労働問題890 職能資格制度上の資格や職務等級制度上の等級を引き下げる場合の注意点を教えてください。

この記事の結論
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賃金減額を伴う不利益変更のため明確な根拠規定が必要

職能資格・等級を引き下げる降格は賃金の減額を伴う労働条件の不利益変更であるため、労働者が人事権の行使を予測できるように明確な根拠規定を就業規則に設ける必要があります。

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職能資格制度等に降格・降級の可能性の明記が必要

職能資格制度上の降格を実施するには、就業規則の職能資格制度等において降格・降級の可能性が予定され、使用者にその権限が根拠づけられている必要があります(アーク証券事件、東京地裁平成8年12月11日決定)。

 889の記事で解説した4類型のうち、特に厳格な規制を受けるのが、職能資格制度上の資格や職務等級制度上の等級の引下げです。本稿では、この類型に特化して、実務上の注意点を掘り下げます。

 会社側専門の弁護士の立場から、職能資格制度上の資格や職務等級制度上の等級を引き下げる場合の注意点を解説します。

01賃金の不利益変更としての性質

 職能資格制度上の資格や職務等級制度上の等級を引き下げる降格は、賃金の減額を伴いますので、労働条件を不利益に変更する権限行使です。労働条件を不利益に変更するような人事権を行使するためには、労働者に人事権が行使されることを予測できるように明確な根拠規定を設けることが必要です。889の記事で解説した役職・職位の降格とは異なり、賃金という重要な労働条件に直接影響を及ぼすため、より厳格な規律が求められるということです。

02アーク証券事件が示す判断基準

 裁判例では、職能資格制度上の降格を実施するためには、就業規則の職能資格制度等において降格、降級の可能性が予定され、使用者にその権限が根拠づけられている必要があるとしたものがあります(アーク証券事件、東京地裁平成8年12月11日決定)。この事件は、証券会社が業績不振を理由に管理職の給与を一律カットし、その後も降格・号俸の引下げ・手当減額を繰り返した事案で、就業規則の職能資格制度に降格・引下げの根拠が明確に規定されていなければ、使用者による一方的な賃金減額は許されないと判断されたものです。

03会社側が押さえておくべき視点

 会社側としては、職能資格制度・職務等級制度を運用している場合、その就業規則・給与規程に、降格・降級(資格・等級の引下げ)が起こり得ることと、その要件・手続を、明確に規定しておくことが不可欠です。「業績評価が著しく低い場合には資格を引き下げることがある」といった抽象的な記載だけでなく、可能であれば、評価基準や引下げの手続についても、ある程度具体的に定めておくことが望ましいといえます。

 既に職能資格制度を導入している会社で、この根拠規定が不十分な場合には、就業規則の改定を検討する必要があります。ただし、この改定自体が労働条件の不利益変更に該当する可能性があるため、866の記事で解説した合理性・周知性の要件を踏まえた、慎重な手続を経る必要があります。

04よくある質問(FAQ)

Q. 就業規則に降格・降級の規定がない場合、業績不振を理由に一方的に資格を引き下げてよいですか。

できません。就業規則の職能資格制度等に降格・降級の可能性が予定され、使用者の権限が根拠づけられていなければ、一方的な引下げは許されません(アーク証券事件)。

Q. なぜ職能資格の引下げには、明確な根拠規定が必要なのですか。

賃金の減額を伴う労働条件の不利益変更であるため、労働者が人事権の行使を予測できるように明確な根拠規定が求められます。

Q. 既存の就業規則に根拠規定がない場合、どうすればよいですか。

就業規則の改定を検討する必要がありますが、この改定自体が不利益変更に該当し得るため、合理性・周知性の要件を踏まえた慎重な手続が必要です。

経営上のポイント 職能資格制度上の資格や職務等級制度上の等級を引き下げる降格は、賃金の減額を伴う労働条件の不利益変更であるため、労働者に人事権が行使されることを予測できるよう明確な根拠規定を就業規則に設ける必要があります。裁判例は、就業規則の職能資格制度等において降格・降級の可能性が予定され、使用者にその権限が根拠づけられている必要があるとしています(アーク証券事件、東京地裁平成8年12月11日決定)。会社側としては、職能資格制度・職務等級制度の就業規則・給与規程に、降格・降級の可能性と要件・手続を明確に規定しておくことが不可欠です。既存の規定が不十分な場合には、就業規則の不利益変更の手続を踏んで改定することが必要です。職能資格・等級制度の設計は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。職能資格・等級制度の設計でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日

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