残業代算定の基礎とならない除外賃金【会社側弁護士が解説】
残業代を計算する際、どの賃金を算定の基礎に含めるかは、未払残業代トラブルの核心部分です。「手当だから除外できる」「就業規則に除外と書いてある」という理解で運用していると、後日、多額の未払残業代を請求されるリスクがあります。
残業代算定の基礎から除外できる賃金は、労働基準法および施行規則により、限定的に列挙されています。会社が任意に除外範囲を広げることは認められておらず、この点の誤解が残業代紛争の大きな原因となっています。
本記事では、会社側専門弁護士の視点から、除外賃金の法的根拠・各手当の取扱い・実務上の注意点を、会社経営者・人事担当者向けに解説します。
01残業代算定の基礎に関する基本原則
残業代(割増賃金)の算定基礎について、まず押さえておくべき基本原則は、「原則として、労働の対価として支払われる賃金はすべて算定の基礎に含まれる」という点です。除外できる賃金は、法律で明示的に定められたものに限られます。
労働基準法37条1項は、時間外労働・休日労働・深夜労働に対して割増賃金を支払う義務を定め、その算定基礎については、同条5項および労働基準法施行規則19条・21条が規律しています。賃金の名称や支給形態にかかわらず、実質的に労働の対価であれば算定基礎に含まれるのが原則です。
「基本給は含めるが手当は含めない」という理解は誤りです。各種手当であっても、労働の量・質に対応して支給されているものであれば、算定基礎から除外することはできません。会社経営者としては、この基本原則を出発点として、各手当の取扱いを見直す必要があります。
02除外賃金の法的根拠と限定列挙の内容
労働基準法37条5項は、「家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金」について、割増賃金の算定基礎から除外できる旨を定めています。これを受けて、労働基準法施行規則21条が具体的な除外賃金を列挙しています。
施行規則21条が定める除外賃金には、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)があります。これらは、労働の量・質とは直接対応せず、労働者の生活事情や勤務環境に配慮して支給される性質のものとして、例外的に算定基礎から除外することが認められています。
重要なのは、これらはあくまで「限定列挙」であり、会社が就業規則等によって任意に除外できる賃金の範囲を広げることはできないという点です。施行規則に列挙されていない賃金は、名称のいかんにかかわらず、原則どおり算定基礎に含めなければなりません。
03名称でなく実質で判断される――実務上の落とし穴
除外賃金に関して実務上最も重要なのは、賃金の名称ではなく、その実質によって判断されるという考え方です。「家族手当」「住宅手当」「通勤手当」という名称を付けていても、実態が除外賃金の趣旨に合致していなければ、算定基礎から除外することは認められません。
例えば、住宅手当として全社員に一律定額を支給している場合は、住宅費用の補填という実質がなく、基本給の一部と評価されやすいため、除外賃金に該当しないと判断される可能性があります。通勤手当についても、実際の通勤費用と連動せず定額で支給されている場合は同様のリスクがあります。
また、家族手当として支給しているにもかかわらず、扶養家族の有無や人数に関係なく全員に同額を支給している場合も、労働者の属性に基づく生活補助的な性格が認められず、除外賃金とは評価されにくくなります。
さらに、「臨時に支払われた賃金」として除外しているケースでも、実際には毎月支給されていたり、一定の条件を満たせば継続的に支給されていたりする場合には、恒常的な賃金と評価され、除外賃金には当たらないと判断されます。このような形式と実態の乖離は、労働基準監督署の調査や訴訟において必ず問題になります。
04会社経営者が実務上とるべき対応
残業代算定の基礎について、まず行うべきは各種手当の実態確認です。「どのような趣旨で」「どのような基準で」「どのような場合に支給しているのか」を改めて整理し、除外賃金として取り扱うことが法令上許されるかを、客観的に検討する必要があります。
見直しの結果、除外賃金に該当しない手当を算定基礎から除外していたことが判明した場合には、過去の未払残業代リスクが生じる可能性があります。その場合、自社の運用を見直したうえで、弁護士と連携して対応方針を検討することが重要です。
また、一律定額の各種手当を支給している場合には、就業規則・賃金規程の記載を見直し、除外賃金の要件を満たす形に整備することも有効です。ただし、単に就業規則の文言を変えるだけでは足りず、実態として除外賃金の要件を満たす支給形態とする必要がある点に注意が必要です。
残業代算定の基礎は、紛争が生じて初めて問題になることが多く、日常の給与計算の中では見落とされがちです。未払残業代請求は過去2〜3年分に及ぶ可能性があり、算定基礎の誤りが長期間蓄積すると、多額の支払義務につながります。会社側弁護士として、定期的な賃金管理の見直しを強くお勧めします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長、最高裁行政との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員。2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。残業代算定の基礎・除外賃金でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
05よくある質問(FAQ)
Q1. 住宅手当を全社員に一律5,000円支給していますが、残業代算定の基礎から除外できますか?
全社員への一律定額支給は、住宅費用の補填という趣旨が認められにくく、実質的に基本給の一部と評価される可能性があります。除外賃金として扱うためには、住宅費用の実態(家賃額・持ち家か賃貸か等)に基づいて支給額を決定する仕組みにすることが必要です。現在の運用では、除外賃金に当たらないと判断されるリスクがあります。
Q2. 通勤手当は一律で月10,000円支給していますが、残業代の計算には含めなくていいですか?
通勤手当が除外賃金として認められるためには、実際の通勤に要した費用を補填する性質が必要です。通勤距離や交通費と無関係に定額支給されている場合は、労働の対価と評価され、残業代算定の基礎に含めるべきと判断されることがあります。支給基準の見直しを検討することをお勧めします。
Q3. 賞与は残業代算定の基礎に含まれますか?
1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)は、施行規則21条により除外賃金に該当するため、残業代算定の基礎には含まれません。ただし、毎月支払われている業績給や月次手当は、1か月超の条件を満たさないため、除外賃金にはなりません。支給サイクルの確認が必要です。
Q4. 就業規則に「以下の手当は残業代算定基礎から除外する」と明記すれば、除外は有効になりますか?
就業規則での明記だけでは除外は有効になりません。除外できる賃金は、労働基準法37条5項および施行規則21条によって限定列挙されており、会社が任意に除外範囲を拡張することは認められていません。形式的な記載ではなく、実態として除外賃金の要件を満たしているかが問われます。
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最終更新日:2026年5月10日