労働問題21 懲戒解雇事由に該当する事実が存在する場合であっても、懲戒解雇せずに普通解雇することはできますか?
目次
懲戒解雇事由があっても、普通解雇の有効要件を満たせば普通解雇を選択できます。ただし退職金の取り扱いや実体的要件の充足には注意が必要です。
懲戒解雇事由に該当する事実がある場合でも、普通解雇の有効要件を満たすのであれば、懲戒解雇せずに普通解雇することは可能です。最高裁判例(高知放送事件)もこれを明確に認めています。ただし、普通解雇を選択する場合でも普通解雇としての有効要件は別途必要であり、退職金の取り扱いにも注意が必要です。
■ 懲戒解雇事由があっても普通解雇は選択できる(最高裁判例)
高知放送事件(最高裁昭和52年1月31日)は、本人の将来を考慮して懲戒解雇に処することなく普通解雇を選択することを許容しています。
■ 普通解雇を選択しても普通解雇の有効要件は別途必要
懲戒解雇事由への該当は普通解雇の客観的合理的理由の根拠にはなりますが、解雇権濫用法理(労働契約法16条)による審査は別途受けます。
■ 普通解雇を選択すると退職金不支給・減額ができなくなる場合がある
懲戒解雇であれば退職金を不支給・減額できたケースでも、普通解雇を選択することで全額支払いが必要になる場合があります。解雇形式の選択前に確認が必要です。
1. 懲戒解雇事由があっても普通解雇は選択できる
最高裁判例が認めた原則:高知放送事件
懲戒解雇事由に該当する事実がある場合でも、普通解雇を選択することは原則として可能です。最高裁判所は、高知放送事件(昭和52年1月31日判決)において次のように判示しています。
高知放送事件(最高裁昭和52年1月31日判決)
「就業規則所定の懲戒事由にあたる事実がある場合において、本人の再就職など将来を考慮して懲戒解雇に処することなく、普通解雇に処することは、それがたとえ懲戒の目的を有するとしても、必ずしも許されないわけではない。」
この判決は、使用者が懲戒解雇事由に該当する事実を把握しながらも、あえて懲戒解雇という制裁手段を選ばず、普通解雇という形式を取ることを認めています。本人の将来(再就職への影響など)を考慮した上での普通解雇選択は、法的に許容されるということです。
懲戒解雇と普通解雇の違い
懲戒解雇と普通解雇は、性質の異なる別個の制度です。懲戒解雇は、就業規則に定める懲戒事由に基づき、使用者が労働者に対して制裁として行う解雇です。これに対して普通解雇は、労働契約の解消を目的として行う解雇であり、懲戒的な性格を必ずしも持ちません。
両者は有効要件も異なります。懲戒解雇では、就業規則への懲戒事由の規定・懲戒手続の遵守・懲戒権濫用の有無(最も重い処分としての相当性)などが問われます。普通解雇では、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性(解雇権濫用法理・労働契約法16条)が問われます。
2. 普通解雇を選択する場合の注意点
普通解雇の有効要件は別途必要
懲戒解雇事由に該当する事実があっても普通解雇を選択できるとはいえ、普通解雇としての有効要件を満たさなければなりません。懲戒解雇事由に該当するという事実は、普通解雇の客観的合理的理由の根拠にはなり得ますが、それだけで普通解雇の有効性が自動的に認められるわけではありません。
解雇権濫用法理(労働契約法16条)に基づき、①その解雇に客観的に合理的な理由があるか、②社会通念上相当な処分といえるか、という審査を受けます。例えば、比較的軽微な懲戒事由に該当するにすぎない場合、それを理由とした普通解雇が社会通念上相当と認められないケースもあります。
退職金の取り扱いに注意する
懲戒解雇と普通解雇では、退職金の取り扱いが大きく異なることがあります。多くの就業規則・退職金規程では、懲戒解雇の場合に退職金の全部または一部を不支給・減額できると定めています。一方、普通解雇の場合は、原則として退職金が支払われます。
懲戒解雇事由に該当する事実があるにもかかわらず普通解雇を選択した場合、退職金の不支給・減額ができなくなる可能性があります。この点を踏まえた上で、どちらの解雇形式を選択するかを判断することが重要です。
✕ よくある経営者の誤解
「懲戒解雇事由に該当する事実があれば、普通解雇は自動的に有効になる」→ 誤りです。
懲戒解雇事由への該当は普通解雇の客観的合理的理由の根拠にはなりますが、解雇権濫用法理(労働契約法16条)による審査は別途受けます。軽微な事由の場合、普通解雇が社会通念上相当と認められないケースもあります。
「普通解雇を選んでも、懲戒解雇事由がある以上、退職金は払わなくてよい」→ 誤りです。
退職金の不支給・減額は、就業規則・退職金規程に懲戒解雇時の規定がある場合に「懲戒解雇」を選択したときにのみ適用できます。普通解雇を選択した場合は、原則として退職金を支払う必要があります。
懲戒解雇と普通解雇のどちらを選択すべきか、退職金の取り扱いも含めた総合的な判断については、早めのご相談をお勧めします。解雇形式の選択を誤ると後のトラブルにつながります。→ 経営労働相談はこちら
3. 普通解雇を選択する場面:実務上の判断基準
本人の将来を考慮した普通解雇の選択
高知放送事件判決が示すように、「本人の再就職など将来を考慮して」普通解雇を選択することは法的に認められています。懲戒解雇は社会的な制裁としての意味合いが強く、本人の転職・再就職に深刻な影響を与えます。一方、普通解雇はそれほど強いスティグマを持たない場合があります。非違行為の内容・程度・本人の勤続年数・今後の更生可能性などを総合的に考慮した上で、あえて普通解雇を選択するという判断は、使用者の合理的な裁量の範囲内と評価されます。
懲戒解雇の有効性に不安がある場合の選択肢として
懲戒解雇を選択したいが、懲戒解雇の要件を完全には満たしていない可能性がある場合に、普通解雇を選択するという判断もあります。懲戒解雇は普通解雇より厳格な要件が求められる場面があるため、懲戒解雇の有効性に不安がある場合には、普通解雇としての有効要件を満たす形での解雇を検討することが実務的には有用です。ただしこの判断は、個別の事実関係や就業規則の内容によって大きく変わります。解雇の方式を選択する前に、必ず会社側の労働問題に精通した弁護士に相談することをお勧めします。
⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)
懲戒解雇と普通解雇の選択をめぐるご相談でよく見られるのは、次のようなパターンです。
・「懲戒解雇事由があるから退職金を払わなくていいと思い普通解雇したが、後から退職金の全額請求を受けた」
・「懲戒解雇の有効性に自信がなかったため普通解雇を選んだが、普通解雇の有効要件も十分に検討しておらず、結果として解雇無効と判断された」
いずれも、解雇形式の選択前に弁護士への相談があれば防げたケースです。解雇を検討する段階での早期相談をお勧めします。
4. まとめ
懲戒解雇事由に該当する事実がある場合でも、普通解雇の有効要件を満たすのであれば、懲戒解雇せずに普通解雇することは可能です。最高裁判例(高知放送事件)もこれを明確に認めています。ただし普通解雇を選択する場合でも、普通解雇としての有効要件(客観的合理的理由・社会通念上の相当性)は別途必要であり、退職金の取り扱いにも注意が必要です。どちらの解雇形式を選択するかは個別の事情によって異なるため、解雇を検討している場合は早めに弁護士にご相談ください。
最終更新日 2026/04/05