労働問題921 店舗の店長が管理監督者に該当するか否かが問題となった裁判例を教えてください。

 店舗の店長が管理監督者に該当するか否かが問題となった裁判例で代表的なのは、日本マクドナルド事件です(東京地裁平成20年1月28日判決)。本件は、原告であるハンバーガー店の店長が、会社に対して残業代等を請求し、同店長が労働基準法41条2号の管理監督者に該当するか否かが問題となりました。
 原告が管理監督者に当たるといえるためには、店長の名称だけでなく、実質的に認められるものでなければならず、具体的には、①職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか、③給与(基本給、役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がされているかなどの点から判断すべきであるとされました。
 また、日本マクドナルドの店長は、店舗の責任者として、アルバイト従業員の採用やその育成、従業員の勤務シフトの決定、販売促進活動の企画、実施等に関する権限を行使し、被告の営業方針や営業戦略に即した店舗運営を遂行すべき立場にあるから、店舗運営において重要な職責を負っていることは明らかであるものの、店長の職務、権限は店舗内の事項に限られるのであって、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められないと判断されました。
 この他にも、店長は、自らのスケジュールを決定する権限を有し、早退や遅刻に関して、上司の許可を得る必要はないなど、形式的には労働時間に裁量があるといえるものの、実際には、店長として固有の業務を遂行するだけで相応の時間を要するうえ、店舗の営業時間帯には必ずシフトマネージャーを置かなければならないという会社の勤務態勢上の必要性から、自らシフトマネージャーとして勤務することなどにより、法定労働時間を超える長時間の時間外労働を余儀なくされるのであるから、かかる勤務実態からすると、労働時間に関する自由裁量性があったとは認められないと判断されました。
 日本マクドナルド全体の店長の10%に当たるC評価の店長の年収は、下位の職位であるファーストアシスタントマネージャーの平均年収より低額であるということになるだけでなく、全体の店長の40%に当たるB評価の店長の年収は、ファーストアシスタントマネージャーの平均年収を上回るものの、その差は年額で44万6943円であることが明らかになりました。
 インセンティブプランの多くは、店長だけでなく、店舗の他の従業員もインセンティブ支給の対象としているのであるから、これらのインセンティブプランが設けられていることは、店長を管理監督者として扱い、労働基準法の労働時間等の規定の適用を排除していることの代償措置として重視することはできないとされました。
 以上のことから、日本マクドナルドにおける店長は、その職務の内容、権限及び責任、待遇の観点からみて管理監督者に当たるとは認められず、時間外労働や休日労働に対する割増賃金が支払われるべきであると判示されました。
 この裁判例の特殊性は、管理監督者とされる労働者の職務内容、権限、責任について、「企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか」という観点から判断すべきとしている点です。これは、昭和22年、昭和63年の行政通達が、経営者という一体的な立場にあるというのは「労働条件の決定その他労務管理」の点についてであるとしていることとは対照的です。
 この判決をきっかけに、店舗責任者について、管理監督者性を否定する重要な要素、補強要素をまとめ、職務内容、責任と権限、勤務態様、賃金等の待遇について整理された通達が出されました(「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」)(平成20年9月9日基発第0909001号)。 

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