労働問題922 限定正社員(職務・勤務地・時間限定)は解雇できますか。

この記事の結論
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解雇権濫用法理は限定正社員でも変わらない

解雇の有効性は、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であることの二要件によって判断され(労契法16条)、この枠組みは限定正社員であっても変わりません。「限定正社員だから解雇しやすい」という誤解は危険です。

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配転による雇用維持が予定されない分、解雇が肯定されやすい場合がある

限定正社員は、契約上配転が予定されていないため、解雇回避措置として配転を求めることができず、その分解雇の合理性が認められやすい場合があります。ただし他の要素は通常どおり厳格に検討されます。

 職務・勤務地・労働時間が限定された正社員(いわゆる「限定正社員」)を解雇できるかどうかは、通常の正社員とは異なる法的な考慮が必要です。752の記事で解説した能力不足解雇の基本的な検討方法を踏まえ、本稿では、限定正社員という特殊な契約類型における解雇の有効性を掘り下げます。

 会社側専門の弁護士の立場から、限定正社員における解雇制限法理の考え方、各場面での有効性判断のポイント、実務対応を解説します。

01限定正社員の特徴と解雇制限法理の考え方

 限定正社員とは、労働契約において従事する職務内容、勤務する事業所・地域、または労働時間等があらかじめ特定されている正社員を指します。通常の正社員が幅広い配転・転勤の対象となるのに対し、限定正社員は使用者の人事裁量権が労働契約によって制限されています。

 解雇の有効性は、解雇権濫用法理に基づき、①客観的に合理的な理由があること、②社会通念上相当であることの二要件によって判断されます(労働契約法第16条)。この枠組みは限定正社員であっても変わりません。ただし、限定正社員の場合、解雇の有効性を判断する際に重要な考慮要素として「配転による雇用維持の可能性」があります。通常の正社員であれば、解雇回避措置として他の職種・事業所への配転が検討されます。しかし、職務や勤務地が限定されている場合には、契約上そのような配転が予定されておらず、解雇回避措置として配転を求めることができないため、その分、解雇の合理性が認められやすくなる場合があります。

02勤務成績不良・能力喪失を理由とする解雇の有効性

 職務が限定されている正社員について、その限定された職務における能力不足や勤務成績不良が問題となった場合、通常の正社員に比べて解雇の合理性が認められやすい状況が生じ得ます。他職種への配転という解雇回避手段が契約上予定されていないためです。

 例えば、特定のIT技術者として採用した限定正社員が、その技術スキルを習得できず、あるいは疾病等によりその業務を全うできなくなった場合、他の業務への配転が予定されていない以上、雇用を継続することが困難という合理的理由が認められる可能性が高まります。ただし、勤務成績不良・能力喪失を理由とする解雇であっても、直ちに有効となるわけではありません。限定された職務の範囲内での指導・改善機会の付与・業務調整を尽くしたかどうかは引き続き重要な判断要素です。また、解雇前に退職勧奨を行い、本人の意向を確認するプロセスも、社会通念上の相当性の観点から重要です。

03整理解雇(事業所閉鎖・組織再編)における有効性判断

 事業所の閉鎖・縮小・業務廃止といった経営上の理由による整理解雇の場面でも、限定正社員は通常の正社員と異なる取扱いがされることがあります。勤務地が限定されている場合、他の事業所への転勤を前提とした雇用維持を求めることが契約上困難であるためです。

 例えば、特定の事業所への勤務地限定で採用された正社員が勤務する事業所を会社が閉鎖した場合、他事業所への転勤を強要することは労働契約の内容に反します。このような場合には、雇用継続のために必要な配転・転勤という選択肢がない以上、整理解雇の有効性が肯定されやすくなります。もっとも、整理解雇は、①人員削減の経営上の必要性、②解雇回避努力、③解雇対象者の選定の合理性、④手続の相当性という四要素から判断されます。限定正社員であることは「解雇回避努力」の判断(配転不可)に影響しますが、他の要素については通常の整理解雇と同様に厳格な検討が必要です。

04労働契約書の明確化と実態の一致が不可欠

 限定正社員であることを根拠に解雇の有効性を主張するには、前提として労働契約書・就業規則・雇用条件通知書において、職務・勤務地・労働時間の限定が明確に定められていることが必要です。「口頭で限定正社員として扱うつもりだった」という主張は認められません。

 さらに重要なのは、書面上の定めと実際の運用が一致していることです。たとえ労働契約書に「職務限定」と記載していても、実際には別の職種へ配転を行ったり、複数の事業所へ異動させていたりすれば、「実態として無限定正社員と同じ」と評価される可能性があります。裁判所は契約書の文言のみならず実態を重視するため、限定正社員として採用した後は、その限定内容に沿った人事運用を徹底することが重要です。後日の紛争を防ぐためにも、配転・転勤の指示が生じた場合には、都度本人の同意を書面で取得することが有効です。

05よくある質問(FAQ)

Q. 限定正社員は、通常の正社員より簡単に解雇できますか。

単純に簡単になるわけではありません。解雇権濫用法理は同様に適用されますが、配転による雇用維持が契約上予定されていない分、解雇の合理性が認められやすくなる場合があります。

Q. 職務限定の正社員であれば、指導・改善機会を与えなくても解雇できますか。

できません。限定された職務の範囲内での指導・改善機会の付与を尽くしたかどうかは、引き続き重要な判断要素です。

Q. 契約書に「職務限定」と書いていても、実際に配転を行っていた場合はどうなりますか。

「実態として無限定正社員と同じ」と評価される可能性があります。書面上の定めと実際の運用の一致が重要です。

経営上のポイント 限定正社員の解雇にも、解雇権濫用法理(労契法16条)が同様に適用されますが、配転による雇用維持が契約上予定されていないため、その分解雇の合理性が認められやすい場合があります。能力不足・整理解雇のいずれの場面でも、配転回避以外の要素(指導・改善機会の付与、手続の相当性等)は通常どおり厳格に検討されます。会社側としては、労働契約書に限定内容を明確に定め、書面上の定めと実際の人事運用を一致させることが不可欠です。配転を行う際は都度本人の同意を書面で取得することをお勧めします。限定正社員制度の設計・解雇の実施は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。限定正社員制度の設計でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日

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