労働問題1002 能力が極端に低い社員の対応で最初に考えなければならないこと
解説動画
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新卒・若い中途採用は「育てること」が予定されている——能力不足と言いにくい 新卒採用や未経験者歓迎の採用では、最初から仕事ができることを期待していない。教育して育てていくことが雇用契約の内容に含まれていると解釈されやすい。こういった採用の仕方をしている場合、能力不足を主張するハードルは高くなる |
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配置転換権限があり何でも手伝う文化の会社では「何の能力が不足か」が不明確 中小企業でよく見られる「困っている人がいれば担当外でも手伝う」という文化がある場合、一体どの仕事の能力が不足しているのかが不明確になりやすい。他の仕事ならできると言われると、能力不足の主張が弱くなることがある |
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高給で管理職として採用した場合は能力不足を主張しやすい 月給100万円で特定部門の管理職として採用した場合は、その給与・役職に見合う能力が予定されていることが明確。その仕事ができなければ能力不足と評価しやすい |
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雇い方を変えなければ能力不足での対応はハードルが高い 「この仕事しかやらせない、この水準の能力が最初から必要」という採用の仕方をしていなければ、能力不足を理由にやめてもらうことは難しい。本気で対応したい場合は雇い方の見直しが必要 |
目次
01能力不足対応で最初に確認すること——「契約で予定されている能力は何か」
「うちの社員は能力が極端に低くて困っている」という相談を受けるとき、まず確認すべきことがあります。それは「その雇用契約において、予定されていた能力とは何か」という問いです。
能力不足とは、絶対的なスキルレベルの低さではなく、雇用契約で予定されていた能力と実際の能力とのギャップのことです。このギャップが大きいことを法的な意味での能力不足といいます。
ここを確認せずに「あの人は能力が低いからやめてもらいたい」という話を進めると、後々法的に成立しないという問題が生じることがあります。予定されていた能力が何だったのかをまず整理することが、対応の出発点です。
02新卒・若い中途採用では能力不足と言いにくい理由
新卒採用や「未経験者歓迎」といった求人で採用した場合、最初から仕事ができることを期待していないという採用の仕方をしています。教育して育てていくことが雇用契約の内容に含まれていると解釈されやすいのです。
こういった採用をしておきながら「能力が低いからやめてほしい」と言おうとしても、「だって最初から仕事ができないのは承知の上で採用したのでしょう」という反論が成り立ちます。
若い方の中途採用についても同様です。社会人経験が少ない方を採用した場合、即戦力を期待していたとは言いにくい場面が多いです。給与もそれほど高くない場合、「教育して育てていくこと」が予定されていたと解釈されます。
新卒・若い中途採用で能力不足を主張する場合は、「教育を繰り返したにもかかわらず改善しなかった」という事実の積み重ねが必要になります。単に「仕事ができない」というだけでは不十分です。
03配置転換権限・何でも手伝う文化がある会社での問題
中小企業でよく見られるのが「担当業務はあるが、困っている人がいれば他の仕事も手伝う」という文化です。また就業規則に配置転換の権限が定められている会社も多くあります。
こういった職場環境では、「一体どの仕事の能力が不足しているのか」という問いに対して明確に答えにくくなります。今やらせている仕事ができなくても、「他の仕事ならできるかもしれない」という反論が出やすくなるのです。
例えばある業務の出来が悪い社員に対して「能力不足だ」と主張しようとしたとき、「就業規則には配置転換の権限があるし、普段から他の仕事も手伝っているのだから、一体何の仕事ができなければ能力不足と言えるのか」という問題が生じます。
逆に言えば、担当業務が明確に決まっており配置転換もほぼない会社や、特定の高い能力を期待して採用した場合は、能力不足の主張がしやすくなります。
04高給・管理職採用では能力不足を主張しやすい
能力不足を法的に主張しやすいのは、高い給与・高い役職で採用した場合です。
例えば月給100万円で40代の経験豊富な方を特定部門の部長として採用した場合、その給与と役職から「この部門について高い能力を持っていることが前提で採用した」ということが明確です。その仕事ができなければ、雇用契約で予定されていた能力と実際の能力との乖離が大きいという主張が成立しやすくなります。
こうした場合でも、採用時に「どのような仕事ができることを期待しているか」「いつまでにどのような成果を期待しているか」という点を書面で残しておくと、後の能力不足の主張がより明確になります。できれば採用時に具体的な期待値を書面化しておくことをお勧めします。
05雇い方を変えなければ対応のハードルは変わらない
ここまでの話を踏まえると、「能力不足の社員にやめてもらいたい」と思っても、その雇い方のままでは対応のハードルが高い場合があることが理解できます。
育てることが前提の採用をしておきながら、後から能力不足で解雇しようとすることは難しいです。何でも手伝う文化の中で「あの仕事ができない」と言っても、他の仕事なら問題ないかもしれないとなります。
本当に能力不足の問題に対処したい場合は、雇い方の見直しも検討してください。例えば「この仕事だけを担当してもらう。配置転換はない。この仕事に必要な能力を持っていることが採用の前提」という採用の仕方をすれば、能力不足の主張がしやすくなります。
もちろんこれは将来の採用に向けての話です。すでに採用した社員の扱いを変えることはできません。今いる社員については、現在の雇い方の中でできる対応を弁護士と一緒に検討してください。
06それでも周りの社員を守るために対応しなければならない
能力不足の問題社員への対応が難しいことは理解しました。しかし難しいからといって放置することはできません。
能力が極端に低い社員が一人いると、周りで働いている先輩・同僚が疲弊します。教えても覚えない、ミスをフォローしなければならない、人手が足りないと思って採用したのにかえって負担が増えた——こういった状況が続くと、頑張っている社員から不満が積み重なり、最終的には優秀な社員が「こんな職場では働けない」と辞めてしまうリスクがあります。
周りで一緒に働いてくれている社員たちを守ることも、経営者の責任です。対応が難しい事情があったとしても、できる範囲の対応を一つ一つ積み重ねていくことが必要です。弁護士に相談しながら、現状の雇い方の中でできる最善の対応を検討してください。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。能力不足社員の対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 新卒で採用した社員が全然仕事を覚えません。能力不足でやめてもらえますか。
A. 新卒採用では最初から仕事ができることを期待しておらず、教育して育てることが雇用契約の内容に含まれると解釈されやすいため、単に「仕事を覚えない」だけでは能力不足の主張は難しいです。ただし丁寧に具体的な教育指導を行い、その記録をつけた上で、それでもなお改善が見られない場合は能力不足の主張が成立しやすくなります。弁護士に状況を説明して対応の可能性を相談してください。
Q2. 「あの仕事はできないが他の仕事ならできるかもしれない」と言われました。どう対応しますか。
A. 配置転換の権限があり、普段から様々な仕事を手伝っている会社では、こういった主張が成立しやすくなります。その場合は「他の仕事でも試したが、同様にできなかった」という事実の積み重ねが重要になります。あるいは採用の経緯から「この特定の仕事のために採用した」ということを書面や状況から示すことができれば、能力不足の主張の根拠になります。弁護士に相談してください。
Q3. 高給で採用した中途管理職が期待した仕事をできません。どう対応すればよいですか。
A. 高給・管理職採用の場合は能力不足の主張がしやすい状況です。ただし採用時にどのような仕事を期待していたかが記録に残っていると、より主張が明確になります。試用期間中であれば本採用拒否を検討できます。試用期間が経過している場合は退職勧奨を中心に検討することになります。いずれの場合も弁護士に相談しながら具体的な事実を踏まえた対応を進めてください。
Q4. 今後の採用で能力不足の問題を起こさないためにどうすればよいですか。
A. 採用時に「この仕事に必要な能力が最初から必要か、それとも教育して育てる採用か」を明確にしておくことが重要です。即戦力として採用する場合は、求める能力・スキルを具体的に書面化しておくことで、後の能力不足の主張の根拠にもなります。また試用期間の長さを自社の業務内容に合わせて適切に設定することも大切です。採用に関する就業規則の見直しについては弁護士・社会保険労務士にご相談ください。
最終更新日:2026年5月10日