労働問題806 退職勧奨をした際に退職を強要したとして慰謝料請求が認められた事例には、どのようなものがありますか。

この記事の結論
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社会的相当性を逸脱した退職勧奨には損害賠償義務が生じる

退職勧奨自体は事実行為であり、使用者がこれを行うかは基本的に自由です。しかし、社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨行為が行われた場合には、使用者は不法行為に基づく損害賠償義務を負います。

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頻度・言動・懲戒可能性の示唆等が違法性の判断要素になる

面談の頻度・時間の長さ、拒否後も繰り返す執拗さ、屈辱的な言辞、懲戒解雇の可能性の示唆等が、社会通念上許容できる範囲を超えるかどうかの判断要素になります。

 805の記事で解説したとおり、退職勧奨は法的には単なる事実行為ですが、その実施方法によっては、会社に思わぬ損害賠償責任が発生することがあります。どのような場合に違法と判断されるのか、裁判例から具体的に把握しておく必要があります。

 会社側専門の弁護士の立場から、退職勧奨をめぐって慰謝料請求が認められた裁判例を紹介します。

01退職勧奨の原則と違法となる境界

 退職勧奨とは、辞職を勧める使用者の行為、あるいは、使用者による合意解約の申込みに対する承諾を勧める行為をいいます。退職勧奨自体は事実行為ですので、使用者がこれを行うかどうかは基本的には自由です。しかし、社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨行為が行われた場合には、使用者は労働者に対して、不法行為に基づく損害賠償義務を負うことになります。

02慰謝料請求が認められた裁判例

 裁判所が労働者からの慰謝料請求を認めた事例には、次のものがあります。

退職勧奨で慰謝料請求が認められた裁判例
暴行を含む嫌がらせによる退職強要行為について、使用者と実行者の双方に損害賠償責任を認めた事例(エール・フランス事件、東京高裁平成8年3月27日判決)
労災による休職後の退職勧奨につき、面談の頻度、時間の長さ、上司からの言動からみて社会通念上許容できる範囲を超える違法な退職強要であるとして慰謝料請求を認めた事例(全日本空輸事件、大阪高裁平成13年3月14日判決)
退職勧奨過程で懲戒解雇の可能性を示唆した点を違法とし、慰謝料請求を認めた事例(日本航空事件、東京高裁平成24年11月29日判決)
労働者が退職勧奨に応じない姿勢を明確にした後も繰り返し退職勧奨を行い、その態様が執拗で名誉感情を不当に害する屈辱言辞を用いたとして慰謝料請求を認めた事例(兵庫県商工会連合会事件、神戸地裁姫路支部平成24年10月29日判決)

03各裁判例から見える共通の傾向

 これらの裁判例に共通するのは、退職勧奨の「頻度」「態様」「内容」のいずれかが、社会通念上の相当性を著しく逸脱している点です。エール・フランス事件のように暴行を伴う場合は明らかに違法ですが、全日本空輸事件や兵庫県商工会連合会事件のように、面談の頻度や時間の長さ、拒否後の執拗な継続、屈辱的な言辞といった要素も、単独または複合して違法性を基礎づけています。

 特に日本航空事件は、暴力や執拗さを伴わなくても、懲戒解雇の可能性を示唆するという発言内容自体が違法と評価された点で注目されます。労働者に心理的な圧力をかける発言は、たとえ穏やかな口調であっても、違法と判断されるリスクがあることを示しています。

04会社側が押さえておくべき視点

 会社側が退職勧奨を実施する際には、次の点に注意する必要があります。第一に、労働者が明確に退職を拒否する意思を示した後は、勧奨を繰り返さないか、頻度・態様を大幅に緩和することです。第二に、面談の回数や1回あたりの時間について、社会通念上相当な範囲にとどめることです。第三に、懲戒解雇の可能性など、労働者に心理的圧力をかけるような発言は控え、あくまで説得にとどめることです。第四に、暴力や暴言など、明らかに違法な言動は絶対に避けることです。

 退職勧奨を実施する担当者には、これらの裁判例を踏まえた研修を行い、面談の記録を残しておくことも、後の紛争予防に役立ちます。

05よくある質問(FAQ)

Q. 退職勧奨の面談中に「辞めないと懲戒解雇にする」と伝えてもよいですか。

避けるべきです。退職勧奨過程で懲戒解雇の可能性を示唆した点を違法とし、慰謝料請求を認めた事例があります(日本航空事件)。

Q. 労働者が拒否した後も退職勧奨を続けてよいですか。

明確な拒否後も繰り返し執拗に行い、屈辱的な言辞を用いた場合、慰謝料請求が認められた事例があります(兵庫県商工会連合会事件)。拒否の意思が示されたら、頻度・態様を見直す必要があります。

Q. 面談の回数や時間が長いだけでも違法になりますか。

面談の頻度、時間の長さ、上司からの言動が社会通念上許容できる範囲を超えると評価されれば、違法な退職強要と判断されることがあります(全日本空輸事件)。

経営上のポイント 退職勧奨自体は事実行為であり、実施すること自体は自由ですが、社会的相当性を逸脱した態様での半強制的・執拗な退職勧奨には、不法行為に基づく損害賠償義務が生じます。暴行を伴う事案(エール・フランス事件)、面談の頻度・時間・言動が過度な事案(全日本空輸事件)、懲戒解雇の可能性を示唆した事案(日本航空事件)、拒否後も執拗に屈辱的な言辞で継続した事案(兵庫県商工会連合会事件)で、いずれも慰謝料請求が認められています。会社側としては、労働者の拒否の意思表示後は頻度・態様を緩和し、懲戒解雇等の心理的圧力をかける発言を避け、面談記録を残しておくことが重要です。退職勧奨の実施は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職勧奨の実施でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日

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