労働問題857 退職勧奨により労働者が退職届を提出したにもかかわらず、退職の意思表示が取り消されることはありますか。取り消されないためには、どのような点に配慮するべきですか。

この記事の結論
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署名押印のある退職届でも取り消される恐れがある

退職勧奨の結果、労働者が自ら署名押印のある退職届を提出した場合であっても、民法の一般原則に基づいて、退職の意思表示が強迫や詐欺によるものであることを理由に取り消される恐れがあります(民法96条1項)。

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無理強い・恐怖の惹起・虚偽の事実の提示を避ける

強迫による取消しを避けるには、無理強いや恐怖を抱かせる状況を作らないこと、詐欺による取消しを避けるには、懲戒事由がないのにあるかのように装う等の虚偽の事実を突き出さないことが必要です。

 856の記事で解説した不法行為のリスクとは別に、退職勧奨に応じて労働者が退職届を提出したとしても、その退職の意思表示自体が、後になって取り消される可能性があるという、もう一つのリスクが存在します。

 会社側専門の弁護士の立場から、退職勧奨による退職意思表示の取消しリスクとその予防策を解説します。

01退職届があっても安心はできない

 退職勧奨の結果、労働者が自ら署名押印のある退職届を提出した場合であっても、一般原則である民法に基づいて、労働者の退職の意思表示が強迫や詐欺によるものであることを理由に取り消される恐れがあります(民法96条1項)。804の記事で解説した合意退職の成立要件を満たし、退職届が有効に提出されたと思われても、その意思表示自体に瑕疵があれば、後から取り消されるリスクが残るということです。

02強迫による取消しを避けるための配慮

 退職の意思表示が強迫によるものであることを理由に取り消されないようにするためには、何らかの無理強いをしたり、労働者に恐怖を抱かせるような状況を作り出したりして退職勧奨しないように配慮する必要があります。856の記事で解説した「威圧的な言動を避ける」「長時間拘束しない」等の配慮は、この強迫による取消しリスクの回避にも直結します。

03詐欺による取消しを避けるための配慮

 退職の意思表示が詐欺によるものであることを理由に取り消されないようにするためには、例えば、懲戒解雇に該当する事由がないにもかかわらず、それがあるかのように装って、労働者を退職に追い込む等、虚偽の事実を突き出して労働者が退職しなければならないと思い込ませるようなことがないように配慮する必要があります。「言うことを聞かなければ懲戒解雇になる」といった、事実に基づかない脅しは、詐欺による取消しの典型的な原因になります。

04会社側が押さえておくべき視点

 会社側としては、退職勧奨の際に労働者に伝える事実(懲戒解雇事由の有無、業績評価の内容等)が、客観的な根拠に基づく正確なものであるかを、事前に確認しておく必要があります。事実の誇張や、実際には存在しない懲戒事由の存在を示唆するような発言は、詐欺による取消しの主張を招くリスクが高く、絶対に避けるべきです。

 また、面談の場所・時間・参加人数についても、労働者が過度な威圧感や恐怖感を抱かないよう配慮することが重要です。複数の上司が同席して長時間にわたり退職を迫るような面談形式は、強迫による取消しの主張を招くリスクを高めます。806の記事で解説した違法とされた裁判例の傾向とも重なるポイントです。

05よくある質問(FAQ)

Q. 退職届に署名押印してもらえば、後から退職を撤回されることはありませんか。

安心はできません。署名押印があっても、その意思表示が強迫や詐欺によるものであることを理由に、後から取り消される恐れがあります(民法96条1項)。

Q. 「辞めないと懲戒解雇にする」と伝えたら、どのようなリスクがありますか。

実際には懲戒解雇事由がないにもかかわらずそのように伝えると、詐欺による意思表示の取消しを主張されるリスクがあります。

Q. 強迫による取消しを避けるには、どうすればよいですか。

無理強いをしたり、労働者に恐怖を抱かせるような状況を作り出さないように配慮する必要があります。面談の時間・場所・参加人数への配慮も重要です。

経営上のポイント 退職勧奨の結果、署名押印のある退職届を提出した場合であっても、民法の一般原則に基づき、退職の意思表示が強迫や詐欺によるものであることを理由に取り消される恐れがあります(民法96条1項)。強迫による取消しを避けるには、無理強いや恐怖を抱かせる状況を作らないこと、詐欺による取消しを避けるには、懲戒事由がないのにあるかのように装う等の虚偽の事実を提示しないことが必要です。会社側としては、退職勧奨で伝える事実の正確性を事前に確認し、面談の時間・場所・参加人数にも配慮することが、取消しリスクの回避につながります。退職勧奨の実施は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職勧奨の実施でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日

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