠償・安全配慮義務違反リスクでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 労災保険給付がなされれば会社は損害賠償を支払う必要はありませんか。
A. 労災保険給付がなされても、慰謝料や休業損害・逸失利益の差額部分については損害賠償請求を受けるリスクが残ります。労災保険給付は損害の一部を填補するものにすぎません。また、労災認定は安全配慮義務違反の証拠として機能する場合があるため、「労災保険で解決済み」と考えることは危険です。
Q2. 慰謝料はどのくらいの金額になりますか。
A. 精神疾患の発症・悪化に対する慰謝料の金額は、疾患の程度・治療期間・後遺障害の有無・会社側の過失の程度・社員側の事情など、多くの要素によって個別に判断されます。重大な事案では高額の慰謝料が認められることもあります。具体的な金額は弁護士に相談の上、個別事情を踏まえた評価を行うことをお勧めします。
Q3. 労災が認定された場合、損害賠償額はどのように計算されますか。
A. 損害賠償額は、治療費・休業損害・後遺障害逸失利益・慰謝料の合計から、労災保険給付済みの金額を控除した残額となります。ただし、被災社員側に過失がある場合(過失相殺)や、素因(個人的な脆弱性)がある場合(素因減額)には、損害額が減額されることがあります。具体的な計算については弁護士に相談することをお勧めします。
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最終更新日:2026年5月10日