労働問題906 年休中に労働組合加入を勧誘する社員を懲戒処分できるのか|会社経営者が押さえる判断基準

1.年次有給休暇の取得目的と会社の関与限界

 年次有給休暇は、労働基準法に基づき労働者に保障された権利であり、その取得目的について会社経営者が干渉することはできません。年休を取得する理由が私的な用事であっても、自己研鑽であっても、あるいは労働組合に関する活動であっても、その点だけを理由に問題視することは許されていません。

 会社経営者の中には、「事業所内で組合活動をされるのは困る」「会社の秩序を乱すのではないか」と感じる方も少なくありません。しかし、年休中は労務提供義務が免除されている時間帯であり、その時間をどのように使うかは労働者の自由というのが原則です。

 したがって、年次有給休暇を取得した社員が、事業所に立ち寄り労働組合への加入を勧誘していたとしても、「年休の使い方が気に入らない」という理由だけで懲戒処分を行うことはできません。この原則を正しく理解しておかないと、後に法的リスクを抱えることになります。

2.年休中の組合加入勧誘は懲戒対象になるのか

 結論から言えば、年次有給休暇中に労働組合への加入を勧誘していたこと自体を理由として、懲戒処分を行うことはできません。前述のとおり、年休中は労務提供義務がなく、その時間の使い方は労働者の自由に委ねられているためです。

 また、労働組合への加入や組合活動は、憲法および労働組合法によって保障された行為です。会社経営者が、組合加入を勧誘したことそのものを問題視し、懲戒処分や不利益な取扱いを行った場合、組合活動に対する介入と評価されるリスクが生じます。

 特に注意すべきなのは、「会社の敷地内で行われたから問題だ」「会社のイメージを損なうから許されない」といった感覚的な理由で判断してしまうことです。これらの理由だけでは、懲戒処分の正当性を基礎づけることはできません。

 会社経営者として重要なのは、組合活動そのものと、業務への支障が生じる行為とを切り分けて考えることです。懲戒処分を検討すべきかどうかは、次項で説明する「業務妨害」に該当するかどうかが判断の分かれ目になります。

3.就業時間中の組合勧誘と業務妨害の考え方

 年次有給休暇中の組合勧誘は問題にならない一方で、就業時間中の他の労働者に対する組合加入勧誘は、業務妨害に該当する可能性があります。ここを混同してしまうと、会社経営者として適切な対応ができなくなります。

 就業時間中の労働者は、会社に対して労務を提供すべき立場にあります。その時間帯に、業務とは無関係な組合加入の勧誘を受ければ、作業の中断や生産性の低下を招くことになります。このような行為は、組合活動であっても無制限に許されるものではありません

 重要なのは、「組合活動だから一切注意できない」と考えないことです。問題となるのは組合活動そのものではなく、業務に支障を生じさせている点です。業務時間中に執拗な勧誘を行っている、複数の社員の業務を長時間止めている、といった事情があれば、業務妨害として是正の対象になります。

 会社経営者としては、感情的に強い対応を取るのではなく、業務への具体的な支障があるかどうかを冷静に把握することが不可欠です。この事実整理が不十分なまま懲戒処分に踏み切ると、後に不当労働行為と評価されるリスクが高まります。

4.注意指導を行う際の実務上の進め方

 就業時間中の組合勧誘が業務に支障を生じさせている場合であっても、いきなり懲戒処分に進むべきではありません。会社経営者としては、まず注意指導を段階的に行うことが重要です。

 最初の対応としては、口頭での注意が基本となります。この段階では、組合活動そのものを否定する言い方は避け、「就業時間中に業務が中断されている」「他の社員の作業に支障が出ている」といった、業務上の問題点に限定して伝えることがポイントです。

 口頭注意を行っても改善が見られない場合には、「注意書」や「厳重注意書」といった書面による注意指導を検討します。書面には、いつ、どこで、誰に対して、どのような行為があり、どのような業務上の支障が生じたのかという点を、5W1Hを意識して具体的に記載してください。抽象的な表現では、後に問題が生じた際の証拠として不十分になります。

 この段階でも重要なのは、あくまで業務妨害行為の是正を目的とすることです。組合への加入勧誘自体を問題にしていると受け取られないよう、表現や指導内容には細心の注意を払いましょう。

5.懲戒処分を行うために会社経営者が整えるべき前提

 注意指導を重ねても改善が見られず、業務に現実的な支障が生じている場合には、懲戒処分の検討段階に入ることになります。ただし、懲戒処分は会社経営者が自由に行えるものではなく、事前に整えておくべき前提条件があります。

 まず重要なのは、懲戒の種類および懲戒事由が就業規則に明記されていることです。譴責、減給、出勤停止、解雇など、どのような行為に対して、どの程度の懲戒を行うのかが明確になっていなければ、懲戒処分は無効と判断される可能性があります。

 また、就業規則は作成するだけでは足りず、社員が見ようと思えばいつでも確認できる状態で周知されていることが必要です。周知が不十分な場合、たとえ業務に重大な支障が生じていたとしても、懲戒処分の有効性が否定されるリスクがあります。

 会社経営者としては、「問題行動があったから処分する」という発想ではなく、就業規則というルールに基づいて対応しているかを常に意識することが重要です。この視点が欠けると、正当な対応であっても法的には認められない結果になりかねません。

6.不当労働行為とならないための懲戒処分の注意点

 組合活動に関連する行為について懲戒処分を行う場合、会社経営者が最も警戒すべきなのが、不当労働行為と評価されるリスクです。特に、組合員や組合活動を理由として不利益な取扱いを行ったと判断されると、懲戒処分は無効となる可能性があります。

 そのため、懲戒処分を検討する際には、処分理由があくまで業務妨害行為にあることを明確にする必要があります。組合加入の勧誘をしたこと自体や、組合活動に参加していることを理由にしてはいけません。

 また、処分の重さにも注意が必要です。よほど悪質な言動や重大な業務支障が認められる場合を除き、いきなり重い懲戒処分を選択することは避けるべきです。まずは、譴責や減給といった比較的軽い懲戒処分から検討し、段階的な対応を心掛けることが重要です。

 会社経営者としては、「組合活動だから我慢する」「問題社員だから強く処分する」といった極端な判断を避け、業務秩序の維持と法的リスク回避のバランスを取った対応を行うことが求められます。これが結果的に、会社を守る最善の選択となります。

 

最終更新日2026/2/4

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