労働問題790 懲戒処分が法的に有効とされるために必要な処分の相当性について、具体的に教えてください。
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課せる懲戒処分は、就業規則に定めた種類に限定される 就業規則に記載されていない懲戒処分を行うことはできません。就業規則が懲戒事由ごとに処分の種類を限定的に規定している場合、その手段はそこに限定され、より軽い処分であっても課すことはできないとされています。 |
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同種の非違行為には、先例を踏まえた同等の処分が求められる 懲戒処分は、同種の非違行為に対しては同等のものでなければならず、突出した処分は、事情の変更等、正当化する事情がない限り、相当性が否定されます。 |
目次
789の記事で解説した懲戒処分事由該当性に加え、懲戒処分が有効となるためには、「処分の相当性」も満たす必要があります。非違行為があったとしても、それに見合わない重すぎる処分を科せば、権利濫用として無効になります。
会社側専門の弁護士の立場から、懲戒処分における処分の相当性の判断要素を解説します。
01処分の種類は就業規則の定めに限定される
懲戒処分が法的に有効とされるためには、懲戒事由該当性のほかに、懲戒処分自体を就業規則に明確に定めておく必要があります。就業規則に記載されていない懲戒処分を行うことはできません。裁判例でも、就業規則において、特定の懲戒事由(経歴詐称等)を理由とする懲戒処分の種類を懲戒解雇・出勤停止・減給・格下げにとどめるものと規定している場合には、懲戒の手段はこれらに限定されてしまい、より軽い譴責処分などであっても、特段の事情がない以上は課すことができないとされた例があります。就業規則の規定を丁寧に確認したうえで、選択できる処分の範囲を見極める必要があります。
02考慮要素と使用者の裁量
課される懲戒処分は、労働者の懲戒事由の程度・内容に照らして相当なものである必要があります。いかなる処分を選択するかは使用者の裁量に属することになりますが、使用者がこの裁量判断を誤り、不当に重い処分を選択すれば、権利の濫用として無効となります。考慮される要素としては、懲戒事由とされた行為の態様、動機、業務に及ぼした影響、企業の置かれている状況、損害の程度、労働者の態度、情状、処分歴、行った背景、使用者側の原因等が挙げられます。
03先例との均衡(同種事案には同等の処分)
懲戒処分は、同種の非違行為に対しては、同等のものでなければならないとされています。つまり、懲戒処分については先例を尊重することが要請されます。過去に同種の非違行為に対して軽い処分しか科していなかったにもかかわらず、特定の労働者にだけ突出して重い処分を科すと、事情の変更等、懲戒処分を正当化する事情がない限り、処分の相当性が否定されることになります。社内での処分の一貫性を保つことが、懲戒処分を有効に行ううえで重要です。
04処分時期の相当性(ネスレ日本事件)
懲戒事由発生時期と懲戒時期が離れている場合の処分の相当性も、重要な論点です。労働者の暴行事件から7年経過した後にされた諭旨退職処分について、処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的かつ合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできないとした裁判例があります(ネスレ日本事件、最高裁第二小法廷平成18年10月6日判決)。この事件では、刑事事件の捜査結果を待って処分を検討していたという事情がありましたが、それでも長期間の経過により企業秩序が回復していたことなどが考慮され、重い処分は正当化されないと判断されました。
05退職を申し出た労働者への懲戒処分
退職を申し出た労働者に対して懲戒処分を行うことができるかも、実務上問題になります。労働者による合意解約の申込みに対して使用者が承諾をしないのであれば、懲戒処分を行うことはできると考えられます(757の記事参照)。
問題は辞職のケースです。民法627条によれば、辞職の意思表示は、2週間を経過した日、あるいは月給制の場合は賃金計算期間の前半に申し出たときはその期の初日から効力が生ずるため、それまでは労働契約関係が継続し、その間は懲戒処分を行えると考えられます。もっとも、懲戒解雇の約1週間前から、その非を認めないまでも自ら退職を申し出ていた労働者に対してなされた解雇を無効としたケースもあります(東洋化研事件、東京地裁昭和41年8月25日判決)。労働者が既に退職の意思を示している場合、懲戒処分の必要性・相当性が慎重に判断される可能性がある点に留意が必要です。
06会社側が押さえておくべき視点
会社側が懲戒処分を検討する際には、まず、就業規則が当該事由についてどの範囲の処分を認めているかを確認し、その範囲内で処分を選択する必要があります。次に、過去の社内の処分事例と比較し、著しく重すぎる処分になっていないかを検証することが重要です。さらに、非違行為の発覚から処分までの期間が長期化すると、処分の相当性が否定されるリスクが高まるため、事実確認ができ次第、速やかに処分を検討・実施することが望ましいといえます。
07よくある質問(FAQ)
Q. 就業規則にない懲戒処分を行うことはできますか。
できません。就業規則に定められた処分の種類に限定され、記載のない処分を課すことはできません。就業規則が処分の種類を限定的に規定している場合、その範囲を超えて選択することもできません。
Q. 過去に軽い処分で済ませていた同種の非違行為に対し、今回だけ重い処分を科してもよいですか。
正当化する事情がない限り、避けるべきです。懲戒処分は、同種の非違行為に対しては同等のものでなければならず、突出した処分は相当性が否定されるおそれがあります。
Q. 非違行為の発覚から時間が経ってから重い処分をすることは問題ですか。
問題があります。事件発生から7年以上経過した後の重い懲戒処分について、企業秩序維持の観点から必要性を欠くとして無効とされた例があります(ネスレ日本事件)。速やかな対応が重要です。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。懲戒処分の実施でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026年7月13日