労働問題907 36協定を締結していても残業代は不要にならない|会社経営者が誤解しやすい割増賃金の基本

1.36協定の役割と会社経営者が誤解しやすいポイント

 36協定は、法定労働時間である1日8時間、1週40時間を超えて労働者に時間外労働や休日労働をさせるために、会社経営者が必ず締結しておくべき労使協定です。これがなければ、時間外労働や休日労働そのものが違法となります。

 一方で、36協定を締結したことで「残業代を支払わなくてもよい」「長時間働かせることが正当化される」と誤解している会社経営者も少なくありません。しかし、36協定はあくまで時間外労働や休日労働を命じることを可能にする手続的な制度にすぎません。

 36協定を締結したからといって、割増賃金の支払義務が免除されることは一切ありません。残業代の支払いは、労働基準法で定められた強行規定であり、36協定とは別次元の問題です。

 会社経営者としては、36協定を「残業代対策」と捉えるのではなく、違法な長時間労働を回避するための最低限の前提として位置づけて理解することが重要です。この点を誤ると、残業代請求という重大な労働トラブルにつながります。

2.時間外労働・休日労働と割増賃金の法的原則

 労働基準法37条では、会社経営者が労働者に対して時間外労働や休日労働をさせた場合には、必ず割増賃金を支払わなければならないと定められています。この規定は強行規定であり、会社経営者の裁量で排除することはできません。

 時間外労働とは、法定労働時間である1日8時間、1週40時間を超えて行われる労働を指します。また、休日労働とは、労働基準法上の法定休日に労働させることを意味します。これらに該当する場合には、通常の賃金に加えて割増分を上乗せして支払う必要があります。

 割増率は、時間外労働については通常の賃金の2割5分以上、法定休日労働については通常の賃金の3割5分以上とされています。さらに、一定時間を超える長時間の時間外労働については、より高い割増率が適用される点にも注意が必要です。

 会社経営者としては、「忙しいから仕方がない」「本人が納得している」といった事情があっても、割増賃金の支払義務が免除されることはないという原則を、しっかり理解しておく必要があります。

3.残業代不払い合意が無効となる理由

 会社経営者の中には、「あらかじめ残業代は支払わないと合意している」「年俸制だから残業代は出ない」と考えている方もいます。しかし、残業代を支払わない旨の労使合意は、原則として無効です。

 その理由は、労働基準法37条の割増賃金規定が、強行規定とされている点にあります。強行規定とは、当事者間の合意があっても、それに反する内容を認めない法律上のルールです。したがって、たとえ労働者本人が「残業代はいらない」と同意していたとしても、その合意は法的に効力を持ちません。

 この点を誤解したまま運用を続けていると、退職後や労働基準監督署の調査をきっかけに、過去に遡って多額の残業代を請求されるリスクがあります。合意書や雇用契約書が存在しても、会社経営者を守ってくれるとは限らないのが実情です。

 会社経営者としては、「合意しているから大丈夫」という発想を捨て、法律上支払義務があるかどうかを基準に、残業代の取扱いを判断する必要があります。

4.時間外割増賃金が発生する具体的な範囲

 時間外割増賃金が発生するのは、36協定を締結しているかどうかにかかわらず、法定労働時間を超えて労働させた場合です。具体的には、1日8時間、または1週40時間を超えて労働した時間が対象となります。

 たとえば、1日の所定労働時間が8時間の会社であれば、8時間を超えた時点から時間外労働となり、割増賃金の支払義務が生じます。一方、所定労働時間が7時間であっても、7時間を超えただけでは直ちに時間外割増賃金が発生するわけではありません。あくまで基準となるのは法定労働時間です。

 また、月単位や年単位で労働時間を調整している場合でも、法定労働時間を超えた部分については、原則として時間外割増賃金の支払が必要です。変形労働時間制を導入している場合には、制度要件を満たしているかどうかが、割増賃金の要否を左右します。

 会社経営者としては、「所定労働時間」と「法定労働時間」を混同せず、どこから割増賃金が発生するのかを正確に把握することが、残業代トラブルを防ぐうえで不可欠です。

5.休日労働における割増賃金の考え方

 休日労働に割増賃金が発生するかどうかは、どの休日に労働させたのかによって判断が分かれます。会社経営者が押さえておくべきなのは、「法定休日」と「法定外休日」の違いです。

 労働基準法では、少なくとも毎週1日または4週4日の休日を与えることが義務づけられており、これが法定休日です。この法定休日に労働させた場合には、通常の賃金の3割5分以上の休日割増賃金を支払う必要があります。

 一方、就業規則等で定めた所定休日が、法定休日とは別に設けられている場合、その所定休日に労働させても、直ちに休日割増賃金が発生するわけではありません。ただし、その労働時間が1週40時間を超える場合には、時間外割増賃金の対象となります。

 会社経営者としては、単に「休日に働かせたかどうか」ではなく、どの休日なのか、週の労働時間がどうなるのかという視点で、割増賃金の要否を判断することが重要です。

6.残業代トラブルを防ぐために会社経営者が取るべき対応

 残業代に関するトラブルは、会社経営に大きな負担をもたらします。会社経営者としては、問題が顕在化してから対応するのではなく、事前に予防策を講じておくことが不可欠です。

 まず重要なのは、労働時間の管理を正確に行うことです。タイムカードや勤怠システムを形だけ導入していても、実態としてサービス残業が発生していれば意味がありません。実際の始業・終業時刻を把握し、法定労働時間を超えた労働がないかを継続的に確認する必要があります。

 次に、36協定や就業規則の内容が、現在の労働実態に合致しているかを定期的に見直すことも重要です。協定や規則が形骸化している場合、会社経営者にとって不利な証拠として扱われるおそれがあります。

 さらに、管理職や現場任せにせず、会社経営者自身が残業代の支払ルールを正しく理解していることが、最大のリスク対策となります。正しい知識に基づく運用こそが、不要な紛争を防ぎ、会社を守ることにつながります。

 

最終更新日2026/2/4

労働問題FAQカテゴリ


弁護士法人四谷麹町法律事務所

〒102-0083 東京都千代田区麹町6丁目2番6
PMO麹町2階

Copyright ©問題社員、労働審判、残業代トラブルの対応、経営労働相談|弁護士法人四谷麹町法律事務所 All Rights Reserved.
Return to Top ▲Return to Top ▲