労働問題20 就業規則に規定する普通解雇事由以外の理由に基づき、普通解雇することはできますか?
目次
就業規則の解雇事由以外での普通解雇可否は学説上未決着です。論争回避のため包括条項を設けることが実務上の最善策ですが、解雇権濫用法理の審査は常に受けます。
就業規則に規定された普通解雇事由以外の理由で解雇できるかは、学説・判例上の論争に決着がついていません。リスク回避のため包括条項を設けることが重要ですが、包括条項があっても解雇権濫用法理(労働契約法16条)の審査を受けることに変わりはありません。
■ 就業規則の解雇事由以外での普通解雇可否は学説上未決着
「解雇事由に該当しなければ解雇できない」とする限定説と、「規定外の事由でも解雇できる」とする非限定説が対立しており、確定的な結論が出ていません。
■ 実務上の対策:就業規則に包括条項を設ける
「その他、前各号に準じる事由があるとき」といった包括条項を設けることで、個別に列挙されていない事由でも解雇の法的根拠として援用できる可能性が高まります。
■ 包括条項があっても解雇権濫用法理の審査は受ける
包括条項は法的根拠の確保手段にすぎません。「前各号に準じる事由」として認められるには個別事由と同程度の重大性が必要であり、解雇権濫用法理による審査は常に受けます。
1. 就業規則の解雇事由と普通解雇の関係:学説上の対立
限定説と非限定説:二つの見解が対立している
就業規則には、普通解雇の事由として「能力不足」「勤怠不良」「業務命令違反」などが列挙されているのが一般的です。では、就業規則に明文化されていない事由が生じた場合、普通解雇を行うことはできるのでしょうか。
この点については、現在も学説・判例上の論争が続いており、確立した答えはありません。大きく分けると次の2つの見解があります。
限定説(就業規則の解雇事由に基づいてのみ解雇できるとする見解)は、就業規則が使用者と労働者の間の契約内容を定めるものである以上、解雇事由の列挙は使用者の解雇権を制約する趣旨を持つと解釈します。就業規則に明記されていない事由に基づく解雇は、契約の根拠を欠くと考えます。
非限定説(就業規則の規定外の事由でも解雇できるとする見解)は、就業規則の解雇事由はあくまで例示列挙であり、解雇権濫用法理(労働契約法16条)の要件を満たせば規定外の事由に基づいても解雇できると解釈します。どちらの見解に立つかによって、就業規則の解雇事由に該当しない事案での解雇の有効性判断が変わり得ます。
解雇権濫用法理は解雇事由の有無にかかわらず適用される
いずれの見解に立つ場合でも、就業規則の解雇事由に該当するかどうかにかかわらず、労働契約法16条の解雇権濫用法理による審査は受けます。つまり、①客観的に合理的な理由があること、②社会通念上相当であること、という2つの要件を満たさない解雇は、就業規則の解雇事由に該当する場合であっても無効となります。解雇事由への該当性と解雇権濫用法理の審査は、別の問題として理解しておく必要があります。
2. 実務上の対策:就業規則に包括条項を設ける
包括条項の必要性と記載例
学説上の論争に巻き込まれないための最も有効な実務上の対策は、就業規則の普通解雇事由として包括条項を設けることです。具体的には、個別の解雇事由を列挙した末尾に、次のような条項を加えます。
包括条項の記載例
「その他、前各号に準じる事由があるとき。」
この包括条項を設けることで、就業規則に個別列挙されていない事情が生じた場合であっても、「前各号に準じる事由」として解雇の法的根拠として援用できる可能性が高まります。実務では、すべてのケースを事前に想定して個別条項として列挙することは困難です。想定外の問題行動や業績不振のパターンが生じた際に、包括条項は「安全弁」として機能します。弁護士として会社側の解雇事案に関わる中で、包括条項がないために解雇事由の根拠が争われ、交渉や訴訟で不利な立場に置かれるケースを多く経験しています。
包括条項があっても解雇権濫用法理の審査は受ける
重要な注意点として、包括条項があれば自由に解雇できるわけではありません。包括条項に基づく解雇であっても、労働契約法16条の解雇権濫用法理による審査を受けます。「前各号に準じる事由」として認められるためには、個別条項に列挙された解雇事由と同程度の重大性・具体性が必要です。軽微な問題行動や抽象的な理由では「前各号に準じる事由」とは認められません。包括条項はあくまで法的根拠の確保手段であり、解雇の実体的要件を免除するものではありません。
✕ よくある経営者の誤解
「就業規則の解雇事由に該当すれば必ず解雇できる」→ 誤りです。
就業規則の解雇事由に該当していても、解雇権濫用法理(労働契約法16条)の要件を満たさない場合は解雇が無効となります。解雇事由への該当は解雇有効の必要条件ではあっても、十分条件ではありません。
「包括条項があれば、どんな理由でも解雇できる」→ 誤りです。
包括条項に基づく解雇も解雇権濫用法理の審査を受けます。「前各号に準じる事由」として認められるには、個別事由と同程度の重大性・具体性が必要です。
就業規則の解雇事由の記載内容・包括条項の書き方について、早めのご相談をお勧めします。具体的な解雇事案がある場合は、事前に解雇の有効性を確認することが重要です。→ 経営労働相談はこちら
3. 就業規則の解雇事由を整備する際の実務上のポイント
個別事由の具体的な列挙と包括条項の組み合わせが基本
就業規則の普通解雇事由の整備にあたっては、想定されるケースをできる限り具体的に列挙した上で、末尾に包括条項を置く構成が望ましいといえます。能力不足・勤怠不良(欠勤・遅刻の繰り返し)・業務命令違反・職場環境を害する行為・健康上の理由による就労不能など、自社の業種・規模・実態に即した解雇事由を具体的に規定することで、実際の解雇場面で「この条項に該当する」という主張がしやすくなります。個別事由の列挙が具体的であればあるほど、包括条項の「前各号に準じる事由」の解釈の幅も広がります。
就業規則の整備は問題が起きる前に行う
就業規則の整備は、実際に解雇を検討する前に行っておくことが重要です。すでに問題が生じた後に就業規則を整備しても、その後の解雇に対して都合よく適用したものと評価されるリスクがあります。平常時から自社の就業規則の解雇事由を点検し、包括条項の有無・個別事由の具体性を確認しておくことをお勧めします。
⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)
就業規則の解雇事由をめぐる問題でよく見られるのは、次のようなパターンです。
・「就業規則の解雇事由に包括条項がなく、問題社員を解雇しようとしたところ、列挙事由のどれにも当てはまらないと主張されて交渉が難航した」
・「問題が生じてから急いで就業規則に解雇事由を追加したが、既存の問題に遡って適用しようとしたところ、裁判所に否定的に評価された」
いずれも、平常時からの就業規則整備と弁護士への事前相談によって防ぐことができた問題です。
4. まとめ
就業規則に規定する普通解雇事由以外の理由に基づく普通解雇の可否は、学説上の論争に決着がついていません。この論争に巻き込まれないための実務上の最善策は、就業規則の普通解雇事由の末尾に包括条項を設けることです。ただし包括条項があっても解雇権濫用法理の審査は受けますので、個別の解雇事案については事前に弁護士に相談することをお勧めします。就業規則の整備や解雇の有効性確認についてお困りの会社経営者の方は、ぜひ一度ご相談ください。
最終更新日 2026/04/05