労働問題143 精神疾患が疑われる社員が出社しても正常な労務提供ができない場合の会社側対応【会社側弁護士が解説】

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 精神疾患の発症が強く疑われる社員が出社してきたものの、集中力の著しい低下・意思疎通の困難・危険な業務での判断力喪失など、債務の本旨に従った労務提供ができない状態であることは、中小企業の経営者にとって非常に対処が難しい場面です。

 このような場合に、「せっかく出社してくれたのだから」と漫然と就労を続けさせることは、安全配慮義務違反のリスクを招くだけでなく、その後の休職・解雇手続においても会社側の法的立場を著しく不利にします。適切な知識と準備のある会社側弁護士に相談しながら、毅然とした対応を取ることが重要です。

 本ページでは、精神疾患が疑われる社員が出社しても正常な労務提供ができない場合に、会社としてどのように対応すべきか、実務上の注意点を会社側弁護士が解説します。

01就労拒絶・帰宅命令が原則です

 精神疾患の発症が強く疑われる社員が出社してきたものの、集中力の著しい低下・意思疎通の困難・危険な業務での判断力喪失など、債務の本旨に従った労務提供ができない状態にある場合は、就労を拒絶して帰宅させ、欠勤扱い(無給)にするのが原則です。

 この対応が必要な理由は2点あります。第一に、就労不能状態のまま無理に働かせることで症状が悪化するリスクがあり、安全配慮義務(労働契約法5条)違反となりかねません。第二に、就労不能状態での就労を認めることは、その後の休職・解雇手続において「会社が就労を認めていた」と評価されることにつながり、会社側の法的立場を不利にする可能性があります。

 経営者の中には、「本人が働きたいと言っているのに帰宅させることはできない」と感じる方もいらっしゃいますが、就労不能状態での就労を許容することは、長期的に見て会社にとっても社員にとっても得策ではありません。帰宅指示は、使用者の正当な権限の行使であり、適切な根拠と記録のもとに実施することが求められます。

02帰宅指示の際は必ず書面で記録を残してください

 帰宅を指示する場合は、口頭だけで済ませることなく、必ず書面で記録を残してください。「〇年〇月〇日、〇〇さんに対し、本日の就労が困難と判断したため帰宅を指示した。理由:〇〇〇〇。本人の応答:〇〇〇〇」のように、日時・理由・本人の反応を具体的に記録します。

 後に「突然帰宅させられた」「不当な扱いを受けた」と争われた際、この記録が重要な証拠となります。できれば帰宅指示書を作成し、社員本人にも交付しておくことが望ましいです。また、帰宅指示の場面に複数の管理職が立ち会い、記録に署名しておくことも有効な対応です。

 就業規則に「就業能力を喪失した場合は帰宅を命じることができる」旨の規定があれば、帰宅指示の法的根拠がより明確になります。就業規則の整備についても、早い段階で会社側弁護士に相談することをお勧めします。

03欠勤扱いと無給の根拠を明確に説明してください

 就労拒絶による帰宅は、会社都合による休業ではなく、社員側の就労不能に基づく欠勤です。したがって、ノーワーク・ノーペイの原則(民法624条・536条2項)により、賃金の支払義務はありません。

 帰宅を指示する際は、「本日は就労できる状態にないと判断しますので、欠勤扱いとなります。賃金は支払われません」と明確に伝え、賃金控除の根拠を明示しておくことが重要です。あとから「会社が帰らせたのだから賃金を払うべきだ」と主張された場合に備え、この説明の内容も記録に残しておいてください。

 なお、社員が「会社都合による帰宅だから休業手当が発生する」と主張してくることがありますが、社員側の就労不能に基づく帰宅指示には休業手当(労働基準法26条)の支払義務は生じません。この点についても、就業規則や帰宅指示書において明確に定めておくことが望ましいです。

04帰宅指示と同時に医療機関受診を勧めてください

 帰宅を指示する際は、「体調のことが心配ですので、一度ゆっくり休んで、できれば医療機関(心療内科・精神科)を受診してみてください」と声をかけることが重要です。受診勧奨の事実も記録に残します。

 受診勧奨を行うことには、2つの重要な意義があります。第一に、社員の健康状態の把握に努めたという事実が、安全配慮義務を果たしていることの証拠になります。第二に、医師による診断書を取得できれば、その後の休職命令や就業制限の根拠を明確にすることができます。

 精神疾患を否定している社員に対しても、「お体の状態を確認するために受診をお勧めします」という形で勧奨することは適法です。受診を強制することはできませんが、受診勧奨の事実と社員の応答を記録しておくことで、その後の対応の根拠を積み上げることができます。

05帰宅後の休職命令に向けた手続きを速やかに進めてください

 帰宅指示はあくまでもその日の就労不能への対応であり、精神疾患が疑われる状態が継続するのであれば、速やかに休職命令の手続きに移行することが求められます。休職命令の発令には、就業規則に定める要件を満たしていることの確認と、場合によっては産業医や主治医の意見書の取得が必要となります。

 休職中は、休職期間の満了や復職の判断など、多くの法的問題が生じます。精神疾患が疑われる社員への対応は、初期の段階から会社側・使用者側専門の弁護士に相談しながら進めることが、後のトラブルを防止する上で最も効果的です。弁護士法人四谷麹町法律事務所では、精神疾患社員への対応に関する豊富な経験を有しており、経営者の皆様に実務的なアドバイスを提供しています。

SUPERVISOR
弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。精神疾患が疑われる社員が出社しても正常な労務提供ができない場合の対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 精神疾患が疑われる社員が「自分は働ける」と主張して帰宅を拒否した場合、どうすればよいですか。

A. 本人が「働ける」と主張していても、客観的に就労不能と判断できる状態であれば、使用者として帰宅を命じることは適法です。ただし、帰宅指示の理由(就労不能状態の具体的な内容)を明確に説明し、記録することが重要です。就業規則に帰宅命令の根拠規定があれば、法的根拠がより明確になります。

Q2. 帰宅させた日の賃金は支払う必要がありますか。

A. 社員側の就労不能に基づく帰宅の場合は、ノーワーク・ノーペイの原則により、その日の賃金を支払う必要はありません。会社都合による休業ではなく社員側の就労不能による欠勤扱いとなるため、休業手当(労働基準法26条)の支払義務も生じません。ただし、帰宅指示の際にその旨を明確に説明し、記録に残しておくことが重要です。

Q3. 精神疾患が疑われる社員への対応で最も重要なことは何ですか。

A. 記録の作成・保存が最も重要です。帰宅指示の日時・理由・本人の反応、受診勧奨の事実、その後の経過など、すべてを書面で記録しておくことが、後の紛争対応において会社側の立場を守ります。また、初期段階から会社側・使用者側専門の弁護士に相談しながら対応方針を決定することをお勧めします。

Q4. 帰宅指示後、次のステップとして何をすべきですか。

A. 精神疾患が疑われる状態が継続するのであれば、休職命令の手続きへの移行を検討してください。就業規則の休職規定を確認し、産業医や主治医の意見書の取得など、必要な手続きを進めます。休職期間中の対応・復職の判断・休職期間満了による退職など、その後のフェーズにおいても多くの法的問題が生じますので、使用者側弁護士に相談しながら進めることが重要です。

最終更新日:2026年5月10日

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