除外賃金に当たる手当とは何か ― 残業代算定から除外できる具体例と判断基準 ―
目次
1. 除外賃金とは何か
残業代算定の基礎から除外される賃金は、一般に**「除外賃金」**と呼ばれています。除外賃金とは、労働基準法37条5項および同施行規則21条に基づき、例外的に残業代算定の基礎に含めなくてよいとされている賃金を指します。
具体的には、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、一か月を超える期間ごとに支払われる賃金が、法律上の除外賃金として挙げられています。もっとも、これらは除外賃金となり得る典型例にすぎず、必ず除外できるという意味ではありません。
重要なのは、除外賃金に該当するかどうかは、手当の名称や就業規則上の表現ではなく、実際の支給実態によって判断されるという点です。「家族手当」「住宅手当」といった名称で支給されていても、その実質が労働の量や質に対する対価と評価される場合には、残業代算定の基礎に含めなければなりません。
また、除外賃金の規定は、残業代算定の原則に対する例外規定です。そのため、解釈は慎重に行われ、疑義がある場合には、算定基礎に含める方向で判断される傾向があります。会社経営者としては、「除外できる賃金は限定的である」という前提を持つことが不可欠です。
次項では、具体的に家族手当がどのような場合に除外賃金に該当するのかについて、実務上の判断ポイントを整理していきます。
2. 家族手当が除外賃金に該当する場合
家族手当は、除外賃金の中でも比較的イメージしやすい手当ですが、どのような支給方法であれば除外賃金に該当するのかについては、実務上の判断を誤りやすい項目です。
典型的な家族手当とは、扶養家族のある労働者に対して、扶養家族の人数や構成に応じて支給される手当をいいます。例えば、配偶者や子どもといった扶養家族の人数を基準に算出されている場合には、労働の対価というよりも生活補助的性格が強く、除外賃金に該当すると考えられます。
また、扶養家族の人数を基準として算出された基礎額に、一定額を上乗せして支給される家族手当付加額についても、その趣旨や算定方法が扶養家族の存在に結び付いている限り、除外賃金に該当する余地があります。
一方で、家族手当という名称であっても、家族の人数や扶養状況に関係なく一律に支給されている手当や、本人分として支給されている手当、独身者に対しても同額が支給されているような手当については、生活補助的性格が弱く、除外賃金に該当しない可能性があります。
会社経営者としては、「家族手当」という名称だけで除外賃金と判断するのではなく、支給対象、算定基準、支給趣旨が扶養家族の存在と結び付いているかを丁寧に確認する必要があります。この点が曖昧な場合には、残業代算定の基礎に含めるべき賃金と評価されるおそれがあるため、注意が必要です。
3. 通勤手当が除外賃金に該当する場合
通勤手当については、比較的多くの会社で支給されている一方、残業代算定の基礎から除外できるかどうかを誤解されやすい手当でもあります。通勤手当が除外賃金に該当するかどうかは、その支給方法と趣旨によって判断されます。
典型的に除外賃金に該当するのは、通勤に要する実費を補填する目的で支給されている場合や、通勤距離や通勤方法に応じて算出されている場合です。このような通勤手当は、労働の量や質に対する対価ではなく、通勤に伴う費用負担を補う性質のものと評価されるため、残業代算定の基礎から除外することが認められます。
一方で、「通勤手当」という名称であっても、通勤距離や実際の通勤費用とは無関係に、一定額が一律に支給されている場合には、除外賃金に該当しない可能性があります。実態としては、基本給の一部や生活補助的な賃金として機能していると評価されるおそれがあるためです。
また、通勤の有無にかかわらず支給されている場合や、在宅勤務者にも同額が支給されているようなケースでは、通勤費用の補填という趣旨が失われており、残業代算定の基礎に含めるべき賃金と判断されやすくなります。
会社経営者としては、通勤手当について、「通勤に要する費用との対応関係があるか」「支給基準が合理的に設定されているか」という点を改めて確認する必要があります。名称だけで判断せず、実際の支給実態が通勤費補填として説明できるかを基準に整理することが重要です。
4. 別居手当が除外賃金に該当する場合
別居手当は、すべての会社で支給されているわけではありませんが、支給している場合には、除外賃金に該当するかどうかを慎重に判断すべき手当の一つです。別居手当が除外賃金と認められるかどうかは、その支給目的と支給要件によって判断されます。
典型的な別居手当とは、勤務上の都合により、労働者が同一世帯の扶養家族と別居せざるを得なくなった場合に、二重生活による生活費の増加を補填する趣旨で支給される手当をいいます。このような性質の別居手当は、労働の対価というよりも生活補助的な性格が強いため、除外賃金に該当すると考えられます。
例えば、転勤命令により単身赴任となった労働者に対して、別居の事実を要件として支給されている場合には、除外賃金として扱える可能性があります。この場合、別居していること自体が支給要件となっており、業務の量や成果とは直接結び付いていない点が重要です。
一方で、別居手当という名称であっても、別居の実態と無関係に一律で支給されている場合や、実質的に賃金の一部として機能している場合には、除外賃金に該当しない可能性があります。支給理由が不明確であったり、別居による生活費増加との関連性が説明できない場合には、残業代算定の基礎に含めるべきと判断されやすくなります。
会社経営者としては、別居手当について、「なぜ支給しているのか」「どのような場合に支給されるのか」を明確に整理し、二重生活の補填という趣旨と支給実態が一致しているかを確認する必要があります。この整理が不十分な場合には、未払残業代のリスクにつながるおそれがあるため、注意が必要です。
5. 子女教育手当が除外賃金に該当する場合
子女教育手当は、労働者本人の労働の量や質に対する対価ではなく、被扶養者である子女の教育に要する費用を補助する目的で支給される手当である場合に、除外賃金に該当すると考えられます。
典型的には、子どもが就学していることを要件として支給されるものや、子どもの人数や学年に応じて支給額が定められているものが該当します。このような子女教育手当は、生活補助的な性格が強く、残業代算定の基礎から除外することが認められる可能性があります。
一方で、「子女教育手当」という名称であっても、子どもの有無や就学状況と無関係に一律で支給されている場合や、本人分として支給されている場合には、除外賃金に該当しない可能性があります。支給実態として、労働の対価の一部として機能していると評価されるおそれがあるためです。
また、支給要件が形式的に定められているだけで、実際には確認や管理が行われていない場合にも、除外賃金としての性格が否定されるリスクがあります。実態として子女の教育費補助といえるかどうかが重要です。
会社経営者としては、子女教育手当について、「誰に」「どのような条件で」「何のために」支給しているのかを明確に説明できる状態にしておく必要があります。支給趣旨と支給実態が一致していなければ、残業代算定の基礎に含めるべき賃金と判断される可能性があるため、注意が必要です。
6. 住宅手当が除外賃金に該当する場合
住宅手当については、多くの会社で導入されている一方、除外賃金に該当するかどうかの判断を誤りやすい手当の一つです。住宅手当が除外賃金と認められるかは、その支給方法と算定基準が、住宅に要する費用とどの程度結び付いているかによって判断されます。
典型的に除外賃金に該当すると考えられるのは、住宅の賃料や住宅ローンの負担額、居住形態など、住宅に要する費用に応じて算出されている場合です。例えば、賃貸住宅か持家かによって支給額が異なる場合や、家賃額に応じて一定割合または上限付きで支給されている場合には、生活補助的性格が強く、除外賃金と評価される余地があります。
一方で、「住宅手当」という名称であっても、住宅の形態ごとに一律の定額を支給している場合や、住宅費とは無関係な基準で支給されている場合には、除外賃金に該当しない可能性があります。また、住宅の有無にかかわらず全社員に一律で支給されているようなケースでは、実質的に基本給の一部と評価されやすく、残業代算定の基礎に含めるべきと判断されるおそれがあります。
さらに、住宅以外の要素、例えば勤続年数や職位などに応じて支給額が決められている場合には、住宅費補助という趣旨が弱くなり、労働の対価としての性格が強いと評価される可能性があります。このような場合には、除外賃金として扱うことは困難です。
会社経営者としては、住宅手当について、「住宅に要する費用の補填」という趣旨と、実際の支給基準・支給額が整合しているかを改めて確認する必要があります。名称だけで判断するのではなく、住宅費との対応関係を具体的に説明できるかが、除外賃金に該当するかどうかの重要な判断ポイントとなります。
7. 臨時に支払われた賃金の考え方
臨時に支払われた賃金も、除外賃金として位置付けられていますが、実務上は**「臨時」といえるかどうか**が争点となりやすい項目です。臨時に支払われた賃金とは、支給条件自体は定められているものの、支給事由の発生がまれであり、恒常的に支払われるものではない賃金を指します。
典型例としては、結婚祝金、出産祝金、病気見舞金、災害見舞金など、労働者の個人的事情を契機として、例外的に支払われるものが挙げられます。また、寒冷地における一時的な寒冷対策として支給される寒冷地手当なども、支給が限定的・例外的である場合には、臨時に支払われた賃金として除外賃金に該当する可能性があります。
一方で、「臨時」という名称を用いていても、実際には毎月支給されている場合や、一定の条件を満たせば継続的に支給される仕組みとなっている場合には、臨時に支払われた賃金とは評価されません。このような賃金は、実質的に恒常的な労働の対価とみなされ、残業代算定の基礎に含めるべきと判断されるおそれがあります。
会社経営者としては、臨時に支払われた賃金について、「支給の頻度」「支給事由の性質」「恒常性の有無」という観点から、客観的に説明できるかを確認する必要があります。支給が常態化している場合には、除外賃金として扱うことは困難であり、未払残業代リスクにつながる点に注意が必要です。
8. 一か月を超える期間ごとに支払われる賃金
一か月を超える期間ごとに支払われる賃金も、法律上、残業代算定の基礎から除外できる賃金として位置付けられています。典型例としては、**賞与(ボーナス)**が挙げられます。
このような賃金が除外賃金とされている理由は、毎月の労働時間に対応する対価とは性質が異なり、一定期間の勤務実績や業績などを踏まえて、まとめて支給される性格のものであるためです。そのため、通常は残業代算定の基礎に含める必要はありません。
もっとも、支給時期が一か月を超えているからといって、必ず除外賃金に該当するわけではありません。例えば、名称上は「賞与」や「奨励金」とされていても、実質的に毎月の賃金の一部を分割して支給しているにすぎない場合には、除外賃金とは認められない可能性があります。
また、支給額や支給条件が事前に厳格に定められており、実態として毎月の労働の対価と強く結び付いている場合には、「一か月を超える期間ごとに支払われる賃金」とはいえず、残業代算定の基礎に含めるべきと判断されるおそれがあります。
会社経営者としては、「支給間隔が長い」という形式面だけで判断するのではなく、その賃金がどのような趣旨で、どのような性格のものとして支給されているのかを整理する必要があります。実質的に月例賃金の一部と評価される場合には、除外賃金として扱うことはできないため、注意が必要です。
9. 会社経営者が実務で注意すべきポイント(まとめ)
除外賃金は、残業代算定の原則に対する例外的な取扱いにすぎません。家族手当、通勤手当、住宅手当など、法律上列挙されている手当であっても、当然に除外賃金となるわけではなく、実際の支給実態に基づいて判断されるという点を、会社経営者は改めて認識しておく必要があります。
特に重要なのは、賃金や手当の名称ではなく、その性質・趣旨・算定基準が問われるという点です。生活補助的な性格を有し、労働の量や質に直接結び付かないものであれば除外賃金に該当する余地がありますが、実質的に基本給の一部や労働の対価として機能している場合には、残業代算定の基礎に含めなければなりません。
また、就業規則や賃金規程に除外賃金として定めているだけでは不十分です。労働基準監督署の調査や未払残業代請求の場面では、実際の運用が規程どおりになっているか、規程自体が除外賃金の趣旨に合致しているかが厳しく確認されます。
会社経営者としては、各種手当について、「なぜ支給しているのか」「何を基準に金額を決めているのか」「誰に対して支給しているのか」を整理し、第三者に対しても合理的に説明できる状態にしておくことが重要です。曖昧なまま除外賃金として扱っていると、後から多額の未払残業代請求につながるおそれがあります。
除外賃金の判断は、日常業務では見過ごされがちですが、紛争が生じた場合には必ず問題となるポイントです。会社経営者としては、「これまでの慣行」ではなく、法令と実質に照らして適切かどうかという視点で、定期的に賃金制度を見直すことが、労務リスクを回避するための重要な経営判断といえるでしょう。
