社員が年次有給休暇中に会社の事業所で労働組合への加入を勧誘している——このような場面に直面した会社経営者から、「懲戒処分できないのか」というご相談が寄せられることがあります。組合活動への対応は、不当労働行為に当たるリスクを伴うため、慎重な判断が必要です。

 年休中の組合活動に関しては、取得目的への干渉禁止という大原則がある一方で、業務妨害行為については別途の判断枠組みが適用されます。この二つを混同すると、対応を誤ります。

 本記事では、会社側専門弁護士の視点から、年休中の組合加入勧誘に対する懲戒処分の可否・限界・実務対応を解説します。

01年休中の組合活動——懲戒処分ができない理由

 年次有給休暇は、労働基準法39条に基づく労働者の権利であり、その取得目的について会社経営者が干渉することはできません。年休を取得した理由が私用・自己研鑽・組合活動のいずれであっても、取得目的だけを問題にして不利益な取扱いをすることは法律上許されていません。

 したがって、「年休中に労働組合への加入を勧誘していた」という事実だけを根拠に懲戒処分を行うことはできません。年休中は労務提供義務が免除されており、その時間の使い方は原則として社員の自由に委ねられています。また、組合活動そのものは憲法28条・労働組合法によって保障された権利であり、これを理由とした不利益取扱いは不当労働行為(労働組合法7条)に当たる可能性があります。

 会社経営者として重要なのは、「組合活動だから何もできない」ではなく、「組合活動そのもの」と「業務に対する具体的な支障を生じさせた行為」とを区別することです。懲戒処分を検討できるのは、後者の場合に限られます。

02就業時間中の組合勧誘と業務妨害——懲戒処分が可能な場面

 就業時間中に他の社員に対して組合加入の勧誘を行い、業務の中断・生産性の低下などの具体的支障を生じさせた場合は、業務妨害として懲戒処分の対象となり得ます。この場合、問題となるのは組合活動の内容ではなく、業務に支障を生じさせた行為です。

 具体的には、就業時間中に複数の社員の業務を長時間止めて勧誘を続ける、業務開始直前の時間帯に執拗な勧誘を繰り返す、業務に関係のない資料を職場で配布して業務の流れを妨げるといった事情がある場合は、業務妨害として注意指導・懲戒処分の検討が可能です。

 ただし、たとえ就業時間中であっても、短時間の声かけ程度で具体的な業務支障が生じていない場合には、すぐに懲戒処分の対象にはなりません。また、休憩時間中の勧誘は、原則として業務妨害には当たらないため、注意指導の対象にもなりにくいことに留意が必要です。

03注意指導から懲戒処分への実務的な進め方

 就業時間中の組合勧誘が業務に支障を生じさせている場合でも、いきなり懲戒処分に進むことは避けてください。まず口頭での注意指導を行い、その内容を記録しておくことが重要です。注意の際は、「組合活動だから」という言い方は避け、「就業時間中に他の社員の業務が中断された」「作業に支障が生じた」という、業務上の問題点に限定して伝えましょう。

 口頭注意で改善が見られない場合は、書面(注意書・厳重注意書)による指導に切り替えます。書面には、いつ・どこで・誰に対して・どのような行為があり・どのような業務上の支障が生じたかを具体的に記載してください。抽象的な記述は、後の証拠として不十分になります。

 書面による注意指導を経ても改善がなく、繰り返しの業務妨害が認められる場合には、懲戒処分(譴責・減給等)の検討に入ります。ただし、この段階でも、就業規則に懲戒事由が明記されており、かつ周知されていることが必要です。就業規則の整備が不十分な場合、懲戒処分は無効と判断されるリスクがあります。

04不当労働行為にならないための注意点

 組合活動に関わる行為について懲戒処分を行う場合、最も警戒すべきは不当労働行為(労働組合法7条)に当たるリスクです。処分の理由が「組合員であること」や「組合活動をしていること」にあると判断されれば、処分は無効となり、会社は労働委員会への救済申立てや損害賠償請求にさらされる可能性があります。

 そのため、懲戒処分を行う際には、処分の理由が「業務妨害行為」に限定されていることを明確にしてください。処分書の記載、指導の記録、社内での説明はすべて、業務への具体的支障にフォーカスしたものにすることが重要です。

 また、組合員でない社員が同様の行為をした場合との対応を揃えることも重要です。組合員だけが厳しく処分され、非組合員には何もしないという対応は、差別的取扱いとして不当労働行為に問われかねません。会社全体として一貫した業務秩序維持の方針を持ち、それに基づいて対応することが、法的リスクを最小化する基本です。

SUPERVISOR
弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長、最高裁行政との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員。2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。組合活動・懲戒処分でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

05よくある質問(FAQ)

Q1. 社員が年休を取得し、その日に会社の駐車場で他の社員に組合加入を勧誘していました。懲戒処分できますか?

 年休中の行為であるため、組合加入勧誘という行為自体を理由として懲戒処分することはできません。ただし、会社施設の無断使用が就業規則上禁止されていれば、施設管理上の観点から退去を求めることは可能です。いずれにしても、まずは組合活動そのもの以外の視点(施設管理・業務妨害等)で対応を検討することが必要です。

Q2. 就業時間中に社員が休憩室で組合加入の勧誘をしていますが、問題ではないですか?

 休憩時間中の休憩場所での勧誘は、原則として業務妨害にはならず、注意指導の対象にはなりません。ただし、勧誘の態様が脅迫的・威圧的であったり、休憩時間後の業務開始に支障が出ているといった事情があれば、別途の対応が考えられます。休憩時間中の組合活動には広い保護が与えられている点に注意が必要です。

Q3. 懲戒処分の理由を「組合活動への参加」と記載するのは問題ですか?

 非常に問題です。組合活動への参加を懲戒理由とすることは、不当労働行為(労働組合法7条1号)に当たります。処分書には、「業務時間中に他の社員の業務を妨害した」「〇〇の業務に支障が生じた」という具体的な業務上の問題点のみを記載し、組合活動への言及は避けることが必須です。

Q4. 以前から問題社員として対応してきた社員が組合に加入しました。今後も注意・処分を続けてよいですか?

 組合加入前から継続してきた正当な注意指導・懲戒処分は、組合加入後も継続できます。ただし、組合加入を境に対応が強化されたり、従前と異なる扱いをした場合は、不当労働行為と評価されるリスクがあります。対応の一貫性と、業務上の理由に基づく対応という点を記録で示せるようにしておくことが重要です。

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最終更新日:2026年5月10日